
これまでの働き方が、見直しを余儀なくされている。そもそもどんな働き方がベストかと、模索している人も多いだろう。そんなときには、大先輩の話を聞いてみてはどうだろうか。
本書『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』は、実業家、教育者である出口治明氏と、社会学者の上野千鶴子氏が「働き方観」をぶつけあったものだ。自らの体験も交えながら、非正規雇用や年功序列、学歴・性差別など日本の労働環境の諸問題を点検。今回のコロナ禍を変化への起爆力ととらえ、誰もが幸せに働くための処方箋を示している。
出口氏は、ライフネット生命保険の創業者で、現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長。上野氏は東大名誉教授、女性たちの自由な活動を支える認定NPO法人ウィメンズアクションネットワークの理事長を務めている。なお2人は京都大学の同期生だ。
■年齢フリーの働き方
出口氏が唱えるのが「性別フリー、年齢フリー、国籍フリー」の働き方だ。例えば、フランスのように、育児休業から復帰した社員のキャリアダウンを禁止する法律の必要性を説く。それに対し上野氏は、マタニティハラスメントを禁止する法律はあるのに、日本企業は外部から調査できない査定を下げて、復帰社員の実質的な降格をしていると指摘。建前と本音(実態)の差を鋭く突っ込んでいる。
また定年後の再雇用について。同じ仕事をして同じ能力があるのにも関わらず、定年を迎えた途端、賃金が下がる。これもまた「再雇用してもらっているだけ感謝しなさい」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)だと出口氏。再雇用者の意欲が低下していることを考えても、年功序列給のいびつさだと、上野氏も応じている。
■「あきらめ」がモチベーションに
意外なのは両名とも「流されて」「受動的に」仕事をしてきたと語るところだ。出口氏はライフネット生命の開業も、APUの学長就任も、縁あってのことで自ら望んだのではないという。「あきらめをモチベーションにする」という表現を使っているが、目の前のことに集中し精いっぱい仕事をするというのが、その意味だ。上野氏も、フェミニズム業界に他に役者がいなかったため仕方なく矢面に立ったと胸の内を明かしている。
その上で、置かれた状況での努力も怠らなかった。上野氏は、教授会で味方をつくる言い方や根回しをしたり、女子短大で教えていたときは、学生の信頼を獲得するために、身近な話題に繋げるなど授業を面白くする細やかな工夫していたそうだ。
対談中強調されるのは、どんな環境であっても、自分の頭と言葉を使って考え、表現することの大切さ。これを出口氏はロジカルシンキングと呼び、上野氏は人間としての幸せの条件だと説く。昭和から令和まで、時代を切り拓いてきたプロフェッショナルからの、貴重なアドバイスだ。
情報工場エディター。海外経験を生かし自宅で英語を教えながら、美術館で対話型鑑賞法のガイドを務める。ビジネスパーソンにひらめきを与える書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。慶大卒。