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ウェルビーイングで経営再起動 Corporate management and Well-being

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キーワードはウェルビーイング(Well-being)――。企業が「環境」や「人的資本」などの非財務指標の充実に乗り出している。一方的に従業員の健康だけを管理する時代は終わり、やりがい、生きがい、働きがいを見つけられるよう多様な選択肢を提供し、自己決定を促す「ウェルビーイング経営」が求められている。石川善樹氏と宮田裕章氏は、ウェルビーイングを基に人と社会と未来のつながりを組み替え再起動せよ、と語る。

【対談】
宮田 裕章 氏 慶応義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 教授
石川 善樹 氏 公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事

 人と人、人と社会、人と未来をウェルビーイングの視点で。(宮田)

宮田 健康と経営を考えるにあたり世界保健機関(WHO)の「健康」の定義を確認すると、「肉体的にも精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態」とあります。ウェルビーイングの文脈でも、単に健康であるだけでなく「精神的にも社会的にも満たされる」ことが重要です。でも経済協力開発機構(OECD)の調査では、日本の子供や若者は身体健康はとても高いのに、精神健康は非常に低いと出てしまう。学校の教育課程でも精神、心に関する測定が行われていないという現実があると思います。

石川 日本では大人の場合は労働安全衛生法で職場でのストレスチェックを求められます。しかし子供は学校保健法などで健康診断や体力測定はあっても、精神的・社会的な側面への関心が法的にも薄い面があります。特に思春期の女子の主観的ウェルビーイングが低いことが分かっており、先のOECDの調査のスコアの悪さにもつながっている。そこは何とかしないといけないでしょうね。

宮田 やはり精神面でのケアが教育の中で足りず、そこをきちんと計測しないと若者のウェルビーイング、そして彼らが社会人となったときのウェルビーイングも実現しないと思います。さらに職場のメンタルチェックも、本人に満足度をフィードバックしていく意味合いは少なく、職場での精神衛生状態を「モニタリングするのが狙い」という側面が強いでしょう。ブラックな職場にしないだけでなく、やる気に満ちて充実した働きにつなげていく。そんな前向きな取り組みがあってこそ「社会的にも満たされている」部分も底上げされていくのだと思います。

「多様性と選択肢」を提供する時代になっていきます。(石川)

石川 労働安全衛生法は1972年に施行されましたが、当時は企業が従業員の健康を「管理する」という発想が根本でした。しかしリーマン・ショック前後に中間管理職の自殺者が増えたのをきっかけに、管理ではなく「健康に投資する」という発想が出てきました。2014年ごろからは政府も健康寿命延伸産業=ヘルスケア産業の発展にも力を入れ始めました。

50年前は「健康の管理」という第1の波、20年前は「健康への投資」という第2の波、そして今は「ウェルビーイングを実現する」という第3の波が来ています。健康で精神的にも社会的にも満足して人生を送れるよう「多様性と選択肢」を提供する時代になっていきます。

宮田 多様な選択肢の中から一人ひとりが「何に豊かさを感じるか」を、ウェルビーイングという言葉を軸として行政や企業が捉え直すことが必要です。個人の目標と会社や職場のベクトルが合致するような選択肢を提供できることが未来の豊かさにつながるでしょう。

今のZ世代は新卒で就職してもすぐに転職サイトに登録するそうです。会社がブラックかどうかだけでなく「世の中にどう貢献したいのか」が見えない会社からは離れる傾向にあります。人と人、人と社会、人と未来をウェルビーイングの視点で結び直し、再起動する発想が不可欠です。

石川 大企業は法令の改正や整備でウェルビーイング経営に向かいやすいでしょう。でも中小企業には浸透しにくいかもしれません。ただ、中小企業の健康管理をサポートしてきた保険会社によると、中小の経営者に今最も響く言葉は「人生観」だそうです。経営者がどう世の中につながり、未来をつくっていくのかという人生観は、ウェルビーイングの思想にもつながります。

肉体的な健康管理がこれだけ浸透し健康寿命が世界トップランクにもかかわらず個人の幸福や企業の成長へ生かせていない。ウェルビーイングを軸とした幸せな働き方を、どう実現し、豊かな社会づくりにつなげていくかが、今後の日本の挑戦になると思います。

 

肉体的健康から精神的、社会的健康の充実へ――企業のウェルビーイング担当者座談会

ウェルビーイングを経営に組み込むとはどういうことなのか。ウェルビーイング先進企業の担当者による座談会の模様を紹介する。

参加企業一覧
EY Japan  NECソリューションイノベータ MS&ADインターリスク総研 住友生命保険
第一生命ホールディングス TOPPANホールディングス 日本たばこ産業 富士通 パーソルホールディングス ポーラ・オルビス ホールディングス 丸井グループ 三井住友トラスト・ホールディングス
ライズ・コンサルティング・グループ

ウェルビーイング経営を重視している大手企業は「健康」をどう定義しているのだろうか。「あくまで『行動の資源』であり、資源としての健康を管理してその先のキャリアや働き方を自分で選び決定していくよう促している」という声もあれば、「健康=ヘルスケアとは基盤であり、それがWHOのいう身体、精神、社会という活力に結びついてウェルビーイングが達成できる」と考える発言もあった。

別の企業では「プレッシャーが強い職種なので『病まないようにする』ことも重要だ」との発言も上がった。イノベーティブに働き続けるためにも「その手前で負の状態に陥らない、病まないように心身の状況を可視化している」という。 

健康の指標より活躍の機会を

健康管理の考え方は浸透している日本だが、その枠組みを超えるウェルビーイングをどう組み込むのか。「健康指標が高まる指導よりも、多様な選択肢の中で『個人が力を発揮できる』機会を提供すること」と強調する企業もあった。

また「ウェルビーイングは職場だけでなく、地域とのつながりなど会社以外の部分も重要だ」との指摘もあった。社内で生き生きと働いた先に、「社会的価値を生み出す人材の育成も大事でしょう」と述べた。

社会的に満たされた状態とは

座談会では、WHOが定義する「健康」の「社会的にも満たされた状態」について、「他の人から必要とされ、役割があると感じられる状態のことでもある」との見方も披露された。居場所があって生きがい、やりがいが感じられる場をつくるには何が必要なのか。

「肉体的な健康の指標を管理することが答えではない。対談でも、健康は『管理するものではなく投資の対象である』との指摘があったが、これからは『人的資本』という捉え方が重要になる」と話す担当者もいる。「資本とはリターンを生むものであり、人材も投資によって価値が膨らんでいく存在だ」と強調した。「価値を高めた人材が持てる力を存分に発揮し、企業に、そして社会に、リターンを返すにはウェルビーイングが不可欠」と力を込める発言者もいた。

加えて、見える化も重要との声も上がった。伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長が作成した「日経統合ウェルビーイング調査」(伊藤版Well-beingスコア)の計測が始まった。人的資本経営の観点が反映された統一指標を用いて、複数の企業が社員のウェルビーイング実感を計測する意味は大きい。計測企業の増加で、データの価値が高まる。「取り組み内容と効果の開示、意見交換が進むことで質も高まっていく」との声も上がる。肉体的な健康管理を強化してきた日本企業だからこそ、「新しいウェルビーイングの価値を生み出し、世界に誇れる事例を見せられたら」と、今後に熱い期待を込めていた。

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