9月14日、日経SDGsフォーラム特別シンポジウム「資源循環(サーキュラーエコノミー)で目指すカーボンニュートラル」が開催された(主催:日本経済新聞社、日経BP)。資源を使う、捨てる、再利用するという資源循環の環(わ)がうまく回れば、資源効率の高い持続可能な社会を築ける。循環型社会への移行はまた、社会課題に応える新ビジネス創出の好機でもある。多彩な識者が集まり、資源循環の実現に向けた議論を進める中で何度も上がったキーワードは「共創」「連携」だ。つながることで何ができるか。未来へのヒントに満ちた議論を紹介する。
【挨拶】組織の枠超えた協働期待
角倉 一郎氏 環境省 環境再生・資源循環局次長
循環経済とは、資源効率の向上を通じて二酸化炭素(CO2)排出などの環境への負荷を最小化すると共に、資源循環の環の中で、新たな成長の鍵となる付加価値を生み出す新しい経済の概念だ。
循環経済への移行は、国家戦略として取り組むべき重要課題である。循環経済への移行は、脱炭素の実現のみならず、産業競争力の強化にも貢献する。すでに資源循環への積極的な貢献は、企業競争力をも左右する要因ともなっている。国内での資源循環の強化を通じて希少金属(レアメタル)などの海外流出を抑制できれば、経済安全保障の強化にもつながる。
循環経済への転換は、日本と世界の持続可能な未来のために欠かすことができない。環境省は、2030年までに資源循環関連事業の市場規模を80兆円に拡大する目標を掲げ、循環型社会形成推進基本計画の見直しや、事業者の取り組みを後押しする制度の検討など、様々な施策に注力している。
各地の企業が持つ技術力を生かした、地域密着型の資源循環の取り組みにも期待している。官民の枠組みを超えた連携や支援にも積極的に取り組みたい。
【企業講演】100%サステナブル化目指して
藤原 正明氏 サントリーホールディングス 常務執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
ペットボトルは加工しやすく丈夫で軽量な容器だが、不適切な廃棄による海洋汚染などが起きている。原料は石油であり、資源保護のためにも再利用が重要だ。ただ、わが国のペットボトルは、回収率もリサイクル率も諸外国に比べて高水準だ。業界団体の自主ガイドラインによって着色ボトルが禁止されるなど、リサイクルしやすい仕組みがつくられてきたからだ。
当社はこうした現状を踏まえて、より高い目標を掲げている。グローバルで使用する全てのペットボトルにリサイクル素材または植物由来素材などを100%使用し、30年までに新たな化石由来原料の使用ゼロを目指す。
取り組みの軸は、ペットボトルを水平リサイクルする「ボトル to ボトル」だ。リサイクル用途をペットボトルに限定することで、繰り返しリサイクルすることができ、資源循環につながる。原料調達から製造までの工程で排出されるCO2の量も大幅に削減できるので、脱炭素にも貢献する。
併せて環境負荷の低いペットボトル原料の研究開発も進めている。
21年には、米国のバイオ化学ベンチャー・アネロテック社と協働で、100%植物由来原料のペットボトルの開発に成功した。現在、実用化の準備を進めている。
これまでの取り組みの成果もあり、国内飲料事業のサステナブルボトル使用比率は22年に46%に到達。23年は50%を超える見通しだ。現在までの進捗は順調だが、100%サステナブル化達成までに乗り越えるべき課題はまだ多い。
もとより、未知の領域へ踏み出す挑戦の志と、利益の社会還元への高い意欲は、創業以来受け継がれる当社の基本理念だ。今後も循環型社会の構築に資する先駆的な取り組みを展開する。
【基調講演】資源循環 脱炭素にも貢献
湯山 桃子氏 環境省 環境再生・資源循環局 総務課 循環型社会推進室 室長補佐(リサイクル推進室室長補佐兼務)
循環型社会形成推進基本法は、循環型社会を次のように定義している。廃棄物などの発生抑制、循環資源の循環的な利用および適正な処分が確保されることによって、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会ーーである。
こうした資源循環の営みの中で新たな付加価値を生み出すのが循環経済だ。循環経済への移行は今日的な課題だが、その取り組みの中身は、日本社会になじみ深いものを含んでいる。
