BizGateインタビュー/SDGs

JAXA発ベンチャー・天地人、衛星データで農業支援 櫻庭康人・代表に聞く

SDGs 宇宙 ベンチャー

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日本経済新聞社と日経BPは2022年12月5~10日、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みを共有・議論するイベント「日経SDGsフェス日本橋 2022 WINTER」を開催する。12月9日の「NIKKEI宇宙プロジェクトフォーラム SDGs×宇宙 ~宇宙が教えてくれる社会課題解決~」NIHONBASHI SPACE WEEK コラボセッションには、宇宙航空研究開発機構(JAXA)発スタートアップ、天地人(東京・港)代表の櫻庭康人氏が登壇する。櫻庭氏に事業の概要やSDGsについて聞いた。

「ゼロイチ」が得意 コンテスト機にJAXAメンバーと意気投合

――JAXA発のスタートアップとして、観測衛星から得られたセンシングデータを利用して個々の土壌に最適な農業を促し、効率的な食料増産を支援しようとしています。SDGsの目標2「飢餓をゼロに」に合致します。ご自身はJAXAのメンバーではないそうですが、会社の設立にはどんな経緯がありましたか。

櫻庭氏(以下敬称略) 私が得意とするところは(何もないところから新しい事業を立ち上げる)「ゼロイチ」の立ち上げです。最近10年間は様々なスタートアップ企業の立ち上げを支援したり、自分で起業したりしてきました。幼児教育やスマートフォン用のアプリ開発なども手掛け、美容師の資格も持っています。

(天地人を企業として設立する前の)14年からは農業の土壌水量のセンサー開発に取り組みました。というのも、世界の水の使用量は加速的に増加していますが、使用量が最も多いのは今も昔も農業用水です。そこで、農業用水をいかに無駄なく活用できるかということをコンセプトに開発に取り組んでいました。SDGs的な発想は自然に身に付きました。

そんなときに、JAXAに勤めている知り合いの方を経由して、「宇宙ビジネスコンテストというのが始まるんだけど、なんかちょっと一緒にやってみない?」ということでお声掛けいただきまして。私は地上のセンサーを開発していた訳ですが、宇宙という「面」のセンサーと地上に設置する「点」のセンサーとを組み合わせれば、いろいろと面白いことができると考えました。

そこから意気投合といいますか、盛り上がりまして。チーム「天地人」として、内閣府などが実行委員会となって開かれた宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2018」で審査員特別賞などを受賞し、19年に「株式会社天地人」を設立しました。JAXAとの兼任で新会社に参画してくれたメンバーもいます。

■衛星データ活用で農家の作業効率化

――JAXAのメンバーと開発した「天地人コンパス」は、観測衛星のビッグデータなどを駆使して解析、可視化、データ提供を総合的に行う土地評価サービスです。そうしたサービスの登場前は、どうだったのですか。

櫻庭 以前は各地の水田や畑にセンサーを設置し、実際に農家のニーズや課題を直接聞いていました。(宇宙からのデータを活用できるようにしたことで)農家のメリットも大きいと自負しています。気象条件などを手で入力したり、エクセルで管理したりしてきた農家は、衛星データで自動的に更新していくことで、これらの手間が省けます。農業の営み方も今後大きく変わってくる可能性があります。

―SDGsの視点は宇宙産業の裾野を拡大させるとの専門家の指摘もあります。宇宙ビジネスのなかで御社の特徴は。

櫻庭氏 天地人は宇宙スタートアップと呼ばれることもあります。ただし、衛星開発の企業が地球から宇宙へ出ていこうとするのに対して、我々は宇宙から地球を俯瞰(ふかん)するビジネスモデルです。

観測衛星のデータを「宝の山」と呼んでいます。そのままの形では社会課題の解決に役立てることはできませんが、地上のデータと人のノウハウ、農家の栽培ノウハウを組み合わせることで多くの新ビジネスが可能と考えています。

例えば、新しい品種の育成に最適な場所や、農薬をまくことなく気象条件だけでいいものが育つ場所といった情報を企業などに提供しています。もうひとつは、「今ある土地に何が適しているのか」という逆の発想で、(育成にふさわしい)品種の選定も行っています。

水田から発生するメタンガス、東南アジアのプロジェクト参加へ

――気象条件以外にも、衛星データの活用はありますか。

櫻庭氏 水田から発生するメタンガスの推定を衛星からやらせていただいています。(温暖化ガスとして知られるメタンは)水田からの発生も意外に多いです。

水田から発生するメタンを少しでも減らしていければ、地球温暖化の抑制に効果があります。衛星データの利用について、国内はまだまだ慎重な傾向が強いので、まず欧米企業を通じてインドと東南アジアのプロジェクトに参画する計画を進めています。23年はグローバルな事業を増やし、その技術を日本に逆輸入することを考えています。

――農業関連以外にもヒートアイランド現象など地表面温度の測定と分析、都市部における水道管の劣化判定などと事業領域を広げていますね。

櫻庭 水道管の観測は現在200以上の地方自治体から問い合わせを受けています。環境問題についても、衛星データに地上データ、人のノウハウを掛け合わせるという考え方はすべて一緒です。

■女性が4割 自由で働きがいのある環境作り目指す

――SDGsの目標8は「働きがいも経済成長も」です。この目標についてはどう考えていますか。

櫻庭 まだ60人程度の企業ですが、工学系の会社ながら女性の比率が4割を占めます。結果を出してもらえれば良いというジョブ型企業を目指し、基本的に自由度が高く柔軟な環境を整えています。テレワークはすべて認めています。海外から会議などに参加している社員もいれば外国籍の社員もいます。

研究者のモチベーションを上げられるように、自分の開発技術が社会実装できて社会課題の解決に役立っていると実感できるような企業目標を掲げるようにしています。

宇宙領域の開発を進めていると基本的に新しい技術が多く、特許の取得につながります。もちろん開発していたメンバーの名前は必ず記載し、権利関係も個人にしっかり還元します。働きがいのある職場環境を整えないと、人材獲得などで米国スタートアップと競えないという現実もあります。

■「地球を守る」 欧州企業も自分たちも当たり前に

――国連開発計画(UNDP)選定のチャレンジ企業として、西アフリカのブルキナファソ向けに、衛星データやAI(人工知能)を活用した土地評価技術などを活用し、農家への降雨情報提供システムも開発中と聞きます。同国は干ばつや洪水の影響を受けやすい農業国です。グローバルな事業展開をされていますが、日本の企業社会はSDGsを経営戦略に組み込むことが、まだまだ不十分との指摘があります。このあたりは、どうご覧になっていますか。

櫻庭 欧州の衛星開発企業や研究機関とやり取りしていると、日本が遅れているというより、グローバルな世界の方で社会意識が猛スピードで変わっているという実感があります。それだけ日本は慎重なのでしょう。日本では無理でも海外ならば計画を進められることが少なくない。SDGsという言葉にこだわることなく、「地球を守る」という意味で我々のできることは何か、欧州企業も我々も当たり前のように考えています。

――「ゼロイチ」がお得意ということですが、今後については。

櫻庭 宇宙ビジネスに関して当社には優秀なメンバーが集まっています。私より(代表に)適任な人もいるのではないかと常に思っています。それでも農業以外の新規分野をしっかりと根付かせ、日本から海外に出て、また日本に戻ってきて貢献する、といったところまではしっかり責任を持って取り組みたいと思っています。

(聞き手は佐々木玲子、松本治人)

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