来週の8月11日は「山の日」。登山やキャンプを楽しむ人たちを支えている国内企業の雄がアウトドア用品大手のモンベル(大阪市)だ。フランス語に由来する「mont-bell」ブランドが有名で外国企業と間違われやすいが、大阪市で1975年に創業した、れっきとした日本企業だ。同社が山好きの間で不動の人気を誇る理由を探った。
特殊な成り立ちの原点は創業者に
結論から言ってしまえば、モンベルの強さは社員の厚みと熱量にある。現在は1200人を超える社員は「全員がアウトドア好き。だから、自分たちが欲しい商品を進んで企画する」と、常務取締役広報本部長の竹山史朗氏は当たり前のように言う。
しかし、一般論でいえば、電機メーカーで働く人すべてがエレクトロニクスを趣味にしているわけではないだろうし、すべての銀行員がマネー通とは限らない。でも、モンベルは違う。本物のアウトドア好きが「志」を持ち寄るように集まって企業体が成り立っている点で、一般的な「企業」とはやや性質が異なってみえる。つまり、単なる「職場」ではない。
特殊な成り立ちの原点は創業者にありそうだ。モンベルをゼロから立ち上げた辰野勇会長はもともと有名なアルピニストで、69年には当時の世界最年少でアルプスの三大北壁の1つであるアイガー(スイス)北壁の登はんに成功している。登山用品店や商社での勤務を経て、モンベルを興した。その後、多くの社員は辰野会長の背中を追うようにモンベルへ入った。創業精神の「自分たちの手で自分たちの欲しい山道具を作ろう」は社風として今も受け継がれている。
「創業者がそういう人だから、今の社員も自分たちがユーザーなので、ユーザーが欲しいものが分かる。モンベルは愛好者に根差したブランド」(竹山氏)。ユーザーに寄り添う姿勢がモンベルの背骨になっている。「あったらいいな」や「もっとこうだったらいいのに」といった、アウトドアの現地で感じるニーズや不満を数々の商品開発に生かしてきた積み重ねが信頼の裾野を広げていった。
働き手の確保はどの企業にとっても悩ましい課題となっているが、モンベルは事情が異なる。積極的な採用活動は仕掛けていない。「募集は基本的に公式ホームページでの告知だけ」という。にもかかわらず、「働きたい人が自然に集まってくる。アウトドアが趣味の人にとって憧れの職場に映っているようだ」(竹山氏)。企業ブランディングが優れた人材を引き寄せる好循環は全社員が情熱的開発チームという人的資産の宝庫をもたらした。