ひらめきブックレビュー

派遣切りで自宅はゴミ屋敷… 「家」に見るコロナの闇 『不動産大異変』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 賃借人には「善管注意義務」が課せられている。人から借りたものであっても、自分のもののように大切に扱わなくてはいけない、という義務だ。著者は女性と向き合い、ゴミの片づけや生活費の補助制度についてアドバイスをした。心を落ち着かせた女性は、助言に従い住居確保給付金を申請し、ゴミ片付けの業者を手配することを決意。なんとか前に進むことができたが、「声をかけてもらえなかったらどうなっていたかわからない」と漏らす。実際、家族を含めて誰にも相談できず、生活苦で自殺してしまう痛ましい事態も起きている。

■積極的にコミュニケーションを取る

そんな中、普段以上に入居者とコミュニケーションを取る大家もいる。入居者の不安を取り除こうと「大丈夫?困ったことはない?」と声をかけ続けた結果、コロナ禍での退去や家賃滞納は1件もなかったそうだ。「住まいを提供している訳だから、人の人生にも関わっているんだしね」とその大家は語る。

新しい住まいの形として、シェアハウスを進化させたコレクティブハウスが、本書では紹介されている。水回りを含めて各戸は独立しながら、共同のキッチンやリビングを活用できる。入居者同士で運営方針を決めて、緩やかにつながりながら生活することができると、いま注目を集めているのだ。

私自身、本書をきっかけに近所の人との挨拶を意識して行うようにした。それだけでも心に余裕が出てくるものだ。「家」を通して、自分の生き方についても考えさせられる一冊だ。

今回の評者 = 若林智紀
情報工場エディター。国際機関勤務の後、人材育成をテーマに起業。その後、ホテル運営企業にて本社人事部門と現場マネージャーを歴任。多岐にわたる業界経験を持つ。千葉県出身。東大卒。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。