アフターコロナの地方創生

バスケ普及で地域振興 夢を提供するBリーグへ 日経地方創生フォーラム スポーツを通じた地方創生〜B.LEAGUEの最新事例から考える〜

講演 地方創生 パネル討論

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

「スポーツ」を活力源として地域力向上を目指す動きが各地で始まっている。前回はラグビーを求心力に地域づくりを進める岩手県釜石市で行われた「日経地方創生フォーラム」、今回はスポーツ編第2弾として、プロバスケットボールBリーグおよび所属各クラブのバスケ振興を地域活性化につなげる取り組みにスポットを当てる。集客の目玉となる新アリーナが続々と誕生、エンターテインメント性を強調した演出で若者や女性ファンの心を捉える一方、地元小・中学校への選手・指導者派遣やスポーツ教室、各種イベントの開催など地元に根付いた活動で存在感を高めるBリーグ。バスケ普及への熱い思いを語るリーグ、球団経営のリーダーらによる講演やパネルディスカッションを通じ、地域スポーツの今後を展望してみたい。

【ご挨拶】

夢のアリーナ続々と誕生 

島田 慎二氏 B.LEAGUE チェアマン

Bリーグは2016年の創設以来、3つのミッションに取り組んできた。まず世界に通用する選手、クラブの輩出。日本代表を強化するエンジンとして個々の選手の水準を上げ、世界大会で活躍できるチームの実現を目指す。

2つ目がエンタメ性の追求。アリーナスポーツは演出などの仕掛けがやりやすく、空間が暗転したり、光や音、ダンスなどを取り入れたりすることも自在だ。コンサートやライブに来たような感覚も一緒に味わえる。

最後が、地方創生の1丁目1番地ともいうべき夢のアリーナ実現だ。Bリーグではハード(アリーナ)とソフト(クラブ)の連携・連動によって地域を盛り上げていくことを掲げており、地域経済の活性化、関係交流人口拡大に向けた新たな夢のアリーナ建設計画も順調に進んでいる。その第1号として、2年前に沖縄アリーナが開業したほか、群馬県太田市に第2号、佐賀市に第3号が誕生。今後も船橋、神戸、東京と新アリーナが続々と立ち上がる。

こうした取り組みにより来場者数が急増。アリーナ誕生を機に多くの新規ファンを獲得した沖縄の琉球ゴールデンキングスは、チケット収入でJリーグのトップクラブを上回る。クラブ数も7年で54に増えた。バスケにトライする環境の格差を生まないよう、1県1クラブを目指したい。

 

ホームタウンづくりへ共創

村井 満氏 Jリーグ名誉会員 日本バドミントン協会副会長

今、世界は曖昧模糊(もこ)とした、何が真実か分からない状況にある。それと比べ、スポーツは勝敗がはっきりして実にすがすがしい。WBCを見ても、国民の心を一つにするのはスポーツしかないとさえ感じる。

スポーツの語源はデポルターレ(Deportare=港を離れる)。日常生活を離れて余暇を楽しむという意味だ。日本では学校体育と混同されがちだが、教育というより遊びに近い。子どものころ夢中になったポートボールやドッジボール、キックベースもすべて遊び。スポーツの原点をBリーグは真っ先に掲げているのがすごいと思う。「水準の向上」「エンタメ性」「夢のアリーナ」。先ほど紹介のあった3つの理念だ。

私がチェアマンをしていたJリーグにも「豊かなスポーツ文化をしっかりつくっていこう」という理念がある。47都道府県すべてにスポーツを楽しめる環境をつくりたい。その思いが現在の60というクラブ数拡大につながった。これをさらに分かりやすく具象化するものとして「百年構想」を掲げ、「あなたのまちに緑の芝生で覆われたスポーツ施設」づくりを進めている。

両リーグの規約を改めて読み直すと、極めて似通った内容であることに気付く。創設の理念を突き詰めれば、「スポーツを通じて社会を良くしていこう」というところに行き着くのだろう。ともに「ホームタウンで地域社会と一体となったクラブづくりを目指し、社会貢献活動、地方創生のための活動に取り組む」リーグ同士、今後も連携を深めていきたい。

