大日本印刷(DNP)は2023年11月から仮想空間メタバース上で企業の複数部門が連携しサイバー攻撃に備えるトレーニングを提供する。サイバー攻撃を受けるとIT(情報技術)システム部門のほか複数の関係者が対応する必要がある。遠隔地からでも現実に近い感覚で利用できるメタバースの特性を生かし、非常時に備えた危機管理能力を高める。企業のマネジメント層向けに25年度には年間20億円の売り上げを見込む。
マネジメント層が4人1組で連携
DNPが2023年11月8日から始める「組織連携コース_メタバース演習」は、同社が16年に始めたサイバーセキュリティ人材育成サービス「サイバーナレッジアカデミー」の新コース。社外からのサイバー攻撃などの事案が発生した際、対応を指示する責任がある情報セキュリティ担当のCISO(最高情報安全責任者)、サイバー事故対応の専門組織「CSIRT(シーサート)」の責任者、サイバー攻撃を受けた部門の事業部長、広報部長のマネジメント層の4人が、それぞれの役割に分かれてメタバース上で演習する。事案発生時に取るべき行動や組織連携のあり方について場所の制約なしに学ぶ。4人1組で2時間程度のコースを受講する。販売価格は1回あたり55万円。
部門横断型のサイバーセキュリティ演習は従来もあったが、会場の準備や参加者の調整などに時間がかかった。DNPが提供する演習は遠隔地からでも参加できる。メタバース上で実施することで、遠隔地からオンラインで参加しても臨場感のあるサイバー攻撃への対応を体験できる。DNPでメタバースを担当するABセンターとサイバーセキュリティ事業開発ユニットを担当する谷建志ユニット長は「サイバー攻撃は未知の分野で(未経験のマネジメント層は)想像できない。メタバース空間を活用することで(トレーニングの)ハードルを下げたい」と説明している。
2つの事業を組み合わせ
同演習のシナリオはサイバーディフェンス研究所の名和利男・専務理事が監修した。名和氏はCSIRT構築やサイバー演習、デジタル情報を回収・分析するサイバーセキュリティの第一人者で、多くの事案対応の実績がある。名和氏はDNPのサービスについて「場所や時間を選ばずに没入感のある環境を体験できるので非常に有益だ」とみる。
DNPは16年に始めたサイバーナレッジアカデミーを通じて、CSIRTなどの実務者を対象とする研修や企業の経営層向けのセキュリティ講習を累計280社・7200人に以上に提供してきた。一方、メタバース事業にも力を入れており、23年7月にロールプレイング型のメタバース構築サービスの提供を始めた。金沢貴人・常務執行役員は「(サイバーセキュリティとメタバースの)2つの事業を組み合わせてDNPならではの価値を提供し、各企業の発展に寄与したい」と意欲を見せている。
(原田洋)