急速に進化する人工知能(AI)。会話型AIなどの生成(ジェネレーティブ)AIは、金融サービスにどのような変化をもたらすのだろうか。FIN/SUM2023では、AI分野をリードするマイクロソフトで金融サービス事業に携わる藤井達人氏が、クラウドコンピューティングサービス「Azure」への導入と活用について講演。また同社傘下に入った音声認識・声紋認証テクノロジー企業、ニュアンス・ジャパンの清水直幸氏が登壇し、AIを用いた業務改善と顧客満足度の向上について、国内外の事例を交えて語った。その模様を紹介する。
ChatGPT、業務に活用し顧客体験を向上
藤井 達人氏
日本マイクロソフト 金融サービス事業本部 業務執行役員 金融イノベーション本部長/日本ブロックチェーン協会 理事
OpenAIが開発した会話型の生成AI、ChatGPTが2022年11月に無料公開され、AIのトレンドが大きく変わりました。生成AIはディープラーニングの中でも最近の技術によって構築された非常に大規模な機械学習モデルですが、今やそれを手軽に活用できるのです。
ChatGPTはGPT3、GPT4と呼ばれる大規模言語モデルをベースにしています。事前に学習した膨大なテキストデータを元に、類型化やその組み合わせを行い、簡単な入力に対して正確でクリエイティブな回答を生成することができます。誹謗(ひぼう)中傷や差別的発言を防ぐようにトレーニングされており、多くの人が使っても好ましい対話ができるのも特徴です。最近リリースされたGPT4では性能が向上し、誤った回答も減りました。MBA試験や米国の医師国家資格試験の問題を解いた結果、合格ラインに達したという例もあります。
OpenAIとマイクロソフトはパートナー関係にあり、マイクロソフトのクラウドコンピューティングサービスでも、「Azure OpenAI Service」としてGPT3、GPT4、Codex、DALL-Eなど同社の生成AI技術を提供しています。Azure OpenAI Serviceは、実際の業務における活用を前提に機能追加や調整がされており、品質保証(SLA)やコンプライアンス、アクセス制御など、企業がAIを活用する上で必要な要件が盛り込まれています。
金融サービスにおいても、様々なユースケースが想定されています。問い合わせ対応や、将来的には高品質なファイナンシャルアドバイスといった顧客体験向上をはじめ、ほぼすべての業務に活用できるでしょう。従業員向けにも、社内検索精度の大幅向上や、融資の稟議(りんぎ)書作成支援、マーケティングなど、様々な分野で効率をあげることが期待できます。まさに人を支援するコパイロット(副操縦士)になるのです。
Azure OpenAI Serviceを業務に展開する場合、まず組織内部で使用し、機能や使い方を把握することが大切です。次に、顧客と直接対話する「コパイロットエージェント」を部分的に開放し、フィードバックを受けて改善していきます。最終的には、自社のサービスに生成AIを組み込み、自動化を含めたサービス変革につなげることを目指します。自社サービスをどのように変えるか研究し、成熟した段階で大々的に展開するということです。
オフィスアプリケーションにGPTテクノロジーを搭載したMicrosoft 365 Copilotは、Word、Excel、PowerPoint、Outlookなどの作業効率を向上させるサービスで、一般リリースに向けて開発が進んでいます。今後もマイクロソフトはAIを各サービスに導入し、業務変革を支援していきます。
顧客の声で本人確認、詐欺被害防止も
清水 直幸氏
Nuance Japan エンタープライズ事業部 プリンシパル セールスエンジニア
約1年前にマイクロソフト傘下に加わったニュアンス・コミュニケーションズは、「声」「会話」の技術を生かし、新しい時代の個人=「シン個人」の時代における金融の価値を創出しようとしています。これからのサービスは分かりやすさが必須事項であり、音声技術は一つの解決策です。
クラウドに特化した音声技術を様々な企業・サービスに提供している中で、声紋認証は、本人確認のためにグローバルに採用いただいています。金融業界においても声紋認証は身近なサービスで導入が進んでいます。例えば、コールセンターやアプリでの本人確認の際に声をAIで認証し、残高照会や送金手続きができるといったものです。
ニュアンスの技術を搭載したマイクロソフトの「Microsoft Digital Contact Center Platform」は、安全で効率的なコンタクトセンターを構築できるプラットフォームです。顧客の声で本人確認するとともに、AIにより会話の意図を分析し、顧客対応の向上に寄与します。オムニチャネル対応で、ボイスボットとチャットボットで一貫した対応をすることが可能です。
声紋認証の精度が高く、短時間で本人確認ができるのも特徴です。特に金融業界では、オンライン認証が増える中でなりすまし被害を防ぐことが重要なテーマになっていますが、当社は1000以上の特徴点を用いて本人確認を行い、99%という高精度の認証成功率が実現されています。
声紋認証にはアクティブ認証(固定パスフレーズ)とパッシブ認証(自由発話)の2種類があり、なりすまし犯を検出し、ブラックリストに登録する機能もあります。パッシブ認証であればパスワードを覚える必要がなく、簡単な認証と詐欺被害防止を両立できます。企業にとっては、コスト削減や企業価値向上の効果もあるでしょう。
国際的な金融機関であるバークレイズでは、97%のお客様が声紋登録を済ませています。HSBCでは、本人確認業務などを自動化したことで、月に8400時間削減ができました。ナットウェストでは、声紋認証によって既存の対策では防ぎきれないなりすまし被害を防いだと評価されています。アフラック(生命保険)でも、本人確認の時間を約90秒から約30秒に短縮したというデータがあります。
OpenAIのGPT技術も使い、会話の意図理解率も95%まで高まっています。声紋認証技術を通して、より多くのコールセンターの効率化や顧客対応改善、セキュリティー向上に寄与していきたいと考えています。会話を使った親しみやすく理解しやすいサービスの実現をサポートし、新たなエコシステムを作り上げていきます。