では、リーグと地域との関わり合い、ホームタウン活動を今後どう進めたらいいのか。私がチェアマン時代のJリーグは、年間で1クラブ平均400回の地域活動を行っていた。これ以上は無理と判断した私は、地域に対してJリーグが何をやるかでなく、地域がJリーグを使ったらどうなるという考え方に転換した。その後、スタジアムに一度も来たことのない主婦や学生を集めてアイデアを募ったところ、「音楽を使って人と人をつなげる」「Jリーグ、農業やるってよ」など50以上のアイデアが集まった。

ただ、ホームタウン活動は2者間取引だと見返りを求めてしまいがちだ。3者以上のチームによる共創モデルがこれからのホームタウン活動のモデルケースとなることを期待したい。

 

【パネルディスカッション】

増田 匡彦氏 B.LEAGUE 常務執行役員
西村 大介氏 茨城ロボッツ・スポーツエンターテインメント 代表取締役社長
白木 享氏 沖縄バスケットボール 代表取締役社長

各地の課題をクラブが解決

増田 まずはそれぞれのクラブについて紹介いただきたい。

西村 2013年につくばでクラブ創設後、1年で経営破綻。新会社の設立を経て15年に水戸に移転した。最初のシーズンは売り上げ、観客数、戦績と全て最下位のどん底から始まったが、19年にアダストリアみとアリーナが開館し、2年前にはB1に昇格。昨シーズンの売り上げは6.9億円と小規模な運営だ。ラジオ放送局と映像制作会社、まちづくり会社を100%子会社として保有している。

白木 琉球ゴールデンキングスは「沖縄をもっと元気に!」を理念に07年から活動。ホームタウンの沖縄市の方々にバスケットボールを楽しんでいただくことを重視し、今年のシーズンチャンピオンを目指し頑張っている。当グループでは21年に完成した沖縄アリーナの指定管理を沖縄市から請け負い、ソフトとハードの一体化を行政と共に行う。今年2月の天皇杯準決勝は8500人の観客でほぼ満員だった。

増田 本日のキーワードは「どうやってクラブを使い倒せるか」。クラブの地域活動の事例を伺いたい。

西村 水戸にクラブが移転する前に、地域を元気にすることを目的とした「水戸ど真ん中再生プロジェクト」が立ち上がっていた。民間と行政が協働し、世を巻き込んでいくために力を発揮するのがスポーツクラブであり、その第1弾として茨城ロボッツへの支援を実施した。

水戸市とロボッツが良好な関係にある理由は、水戸市長が「スポーツは貴重な地域資源」と断言し、広報の役割も果たしてくれているためだ。人やお金の流れとは逆行してつくばから水戸にクラブが来たことへの期待感もある。社内に元市議会議員がおり、行政のスケジュール感を把握しやすい点も大きい。

オールスターゲームの誘致では1万8000人が署名活動に参加して23年の実現に至った。今は水戸市内外への情報発信や応援団の結成、皆でまちを盛り上げる議論も進んでいる。ロボッツ経由で新たなビジネスや価値を生み出すことが目的だ。

増田 ロボッツもそうだが、スポーツビジネスにおいては「クラブを通じてどうやって課題解決するか」を考えるスポンサーが主流になってきている。

白木 われわれも地域活性化や少子化などの課題解決について、様々な方面から相談を受けるケースが増えている。

西村 スポーツには人やまちを元気づける力がある。オールスター誘致のように、同じ夢の下で企業と人、自治体が協力し合い議論できる。水戸に生まれ育ってよかったと次世代に思ってもらえるクラブでありたい。

白木 沖縄市はスポーツ・コンベンションシティーを宣言し、4つのプロスポーツチームがホームタウンとして活動しているため、われわれも良い関係性を築けている。管理を担う沖縄アリーナは観戦やエンターテインメント体験のほか、ビジネスで使われることも多いアジア随一の施設だ。沖縄市との関係性を大事にしてスポーツと地域連携の強化を図り、キングスの運営と沖縄アリーナの管理を通じた経済活性化に努めている。

