■記念シンポジウム①
社会課題にチャレンジする人材、組織とは
横田氏 社会課題に興味を持ち、行動する人材はどうすれば育つのか。今回は高校生が大賞を受賞した。幅広く人材が生まれている現状をどう思うか。
上原氏 10~30代は早くからデジタルツールに触れ、様々な情報を得られる環境が当たり前にあった。世界中で起こることを身の回りの出来事と同じ次元で捉え、考えることができる。自分の考えを発露する場があるのも特徴だ。SNS(交流サイト)を使い、コミュニティーをつくって情報交換し、自分と共鳴・共感できる人と一緒に課題解決へ取り組める。私たちは既にある課題をどうやって解決するかと発想しがちだが、若い世代はそもそも課題が出てこない社会をつくるにはどうすればいいか考えている。こうした発想を受け止め、育んでいける環境づくりが大事だ。
北村氏 私が理事を務める一般社団法人では教育プロジェクトに取り組んでいる。活動を通じて感じるのは環境問題、気候変動に興味を持つ中高生の多さ。近い将来、私たちが生きる環境がなくなってしまうかもしれないという危機感を強く持っている。一方、教育現場では教師が社会課題について教えることへの戸惑いや抵抗感もあるようだ。私自身としては教えるというよりも何ができるのか伴走しながら考えていく姿勢を忘れないようにしたい。
玄田氏 挑戦する一人ひとりをみていかなければならない。今の若い人たちはSDGs世代などと呼ばれる可能性があるが、「世代」ではなく、自分をみて応援してほしいと訴えるべきだ。我々の社会は「氷河期世代」「ゆとり世代」とグループにしてみることで安心して、そこから先に進めなくなるところがある。会社組織も世代管理から離れ、一人ひとりにいかに期待し、能力を発揮してもらうかというところに向かっている。
横田氏 個人の能力を発揮するための「タレントマネジメント」はどうあるべきだと思うか。
上原氏 社会課題に挑戦する感性をどうすれば年齢を重ねても持ち続けられるか。「学び直し」が言われているが、人それぞれの成長をサポートする投資に本腰を入れる時代に来ている。入社後に基礎を学んだ後、実務をこなすだけになると、30~40代以降、会社や社会が求めるスキルとの乖離(かいり)が出てくる。課題解決に向けた多様な発想ができなくなってしまう。それから日本では空気を読んで発言をしない風潮があるが、人と違う意見をはっきり言える、周りはそれを否定せずに受け入れられる環境づくりも、学び直しとともに必要だ。
玄田氏 戦争や貧困など人類が解決していない課題はたくさんある。まだ見つかってすらいない社会課題があるのではないかという視点を皆が持つことが大事だ。例えば最近ではヤングケアラー。すごく大変な問題だというのが共有されていなかったが、これは大変だと今知恵を出し合うようになり始めている。社会は捨てたものじゃない。こうした課題を発見できる人材、組織を応援していかなければならない。
北村氏 教育現場で中高生をみていると、インターネット検索には慣れているけれど、すぐ答えを見つけようとする傾向があるように感じる。何が課題なのか。なぜ問題になっているのか。誰が困っているのか。まずはそこに目を向けていかなければいけないなと感じる。社会課題にもいろいろなものがある。身の回りの小さなところから、周囲を巻き込むなどして挑戦する人が増えていったらいいなと思う。
■記念シンポジウム②
SDGs時代に求められる 新しいビジネスのかたち
陶山氏 社会課題の解決と利益を両立する経営は難しいといわれている。両立するための秘訣は何か。
更家氏 我々は世界中で衛生用品を販売している。確かに経営にはリスクがあるし、毎日資金繰りを心配する。まずは会計をしっかりするのが基本だ。それからマーケティング。顧客情報や商品の潜在需要を「見える化」する技術がいる。シンプルに上手に回していけば、ある程度の規模まではできると思う。
藤野氏 社会性と利益はつながっている。社会性のないビジネスはない。問題なのは何のために仕事をしているのかという問いかけがなくなり、ビジネスの持続そのものが目的となってしまうこと。「パーパス(存在意義)」が大切だといわれるようになったが、何のための事業かを再認識すべきだ。伸びている会社の3条件に「お客様第一主義」「長期目線」「データ主義」がある。これが会社都合主義、短期目線、社長・上司の勘になってしまう。こうした問題を抱えている企業は多い。
秦氏 私たちは宮崎県でピーマンの自動収穫ロボットを開発している。1次産業は技術を使って改善、効率化できる余地が多くある。自動運転技術や産業用ロボットになると高い精度が求められるが、1次産業であれば、そこまでいかなくても現場で役に立つかもしれない。エンジニアからすればやりがいがあると思う。社会課題に取り組むのであれば現場がすべてだ。農家の皆さんと話をしながら、課題の近くに身を置く重要性を実感している。
更家氏 日本ではこれまで投資にそれほど積極的ではなかった。コンセプトチェンジが必要だ。ビジネスはもともと社会課題解決のためにあるはずだ。SDGsを自分事として語る人が増えてくれば、日本も変わってくるのではないか。社会課題自体がビジネスだという心構えを持ってほしい。