わが国では、循環型社会形成推進基本法が公布された2000年以降、循環型社会形成推進基本計画に則った施策が実行されてきた。
ある試算によれば、わが国において、資源循環によって温暖化ガス排出削減に貢献できる余地がある部門の割合は約36%という試算もある。脱炭素達成のためにも循環経済への移行は重要だ。
環境省は、循環経済を実践する企業を支援するための様々な施策を実施している。
21年には、経済産業省、経団連と連携し、「循環経済パートナーシップ(J4CE=ジェイフォース)」を設立。取り組みの活性化や理解醸成のための活動のほか、最新事例の紹介などの情報発信も行う。
また、今年4月に開催された「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」では、「循環経済及び資源効率性原則」が採択された。これは、循環経済への移行や、資源効率性の向上のための企業向けの行動指針だ。日本がG7での議論をリードし、採択にこぎつけた。各企業の経営指針と循環経済を統合した取り組みの促進に、ぜひ役立ててほしい。
循環経済への移行の鍵を握るのは、資源を活用して様々な製品を製造・販売する「動脈産業」と、廃棄物の回収や運搬、リサイクルなどを担う「静脈産業」の連携だ。リサイクル原料を使いたいと望む需要者と、販売したいと望む供給者をスムーズにつなぐ仕組みを構築したい。
現在作成中の「第五次循環型社会形成推進基本計画」にも、今後進むべき方向性として、動静脈連携による徹底的な資源循環を盛り込む予定だ。
【パネルディスカッション】連携でイノベーション創出
藤原 正明氏 サントリーホールディングス 常務執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
モデレーター 相馬 隆宏 日経ESG副編集長
相馬 循環経済の実現は社会にとって大きな挑戦だ。その達成に大きく寄与すると期待されているものの一つに、様々な企業や組織の協働から生まれる新たな取り組みがある。
エネオスとサントリーは今年、資源循環に関連する事業で協業を開始した。異業種間での協業に踏み切った背景には何があったか。
忍田 当社は脱炭素の実現に向けた施策の一環として、原料の非化石資源化率の向上などを通じた循環経済の推進に取り組んでいる。
石油化学製品の原料メーカーとして培った知見や技術を生かし、ペットボトルをはじめとするプラスチック製品の再資源化や、再生可能なバイオ原料への転換に関する研究開発にも力を注いでいる。
藤原 当社も、ペットボトル原料のバイオ化に取り組み続けてきた。また、再資源化のためのペットボトル回収のネットワークも構築している。
石油事業と飲料事業という全くの異業種ながら、共にプラスチック素材を巡る循環経済の構築を目指す両社は互いに補完し合えるアセットを有している。その気づきがきっかけとなり、今回の協業がスタートした。
忍田 協業の第1弾として今年4月、当社のサービスステーションをペットボトル資源の回収拠点とする実証実験を開始した。回収した資源は、サントリーが使用するペットボトルへと水平リサイクルされる。
今後、廃食油を原料とするバイオマス燃料や原料の製造などでも協力する。当社は26年より、SAF(持続可能な航空燃料)の製造を始める予定だ。原料には未活用の廃食油などを活用する。製造工程で得られるバイオマス原料を活用してサステナブルペットボトル製造も可能だ。
藤原 廃食油の安定調達のため、取引のある約8万店の飲食店を廃食油の回収に活用していきたい。
このような形でサステナブルな航空燃料とペットボトルの製造がつながることに驚く人も多いだろう。私自身も、連携で起きた化学反応に新鮮な驚きを感じている。
協業をしたからこそ、既存事業の延長線上にはなかったであろう成果が得られたと実感する。
相馬 多様な視点がもたらす新たな気づきは、イノベーションの原点だ。協業の意義は実に多い。
現状、循環経済の確立に向けた課題はどこにあると思うか。
忍田 再生可能な原料でつくった商品の購買や、使用後の資源回収など、資源循環の環は消費者の参画なしには完成せず、消費者の理解や協力が不可欠だ。最も大きな課題は、資源循環にかかるコストが環境価値として受容されるか否かという点にあると感じる。
