カンヌライオンズ特集

カンヌライオンズに見る 企業のSDGs注目作10選 カンヌライオンズ2023

マーケティング SDGs ブランディング

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

世界最大の広告祭「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」。企業のパーパス(存在意義)や社会課題に対する姿勢への人々の高い関心を映し、5日間の会期中に発表される1000に迫る受賞作品は、持続可能な開発目標(SDGs)に向けた企業の優れた実践と発信の「ショーケース」のようになっている。2023年の注目作10選をお届けする。

CORONA EXTRA LIME

ビール製造世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)のビール「コロナ」が中国で展開したプロジェクト。コロナは切ったライムを入れて飲むのが定番になっているが、中国では新型コロナウイルスの影響で輸入ライムが不足してしまった。そこで地元の政府や産業当局と連携し、最先端のライム栽培の知識や技術を農家に提供。ライムの自社生産を成功させ、22年のビールの売上高が20年比で29%増加した。携わった農家1人当たりの収入も21%増え、現地の貧困対策にも貢献した。革新的な事例を表彰するチタニウム部門で入賞し、「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション」部門でも銀賞を受賞した。

Renault - Plug-Inn

フランスでは22年までに100万台の電気自動車(EV)が普及した一方、充電ステーションは8万カ所しかなかった。仏ルノーはこれを迅速に増やすため、電気自動車の運転者と家庭用充電器の所有者をつなぐアプリを開発。運転者は必要なときに充電できる場所を検索して予約でき、充電器の所有者は貸し出すことで収益を得られる仕組みを構築した。立ち上げから2週間でアプリは1万6000人のユーザーを獲得し、メディアでも広く取り上げられた。「クリエイティブ・ストラテジー」部門でグランプリを獲得したほか、「モバイル」部門などで金賞を贈られた。

Where to Settle

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから約1000万人の難民がポーランドに入ったが、大都市に集中し、過密状態の解消が求められていた。米マスターカードはポーランド当局などと連携し、クレジットカードの利用データ、職種や平均給与、住宅価格などに関するデータを組み合わせてポーランドの様々な都市の求人状況や住宅などに関する情報を提供するシステムを開発した。ウクライナ難民の約20%が利用し、このうちマスターカードの非利用者の80%が同カードの利用意向を示したという。「SDGs」部門のグランプリのほか複数部門で多数受賞した。

Knock Knock

韓国では家庭内暴力(DV)が急増し社会問題となっていた。被害者が加害者と同じ空間にいることがハードルとなり2%しか通報されないという。声を出さずに通報できる韓国警察のシステムでは、日本の110番に当たる112番に電話し、特定の番号を2回タップすると、警察が発信者のカメラを通じて状況を確認し位置情報を追跡できるリンクが送られてくる。キャンペーン開始後に5749件のリンクが送信され、DVの被害者だけでなく耳が不自由な人らでも利用できる通報システムとして、正式に採用された。ジェンダー不平等などをテーマとする「グラス」部門でグランプリなどを受賞した。

#TurnYourBack

英ユニリーバの主力ブランド「ダヴ」は、ありのままの美しさと自尊心の価値を提唱するブランドの姿勢を長らく打ち出してきた。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」が新機能として、人工知能(AI)を使ってユーザーの顔を美形に加工する「ボールド・グラマー」を公開すると、特に若い女性に与える悪影響に警鐘を鳴らすため、スマートフォンのカメラに背中を向ける(Turn Your Back=ターン・ユア・バック)よう影響力の高いインフルエンサーが呼びかけるキャンペーンを展開。呼びかけの動画は5000万回以上再生され、広く支持を集めた。「メディア」部門のグランプリや「ソーシャル&インフルエンサー」部門の銅賞などを受賞。

The Greatest

世界には何らかの障害を持つ人が10億人以上いるとされる一方で、障害者を描いた広告は世界全体でわずか1%しかないとして、米アップルがiPhoneなどに搭載する様々な障害をサポートする機能を使う障害者を描いた動画。公開から1週間で動画投稿サイト「ユーチューブ」での再生回数は1500万回を超えた。世界三大広告祭の1つ、米ワン・ショーで最高賞を受賞するなど前哨戦から話題を集め、カンヌライオンズでは「エンターテインメント・フォー・ミュージック」部門のグランプリ、「フィルムクラフト」部門の金賞など多数獲得した。

Runner 321

「321」は21番染色体が3本あることで起こるとされるダウン症を象徴する数字だ。独アディダスはスポーツの世界で姿が見えにくいダウン症の人々の可能性を示すため、身近なスポーツであるランニングをターゲットとし、世界の主要な6つのマラソン大会で「321」のゼッケンをダウン症の選手用に確保するよう呼び掛けた。すべての大会で実際に出場枠が用意されたほか、200を超えるレースがダウン症の「ランナー321」を追加することを表明した。ターゲットを絞った施策を審査する「ダイレクト」部門のグランプリなどを獲得した。

Scrolling Therapy

ブラジル製薬大手のユーロファーマのアプリ。表情を読み取る人工知能(AI)を活用し、パーキンソン病患者が顔の動きで「いいね!」したり、動画の再生や上下のスクロールをしたりできることで、顔を動かせなくなって表情が失われる症状の改善につなげる。長時間、症状改善のエクササイズをするのは負担が大きいが、1日に頻繁に操作するスマートフォンの時間を活用できるようにした。「ファーマ」部門のグランプリなどを贈られた。

Missing Matoaka

先住民族の芸術と文化のオンライン・マガジン「MUSKRAT MAGAZINE」のプロジェクト。ディズニー映画「ポカホンタス」を映しながら同プロジェクトが制作した音声を再生することで、主人公のモデルとなった実在する先住民の女性が受けたとされる暴力を伝える。先住民の女性に対する固定観念とそれによる暴力に対する問題提起。「ラジオ&オーディオ」部門の金賞をはじめ多数受賞した。

ADLaM An Alphabet to Preserve a Culture

アフリカ西部の遊牧民であるフラニ族が使うプラール語は長らく話し言葉のみで、アルファベットがなかった。同民族のバリー兄弟が作った手書きのアルファベット「ADLaM」をコンピューター上でも使えるようにし、文化保存を支援するため、米マイクロソフトは同兄弟と協力して字形などを整えて、同社のシステムで動作するように設計された新しいバージョンのアルファベットをつくった。ギニアでフラニ族の子どもが母国語で学べる学校の開校や、マリでADLaMを公式のアルファベットとして使う承認手続きなどが進んでいる。「デザイン」部門など2部門でグランプリなどを獲得した。

(若狭美緒)

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

マーケティング SDGs ブランディング

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。