NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム

日本の砂浜・海岸にはビジネスチャンスが埋まっている 清野聡子・九州大学大学院工学研究院准教授に聞く

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海洋保全から干ばつ・渇水まで――。「2023年国連水会議(UN 2023 Water Conference)」が3月下旬、米ニューヨークで開催され世界の水利用・水管理を解決していくために200を超える国・機関が集まった。九州大学の清野聡子・大学院工学研究院准教授も参加し、同会議のサイドイベントなどで日本の事例を紹介した。「NIKKEI ブルーオーシャン・フォーラム有識者会議」のメンバーである清野氏は「世界の若い世代が現在進行形で水問題解決へのイノベーションを起こしている。日本の海岸には新たな商機が埋まっている」と説く。

国連事務総長が訴えた「水問題のゲームチェンジ」

――国連水会議では天皇陛下がビデオ講演され、日本が存在感を示しました。総理特使や熊本市長らも出席しました。水に特化した国連会議は46年ぶりです。

清野氏(以下略)「国連のグテレス事務総長らからは『ソリューション』『ゲームチェンジ』という言葉が多く聞かれました。国連が単なる調停・仲裁機関としてではなく、率先して水問題の解決に取り組もうという意欲を感じました。サイドイベントでは河川と海洋の水問題を一体化させた日本の取り組みを紹介しました。世界的に似たケースは少なく、参加者から様々な質問を受けました」

「世界の水問題には国・自治体や地域住民をはじめグローバル企業や水産業界など多種多様なステークホルダーが関係しています。『水会議』では課題解決のために国際的な投資を呼び込むルール作りもテーマに挙がりました。さらに新たなステークホルダーとして『ユース(youth)=若者』が認められたことが大きな収穫でした」

若者層の持つDX技術が環境保全のカギを握る

――Z世代ら環境問題に取り組む若者層には、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんのように、理想を掲げて激しく主張するイメージもあります。

「現在は さらに一歩進んでいます。 DX (デジタルトランスフォーメーション)技術で若い世代が課題解決の新システムを実用化するケースが出ています。アフリカのルワンダでは井戸水の安全性をモニタリングする機器を現地の若者が開発しました。アジア開発銀行などの国際機関は、『キャパシティー・ビルディング』と呼ぶ能力開発プログラムを通じ、10代の発想が企画立案から社会実装につながるステップアップを応援しています」

――清野氏は九州大学で海洋生物の生態系から沿岸地域の社会システム、持続可能な水産業など幅広い研究分野を手掛けています。教職以外にもボランティア組織などと連携し、海洋保全について日本のZ世代らに日ごろ最も多く接している研究者の一人です。

「日本の若者が海洋保全に強い問題意識を持つのは理想論からだけではありません。10〜20年後という人生の途中で、海洋環境悪化の影響を受けるかもしれないという現実主義的な視点を持っています。理想だけを掲げて世代間で対立するのではなく、親子世代が協力しあい、IT技術などを活用して社会課題に取り組む時代が来ています」

海洋保全ビジネスはDX・企業研修・砂浜再生

――「海洋保全」をキーワードに日本の海岸には新ビジネスに結びつくさまざなニーズがあると分析していますね。

「まずDX分野です。福岡県の『BC-ROBOP海岸工学会』は大量に漂着するゴミ問題向けにビーチクリーンに利用するロボットを試作しました。林業用ロボット技術を転用し九州工業大学が開発しました。専用のゴミ箱をけん引し、人とロボットが一緒に清掃活動を行うゴミ回収運搬ロボットです。夏や冬の海岸でのゴミ拾いは過酷です。これでボランティアの負担を大きく軽減できます。回収したゴミを人工知能(AI)で分析すれば、どの季節にどんなゴミがどれだけ漂着するかが分かり対策を立てられます」

――企業研修向けのニーズもありそうです。ブルーエコノミーと呼ぶ海洋や沿岸からもたらされる財やサービスの経済的価値は30年までに3兆ドル(約327兆円)、雇用者が4千万人に達するとの予測があります。ただ海が健全な状態であることが前提です。

「企業にとって環境悪化は具体的な経営リスクに結びつきます。海を守りながら経済や社会を持続的に発展させようという考えが浸透しています。『九州大学うみつなぎ』は福岡の海や自然をフィールドに、持続可能な循環型社会と海ごみ問題をテーマにしており、企業研修も実施しました。実際に海浜のゴミ回収などを体験学習し、現役の漁師の方の経験談などを聞いてもらっています。座学だけでは知り得ないブルーエコノミーの実像に接してもらっています」

――第3のニーズとして砂浜再生を挙げています。

「最近の15年間で日本の砂浜は1割以上が侵食により失われたとされます。砂浜海岸は波の浸入を防ぐ防災上の役割だけでなく、ウミガメなど動植物の生息や地域住民の利用の場としても重要です。何より観光産業として海水浴場運営を通じ地域経済のにぎわい創生、サービス拡充に寄与できます」

「米カリフォルニア州の海岸では冬季に砂浜を再生して景観を確保し夏季の利用増加を目指しています。国内では湘南地方や東北、宮崎で砂浜再生が進んでいます。これらの砂浜再生事業の現場を担うのは地域の自然条件を熟知する各地の土木会社です。砂浜の生態系の管理も今後重要な産業のひとつとなるでしょう。経営の多角化につながりDX化も進められます」

「海洋保全は100人のステークホルダーがいれば、100人の意見が一致することはまずありません。漁業、農業、観光産業などで微妙に食い違う利害関係を調整しつつ、ブルーエコノミーを成長させていくことが最適解につながると考えます」

(聞き手は松本治人)

「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム」とは
海の環境を守り、その資源を正しく利活用する方策や仕組みを考え、内外に発信していく目的で、日本経済新聞社と日経BPは「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム」を設立しました。清野聡子氏など海洋に関連する多様な領域の専門家や企業の代表らによる有識者委員会を年4回のペースで開き、幅広い視点から議論を深めて「海洋保全に関する日本からの提言」を作成します。清野氏は2023年5月に開催する「日経SDGsフェス」のパネル討論会に登壇する予定です。

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