藤原 これは社会の合意形成の問題だ。企業や消費者だけでなく、行政なども巻き込んだ社会的な議論が必要だろう。今後もサステナブルボトルの使用などを通じて循環経済の実例を示し、その価値を広く社会に訴求する努力を続ける。
【企業講演】資源自律国・日本 実現に力
水口 能宏氏 日揮ホールディングス 執行役員CTO
当社はエンジニアリング会社として、石油精製プラントなど様々なエネルギーインフラの構築を手掛けてきた。現在は長年培ってきた技術や知見を生かした新事業にも挑戦している。
日本は資源に乏しいといわれる。しかし、廃食油や廃繊維などの廃棄物は捨てればゴミでも、一定量を集めれば資源として再利用できる。豊富な森林資源も、全てが有効活用されているとは言い難い。
廃棄物の再利用による資源循環と、木材などバイオマス資源を原料に、微生物を用いて様々な物質を生産するバイオものづくりにより、日本を資源自律国にしたい。
すでに複数事業を展開中だ。今年1月には、繊維事業に強い帝人と総合商社の伊藤忠商事との協働でRePEaT(リピート)社を設立。ポリエステル製品のケミカルリサイクル技術を国内外に提供するライセンス事業を行う。染料などの混入したポリエステルを新品同様にリサイクル可能だ。
また昨今、バイオものづくりが成長性ある産業として世界的に注目されている。こうした中で当社は、CO2を直接原料に微生物による、生分解性プラスチックの生産に関する研究開発を行っている。総合化学メーカーのカネカなどとの4社協同研究だ。
この研究で連携するバイオファウンドリ企業、バッカス・バイオイノベーションとは、微生物の育種から生産プロセス開発までを一気通貫で手掛ける「統合型バイオファウンドリ」事業でも協業する。ここを拠点とし、バイオものづくり大国・日本を形成していきたい。
日本には技術力があり、多くの未利用資源があり、ものを大切にする文化がある。産官学の枠を越えた連携や協創を通じ、資源自律国・日本の実現に力を尽くしたい。
【企業講演】素材の力 最大限引き出す
勅使川原 ゆりこ氏 東レ 環境ソリューション室 室長
当社は、革新技術や先端材料の提供を通じ、経済的、社会的な発展と持続可能性の両立を巡る地球規模の課題を解決していく。重点課題の一つと位置付けているのは、プラスチックの持続可能な循環型資源利用や生産の実現だ。2030年度までに、基幹ポリマーの再生資源等利用比率を20%に引き上げるといった目標を掲げている。
当社は一つのポリマーから、繊維、フィルム、樹脂など多様な素材が生産可能だ。また、素材ごとに確立したバリューチェーンも強みだ。例えば、繊維では重合から縫製までの各工程で様々なニーズに応えられる。加えて、これらの強みをグローバルに発揮できるネットワークや知見も有する。
プラスチック資源の循環に向け、使用済みプラスチックを洗浄した後に溶かして再利用するマテリアルリサイクルや、化学的に分解した後に重合して再利用するケミカルリサイクルを行っている。
19年に立ち上げた「&+(アンドプラス)」は、使用済みペットボトルを原料とするリサイクル繊維のブランドだ。環境への配慮と高品質・高機能を両立している。ブランド名には、様々な人の思いや行動を「&」でつなぎ、リサイクル素材の可能性を「+」していくという思いを込めた。
また、地球規模での炭素循環に向けて、バイオ原料やCO2の活用に向けた高度な研究も行っている。22年には、植物の非可食成分から得た糖を原料とする100%バイオアジピン酸を開発、30年ごろ実用化する予定だ。
素材には社会を変える力がある。ただしその力を最大限引き出すには、当社と異なる強みを持つパートナーとの共創が必要だ。共創により、資源循環のサプライチェーンをつないでいきたい。
【企業講演・パネルディスカッション】
再資源化物の製造業へ
斉京 由泰氏 首都圏グループホールディングス 取締役
昨年、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行された。複数企業と「あすの資源を考えるコンソーシアム」を組成し、経済合理性、つまり持続性のある取り組みを資源循環の現場から提案、連携の輪を広げている。
また当社は、中間処理事業者としてプラスチックのマテリアルリサイクル推進のための実証実験を重ね、最新鋭の新施設を来年4月に稼働させる。廃棄物処理サービス事業から再資源化物製造事業へ転換を目指し業界をけん引する。