藤野氏 「SDGsを自分事として考える」というところは希望が持てると思う。これまでは「社会の一員・歯車になれ」と教育されていたが、近ごろのSDGs教育の根底には「あなたが社会をどう変えていくか」がある。私が主人公だという発想で考える人が出てきていて、結果的に大きな影響を社会に与えるのではないか。
陶山氏 もともと経済産業省で官僚をしていた私からすると、「手触り感」はキーワードだ。霞が関にいると、自分の仕事がどう役立っているのかなかなか分からなかった。自分で事業をすると、何事も直接返ってくる。政策や社会が自分とつながっていると感じられる。
秦氏 地域には挑戦できる環境がある。人も資金も集まらないといわれるが、そうした課題を乗り越えられれば、パーパスの力が発揮できる場だ。移住してまでやりたいメンバーと一緒に前へ進めるのは楽しい。会社を成長させ、よき前例をつくっていきたい。
更家氏 日本の五輪選手をみていても、楽しみながら成績を上げている。時代は変わってきている。自分で考え、様々なネットワークを使って能力を身につけ、したたかにソーシャルビジネスをやっていこう。
藤野氏 これから大事なのは夢やワクワクする、楽しいことをすることではないか。SDGsも他のビジネスも同じだと思うが、楽しくワクワクするところ、時代を切り開くところに人が集まる時代になっているのではないか。
CO2排出見える化、行動促す
日々の暮らしの中で排出される二酸化炭素(CO2)の量を記録し、その削減方法を提案するアプリ「かけいぼぐらし」を考えた。排出量を「見える化」し、実際の行動につなげてもらうのが狙い。SDGsについて学ぶ高校生の目線で、ゲーム感覚で楽しみながら続けられるよう知恵を絞った。
きっかけは気候変動に関する学習。今回のプロジェクトのメンバーは京都大学大学院の宇佐美誠教授(地球環境政策論)を招いた特別講義や環境イベントに参加。将来に危機感を抱き、実際に行動を起こそうと話し合った。
アプリは日本の家庭で使われている家計簿からヒントを得た。CO2排出は地球の未来に対する一種のコストだとすれば、家計簿の支出と似ている面があると感じたのだという。ゲーム感覚で楽しく利用できる点を意識。企業に協力を求めながら、環境に配慮した商品のクーポンがもらえるようにするなど、継続利用してもらえる仕掛けを検討していく。
今後アプリの開発・改良を続け、中高生の環境教育にも活用してもらう計画だ。代表の根来一葉さんは「将来を担う私たちがムーブメントを起こせるよう、多くの人とのつながりを大切にして前進していきたい」と話す。
在日外国人家庭へ 留学体験
経済的事情などで留学に行けない子どもたちと日本在住の外国人家族を結びつける「まちなか留学」を展開する。地元の沖縄県や関東圏を中心に、子どもが外国人家庭を訪問。週末をともに過ごしながら外国の文化や言葉に触れてもらう。
例えばホストファミリーと会話を楽しんだり、その国の料理を一緒につくって味わったりできる。留学が難しい子どもはもちろん、日本人と交流する機会がないという外国人の声も受けて活動を始めた。
会社の創業メンバーでもある冨田啓輔最高執行責任者(COO)は「多文化共生社会の実現に向けた社会インフラにしたい」と話す。基金を設け、支援が必要な家庭の子どもは無償で参加できるようにしている。
新型コロナウイルス禍で海外へ行く機会が減り、まちなか留学の需要は増えているという。今後は活動地域をさらに広げる方針だ。
放置山林と森林組合つなぐ
放置山林の所有者と森林組合をつなぐ枠組みづくりを提案した。組合には山林が持続的にCO2を吸収できるよう適切に管理してもらい、温暖化ガスの削減効果を示す「カーボンクレジット」を得られるようにする。環境配慮企業に売却することで所有者と組合に資金がわたる。
きっかけは代表の吉武遼さんが祖父から受け継いだ地元の山林。「山林管理の経験がなく、誰に相談すればよいかも分からず途方に暮れていた」。それでも固定資産税は毎年かかる。「山の価値を生かせずにお金を払い続けるのは変だ」と今回の事業を考えた。
デジタルプラットフォーム構築を目指すが、実際に山林を管理する若手人材の不足など林業の現場は多くの課題を抱える。吉武さんは「林業のデジタル化を後押しし、日本の豊かな山林資源の価値をもっと高めていきたい」と強調する。
福祉の実情と魅力を学生に
学生との接点を増やしたい福祉施設と、福祉に関心があってもなかなか行動に移せない学生を引き合わせるサービスを展開する。学生には福祉の現場の実情や魅力を知ってもらい、施設にとっては人材不足の解消につなげてもらう。
椙山女学園大学4年(現在は休学中)の鈴村萌芽代表は福祉に関心があり、ボランティアを始めた。ただ手伝いに訪れた施設の人手不足は深刻。自分1人でできることには限界があると感じた。
そこで施設と学生を結びつけるアプリをつくった。募集には「クリスマスオーナメントを一緒に作る」など専門知識がなくても挑戦できそうな内容が並ぶ。「まずは体験してもらえれば、福祉のイメージを変えることにつながる」と鈴村さん。現在は東海地方を中心に展開するが、将来は九州や関西圏にもサービスを拡大していきたいという。
*所属や学年などは2022年3月時点。