職場を見限って仕事を辞める人は、自らモチベーションを落として、決断に至ると思われがちだ。しかし、実際には「上司やリーダーの配慮を欠いた振る舞いが引き金になったケースが多い」と、経営コンサルタントの松岡保昌氏は説く。「やる気を下げる要因」を取り除くことは結果的にチームの競争力を守るという。著書「こうして社員は、やる気を失っていく」(日本実業出版社)でチームの意欲を奪いかねない「問題行動」を挙げた松岡氏に、モチベーションを損なわない管理職スキルを教わった。
キャリア支援畑のプロ
ファーストリテイリングで2000年から執行役員人事総務部長を務め、当時の急成長を人事戦略面から支えた。04年にはソフトバンクへ移り、ブランド戦略室長を務めた。プロ野球の福岡ソフトバンクホークスでは取締役に就き、球団の立ち上げを担った。もともとはリクルートで就職情報誌の編集や組織人事のコンサルティングを経験した、キャリア支援畑のプロだ。
様々な企業で多くの働き手・チームと向き合う中で「働き手がやる気を失うのではなく、上司・リーダーの言動がやる気を下げているケースが多い」と気づいた。本書ではいろいろな「問題行動」の実例を挙げて、モチベーションを損なわない振る舞い方を指南している。
直近の3年間は、働き手がモチベーションを保つうえでは「かなり難しい状況だった」と、松岡氏は振り返る。理由は新型コロナウイルス禍の影響で上司やリーダーとの接点が減ったからだ。オフィスから人が消え、チームメンバーは孤立感を強めた。これまでは日常的だった、通りがかりの声掛けや、対面での相談・雑談のチャンスが失われ、「職場の居心地は格段に損なわれた」(松岡氏)。
だが、働き手のやる気をそぐのは、こうした疎外感だけではない。部下やチームメンバーへの心配りが足りない上司・リーダーは普段から職場の意欲をダウンさせている。「心理面で上司・リーダーがやってはいけない言動というものがある。しかし、大半の管理職は勘と経験に頼って、部下やチームメンバーとの対人関係をこなしている。本来はきちんと習得すべきスキルであり、経験則に頼ってはいけない」と、松岡氏はありがちな自己流の振る舞いを危険視する。
上司・リーダーの心得は観念的に語られがちだ。「思いやり」や「リーダーシップ」などの抽象的な物言いは、多くの管理職が大切だと頭では理解しているものの、実際の行動には生かしにくい。松岡氏は「具体的な所作のレベルに落とし込んで、『べからず集』的にルール化しないと、日々の行動をコントロールするのには役立たない」という。例えば、「目を見て話さない」といった悪しき行動パターンを禁じ手にするような取り組みのほうが実効性が高い。
もっと細かくいえば、「部下から話しかけられたら、パソコンの画面を見るのをやめる」といったリアルな動作レベルで自分を律していかないと、悪い癖がぶり返してしまいやすい。スキル化するというのは、常に繰り返せる能力として身につけることであり、ばらつきがあるのは好ましくない。「部下に横顔を見せない」といった、禁じ手を意識しやすい所作の形でルール化するのは、相手のやる気を損なうミスを防ぐうえで効果があると、松岡氏はNG行動の「見える化」を促す。