廃プラの国内循環実証
古川 貴也氏 木下フレンド リサイクル 高度化推進チームリーダー
今年1月、プラスチックの国内循環に向けた実証実験を三井物産と開始した。当社回収の廃プラスチックから油化に適したプラスチック素材を高度選別した後、三井物産に提供し、化学品原料として使える生成油に分解。食品の新品包材など幅広い用途が期待される。
廃プラの高度リサイクルに対する社会的要請の高まりを受け、当社は高度選別ラインを増設予定だ。多様な組織と連携し、ケミカルをはじめとしたリサイクル事業の一層の拡大と発展を目指す。
廃棄物は地上の資源
藤井 恵理奈氏 ベストプランニングシステム 代表取締役
ペットボトルの国内循環が社会的要請となってきた。ボトル to ボトルのニーズが高まり、回収品質の向上が喫緊課題だ。中間処理事業者が資源循環の起点として選ばれる時代が幕開けした。
再商品化事業者の積極的投資で国内東から西へ、新しい施設が次々と誕生した。京都で事業を行う当社は処理量拡大、品質向上を目指し25年に新工場を稼働、資源循環の中継地点の役割も担う。廃棄物は地上の資源。社会に求められる企業として発展し続ける。
資源循環と経済合理性の両立必須
進藤 浩氏 進栄化成 代表取締役
大石 栞氏 木下フレンドホールディングス SDGs推進チームリーダー
眞崎 恒次氏 首都圏環境美化センター CSV推進部 マネージャー
新井 誠氏 ナプラス 事業本部長
モデレーター 藤井 省吾 日経BP 総合研究所 主席研究員
田中 脱炭素は資源循環なくして達成し得ない。また、生物多様性の保全のためにも天然資源の利用を極力控えることが望ましい。これは世界の共通認識だ。加えて資源輸入国である日本の場合、資源循環は経済安全保障のためにも重要である。
資源である以上、安定的な量と質の供給という課題を避けて通れない。解決のためには、資源を利用して事業を行う動脈産業と、リサイクル事業などを担う静脈産業が連携することが大切だ。
進藤 当社の主力事業の一つは、ペットボトルキャップのリサイクルだ。日本でトップレベルの量をプラスチック原料に再生し販売。近年ではスーパーのカゴなど、身近な商品として再利用されている。需要が急速に高まり年内に1.5倍の生産能力増強を計画している。
この売却益を世界の子どもたちにワクチンを送るNPO法人「世界の子どもにワクチンを 日本委員会」に寄付している。当社同様に賛同の輪が広がっている。
同法人の活動によるキャップの回収率は5.6%だ。回収率が15%になれば350万人にワクチンが提供可能となる。
大石 中間処理事業者として、リサイクルの質の向上とコスト合理化のバランスを課題と感じる。
コストは捨て方にも左右される。例えば飲料容器に飲み残しがあると機械で選別できず、人の手が必要となってコストが上がる。「混ぜればゴミ、分ければ資源」だ。
ただ、ゴミを捨てるという日常的な行為に制約をかけるのは難しい。現在、リサイクルボックスの設計の工夫などを通じた分別しやすい仕組みづくりを進めている。
眞崎 当社は東京都足立区を拠点とする廃棄物処理業者だ。「リサイクルは地球サイズの思いやり」という理念を掲げている。
近年、企業による工場見学の件数が例年の2〜3倍に増加した。環境関連の担当者に限らず、経営層も交えた複数部署の方が数十人規模で見学に来ることも多い。業種に関わらず多くの動脈産業の企業が資源循環に高い関心を寄せていると実感する。
新井 当社は発泡スチロールの中間処理をしており、異物の混入したものや異素材については引き取れないという契約を事前に締結。水洗いなどの手間を顧客が背負う分、処理価格を引き下げている。
最も資源循環の効率を上げるのは、捨てるときの分別だ。関わる全ての人が一定の責任を負って協力することなしに、経済合理性のある資源循環は成立し得ない。
藤井 脱炭素へと向かう潮流の中で、持続可能なエネルギーに関する議論はかなり成熟してきた。一方で、資源循環に関する議論は、これから詰める必要がある。資源循環と経済合理性を両立した社会の実現は、レジリエント(強じん)な社会の構築にも寄与する。
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