また「キングスとつなぐおおきなわ(大きな輪)」の活動を地域で実施している。子どもたちを招くサタデースポーツ教室やあいさつ運動、地域の美化活動など、小さな活動を大切にしながら大きな輪にしていくことがコンセプトだ。行政とのつながりでは沖縄市の魅力を伝えるイベント「Enjoy OKINAWA CITY DAY」やコザ商店街を盛り上げる「キングス商店街」などの取り組みを実施しており好評だ。今年夏にはFIFAバスケットボールワールドカップが行われるので、ぜひ沖縄市を訪れてほしい。

増田 オールスターゲームは「地域創生のために何ができるか」をテーマに掲げており、われわれは「もっと選手を地域のために使ってほしい」「会場でいろいろな企画を提案したい」という思いがある。Bリーグは全国に54クラブあるので、ぜひご相談いただきたい。

 

 

 

【特別対談】

櫻井 うらら氏 B.LEAGUE 執行役員
鈴木 友也氏 トランスインサイト 代表

社会への価値提供に注力

櫻井 われわれは2026年に新たな構造改革を実施予定だ。Bリーグを再スタートし、新B1構想として3つの入会基準を設定。入場者数平均4000人、売上高基準12億円、そして非日常空間を創出する「アリーナ基準」を最も重視している。

鈴木 新B1構想でアリーナの建設ラッシュが起こっているが、アリーナがあると観戦体験は劇的に変わる。クラブの自助努力に任せずにリーグが旗振り役を担うのは日本では画期的だ。

球団経営において、スポーツ施設に依存する収入源は日米ともにチケット販売やスタジアム収入などだが、施設が新しくなると付加価値が上がってチケット単価も上がり、収益性が非常に高まる。こういう取り組みをリーグが主体的にやるのが球団経営2.0のフェーズだ。

櫻井 われわれが「夢のアリーナ」と表現するアリーナの一つが、21年2月に竣工した沖縄アリーナだ。沖縄をホームタウンとする琉球ゴールデンキングスが建設の構想に大きく関わっており、3.2億円だったキングスの入場料収入は沖縄アリーナ開業後に2.5倍の7.8億円になり、Jリーグの21年度決算と比較しても最多だった。

鈴木 キングスの財務インパクトは革命的だ。Bリーグ・Jリーグはチケット収入とスポンサー収入の比が1対2程度だが、米国ではチケット収入のほうが多い。クラブが新しい席やスペースをつくるなど、観戦体験をプロデュースしてチケット単価を上げられるためだ。キングスはB・J両リーグでチケット収入がスポンサー収入を上回った唯一のクラブ。新B1構想でアリーナが増えれば第2、第3のキングスが出るだろう。

櫻井 米国の各地域ではクラブの存在感は大きいのか。

鈴木 米国のスポーツ施設は「まちづくりやイノベーション目的の公共プラットフォーム」という位置づけだ。施設とクラブの関係は、日本では大家と店子だが米国では事業パートナー。日本でも自治体との連携が重要になっているが、エンタメの提供からまちづくりの関係性になれば、もっとスポーツの可能性は広がると思う。

櫻井 16年のBリーグスタートと同時に、「Bリーグホープ」という活動を始めた。単なるバスケットボール団体としてでなく、社会にも価値を提供できる団体だと発信し、ゼロカーボンや子ども食堂、地産地消などの活動に取り組んでいる。

鈴木 Bリーグホープが参考にしている「NBAケアーズ」というソーシャルプラットフォームは、スポーツの力を使って地域課題を解決しようと様々な取り組みを始めた経緯がある。日本のアリーナの位置づけも、今後は単にエンタメを提供する場だけでなく、公共性を帯びた場になっていくのではないか。

櫻井 近い将来さえ不安な今の時代だからこそ、Bリーグの各地域のクラブは希望を提供できる存在であり続けたい。

 

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

講演 地方創生 パネル討論

新着記事

もっと見る
loading

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。