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生成AIは「平均的な仕事」飲み込む 英オズボーン教授 NIKKEI生成AIコンソーシアム第2回会合 講演から

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日本経済新聞社は生成AI(人工知能)の潜在力と課題を議論する「生成AIコンソーシアム」の第2回会合を2023年10月17日、東京都内で開催した。AI・機械学習の世界的権威である英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が、生成AIが私たちの仕事や雇用に与える影響について講演した。

オズボーン教授は日本のAIベンチャーであるエクサウィザーズ(東京・港)の顧問も務める。経済学者のカール・B・フレイ氏との共著の形で13年に公開した論文「雇用の未来」は、AIが人間の働き方に与える影響を考察して注目された。

オズボーン氏の講演での発言要旨は以下の通り。

創造性と社会的知性で大きな進歩

「『雇用の未来』を発表した10年前、多くの人がAIが雇用に影響をもたらす可能性について懐疑的だった。当時、『最も自動化の可能性が高い』と推定した職業の1つがファッションモデルだった。『ロボットがファッションショーのキャットウォークを歩けるのか』という質問をたびたび受けた」

「現在、ロボットはファッションモデルの代わりになっていない。しかし、生成AIを使ってデジタルモデルを提供する企業は出てきた。デジタルモデルは人間の数分の1のコストで提供でき、髪形でも年齢でも体形でも自由自在に変えられる。デジタルモデルはAIの導入例にすぎない。AIはより多くの分野で大きな役割を果たすようになった」

「私たちは13年当時、創造性と社会的知性という2つの分野において、人間が機械に対して優位性を保つだろうと考えていた。しかし、その後の10年間で生成AIが登場し、まさにこの2つの分野で大きな進歩を遂げている。こうした事実はどういう意味を持つのか。 『雇用の未来』の共著者で、友人・同僚でもあるカール(・B・フレイ氏)と議論し、じっくりと考えてみた」

労働市場で魅力的な「相手にインパクトを与える能力」

「1つの答えは、人間が行ってきた仕事をAIが担うようになればなるほど、人間的な触れ合い、つまり実際に顔を合わせて人と接することの重要性が増すということだ。直接会って相手にインパクトを与える能力は、今後の労働市場において最も魅力的な特性のひとつとなるだろう」

「現在の生成AIは、創造性や社会的知性において、人間のレベルに達していない。驚くべき欠陥は多数あり、幼児でさえ正確に返答できそうな答えを間違ったりもする。AIの技術は日々進化しているが、肝心なことは、これらのモデルにどれだけの欠陥があるのかがわからないということだ。『なにがわかっていないのかが、わかっていない』し、問題が起きた時にはじめて、期待していたほどには世界について理解していなかったことに気づく。現在、世界最高の生成AIに使われているモデルですら、どれだけの欠陥があるのかはわからない」

「もう1つ強調したいのが、ほとんどの大規模言語モデルは『平均に向かって流れる』という点だ。大規模言語モデルはインターネットに存在する文章を集めて学習するので、アウトプットもインターネットにある平均的な文章になっていく。率直に言って、文章の質としてはそれほど良いものではない。非凡なものを生み出すように誘導するのは非常に難しいことだ。これは労働市場にとって何を意味するのだろうか」

「多くの仕事、例えば、特定の契約書や請求書、報告書は平均的な品質のアウトプットしか必要としない。すなわち、平均的な品質しか必要としなかった数多くの仕事が、AIの進歩によって悲惨な状況に陥る可能性があるということだ」

「例えば、機械翻訳は他の言語を使う能力が平均以下である人々には非常に役立つ。一方で、平均以下の翻訳能力しかない翻訳者にとっては、仕事上の優位性を失う結果になる。だが、同時通訳のような高いスキルを持つ人々はアウトプットの品質が平均を大きく上回るので、当面はAIの影響を受けないだろう」

AIが生み出す新たな機会

「AIが創造性や芸術に与える影響について考える場合には、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、写真の登場で起きたことを考えるのが近道だ。写真に抗議する芸術家たちは、写真を『魂のないもの』『制作に技術を必要としないもの』と見なした。写真それ自体がアート作品である、とみなされること自体に多くの反対意見があった。このことは、『AIをアート制作に使うべきか』という議論の映し絵であり、興味深い」

「写真の登場が新たな機会を生み出したように、AIが新たな機会を生み出すと考えている。アーティストである私の妻もその一人だ。彼女はAIをツールとして導入することで、続々と興味深い作品を生み出している」

「現在、生成AIは急速に変化しているが、変化のペースがずっとこのまま続く保証はないことは認識しておきたい。テック企業は大規模言語モデルの学習に使うデータについて、すでにネットの大半を探索し切っている。そして実際、生成AIから出力された文章によってインターネットは汚染されはじめており、結果として学習効率は落ちている」

「プロセッサーの進化も勢いが衰えている。また、高性能な半導体は台湾や日本などの限られた地域で生産され、台風などの災害に見舞われる可能性も懸念される。生成AIの学習にはさらに多くのエネルギーを投入する必要があるが、私たちはエネルギー危機に直面している。気候変動という課題に取り組むためには、(温暖化ガス排出量の)ネットゼロを達成しなければならない」

利益を生むかはいまだ不明

「なにより重要なのは、生成AIが利益を生むかどうか、実はまだわからないという点だ。私を含め多くの人々が生成AIを検索代わりに使っている。だが、研究者たちは、Chat(チャット)GPTのプロンプト(指示文)に対する返答は、グーグルが検索結果を返すのに比べて約10倍ものコストがかかると見積もっている。今は初期段階なのでコストが受容されているが、長期的に負担し続けられるほど収益をもたらすかはわかっていない」

「ではどうすればいいのか。自動車を例に考えてみよう。20世紀初頭は、内燃機関のエンジンよりも電気自動車が主流だった。しかし、石油の発見によって内燃機関の運用コストが劇的に下がり、電気自動車は退場を余儀なくされた。もしも20世紀の早い時期から石油に税金をかけ、公害をもたらす自動車を路上から追い出し、代わりに電気自動車の開発を続けていたら、どうなっていただろう」

「今度はAIで同じことができないだろうか。例えば、データに税金をかければ、現在のモデルが抱えている多くの弊害を抑制し、代わりに人間の繁栄をもたらすことに集中する方向に進化させたAIモデルを開発することになるかもしれない」

(ライター 西田宗千佳)

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