NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム

潜在市場大きい海 新経済圏の構築を デロイトトーマツコンサルティング 代表執行役社長 佐瀬 真人 氏

インタビュー 海洋保全 コンサルティング

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森林と共に環境問題のカギを握る「海」には大きな潜在市場がある――。海洋保全に関して2025年の提言を目指す「NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム」(日本経済新聞社・日経BP共催)の有識者メンバー企業、デロイトトーマツコンサルティングの佐瀬真人社長は取材に答え、海の豊かさと経済成長を両立させる新たな経済圏「ブルーエコノミー」には世界経済を2倍に広げる可能性があると指摘、その構築を促した。

 

企業の戦略作りへ貢献目指す

海の生態系を保全しつつ資源を持続的に活用し、経済成長と社会課題解決を両立する「ブルーエコノミー」によって世界市場は500兆円以上の規模に広がる

世界人口が増加し、資源枯渇が問題になっています。海洋資源を利活用することで社会課題が解決できれば、新たな経済圏になる可能性は高いはずです。

水産物はたんぱく源として期待されます。ブルーエコノミー市場にはこのほか、石油・ガスなどの資源採掘、海上輸送といった既に確立した分野があり、洋上風力のような再生可能エネルギー、バイオテクノロジー、海水淡水化、海底ケーブルをはじめとするインフラのような新興分野にも広がります。

モニターデロイトの試算では、2020年に270兆円規模だった世界市場は30年には500兆円に拡大し、1億人の雇用が創出されます。この間の成長率は6%を上回り、世界経済の成長見通しのほぼ2倍になります。これはかなり堅く見積もった数字で、デジタル分野などの関連領域も含めれば、もっと大きくなります。成長のフロンティアとなりうるでしょう。

海洋に囲まれた日本が持つ大きなメリットは低迷する経済の起爆剤になる

日本は排他的経済水域(EEZ)と領海を合わせた面積が世界6位という広さを持っています。それは、流氷の訪れるオホーツク海から世界有数のサンゴ礁が広がる沖縄周辺の海まで、南北、東西に広がっています。豊かな生物の多様性は世界に誇れるものです。

近海には、急峻(きゅうしゅん)な海底渓谷も数多く存在します。二酸化炭素(CO2)を分離して海底やその地下に貯留する脱炭素技術の「CCS」、潮流や潮位差を生かした発電など、新技術の実証試験に適しています。日本が競争力を持つ領域も複数あり、成長の果実を手にできる可能性を秘めています。

欧州は生態系の保全や回復への取り組みをグリーンエコノミーの一環として先行させています。日本は海洋国家としての強みを生かしてブルーエコノミーを先導できるように取り組むべきです。

まずは生物多様性の回復を目指すネーチャーポジティブへの取り組みから進める

原料の調達から製造、物流、流通、廃棄に至るサプライチェーンを見渡すと、海と関わりのない企業は皆無といっていいでしょう。ネーチャーポジティブへの取り組みを進めることが世界から求められています。企業にとって実行計画を立てて推進することは極めて重要な経営課題です。

事業活動に伴う生態系への影響やリスクの開示に向けた具体的な動きが始まっています。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)による開示の指針が9月にまとまりました。サポートする企業(TNFDフォーラム企業)は1000社を超えています。金融機関や投資家の関心は高く、今後、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のように5年以内に普及することが想定されます。

こうした動きは、企業の社会的責任(CSR)の一環としてではなく、自社の製品やサービスの成長を高める要素として組み込んでいます。市場でのプレゼンスを高める取り組みと位置づけているのです。

ブルーエコノミーの市場領域は多岐にわたります。どの領域を選び、どのように勝ち抜くかを見すえた戦略が欠かせません。経営トップ層に担当者を置き、組織横断的に取り組むことが重要です。

多様な市場での戦略のカギは異業種や官公庁、自治体との連携。事業化にはデジタル技術の活用も不可欠に

戦略作りで重要になるのは、取り組むべき社会課題を見定め、それらを組み合わせてターゲットを定めることです。事業展開に必要な経営資源が足りなければ、外部に求めることも必要でしょう。

海に関わる産業領域は多様で、管轄する官公庁も複数にまたがります。関係する自治体も含め、多くのステークホルダーと意見交換を進めて連携することが欠かせません。

インドネシアにイーフィッシャリーというスタートアップがあります。エビや魚の養殖用の給餌システムを提供しています。熟練者でないと判断できなかった餌やりのタイミングや量の調整を自動化しました。

デジタル技術の活用により、養殖業の生産性向上や、余った餌による水質汚濁の防止につながりました。流通業とも協力し、最適なタイミングで出荷できるようにもなりました。養殖商品の価値を高めるとともに、フードロスの削減にも貢献しているという構図です。

また、養殖業者は金融機関からの融資が受けにくいという問題がありました。給餌データで稼働状況などがわかり、与信判断に役立っています。第1次産業でもデジタル技術活用が競争力につながった例といえます。彼らのビジネスは地方の雇用創出、食料供給力の向上、環境問題といった複数の課題解決につながりました。

私たちは日本の社会や経済、企業に貢献していきたいと考えています。ブルーエコノミーは様々な社会課題の解決につながる大きな領域です。多様なステークホルダーとの議論を通じ、具体化に向けた方向性を導いていけるようリードしたい。企業連合や顧客の戦略作り、ルール作りなどで、これまでに築いたネットワークが生かせると考えています。

記者の目 海の経済利用に新潮流


「ブルーエコノミー」の概念は2010年、起業家グンター・パウリ氏が提唱した。徐々に知名度が高まりESG(環境・社会・企業統治)の新たな潮流となっている。

地球表面積の7割を超える海は酸素の生成、CO2の吸収、栄養素の循環などを通じ生命を支え続け、人間の交流や貿易とも切り離せない。その海が地球温暖化に伴う酸性化や水温上昇、過剰漁獲、サンゴ礁や藻場の消失、化学物質による汚染など深刻な問題に直面する。海を経済活動に利用しつつ地球環境に役立てるという発想がブルーエコノミーで、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の「海の豊かさを守ろう」達成のカギともされる。

マングローブや海藻・海草は大気中のCO2吸収効果が森林より大きく、費用対効果も高いとわかってきた。魚介類の増加も期待できる。窒素やリンも吸収して水質浄化に役立ち、抽出した油は航空燃料になる。

欧州連合(EU)は22年、藻類産業の育成強化策をまとめ、健康食品やプラスチック原料、医薬・化粧品、エネルギー分野の強化を打ち出した。四方を海に囲まれる日本は大きな可能性を秘めているが、本格的取り組みに着手したばかりだ。普及啓発と共に産官学で推進策を急ぐ必要がある。

(編集委員 青木慎一)

 

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