テレワークを軸にした働き方はビジネスの「ニューノーマル」として定着しつつある。足かけ4年に及ぶ新型コロナウイルス禍は日本企業のオフィス風景を劇的に変えた。リモートワーク研究所所長の八角嘉紘(ほすみ・よしひろ)氏は「これからのチームリーダーにはオンライン会議の運営スキルが必須」と説く。ニューノーマル時代の働き方マニュアルともいえる著書の『テレビ会議で顔を出せ! リモートワークの新常識45』(インプレス )を参考に、チームリーダーに求められるテレワーク術を聞いた。(前回の記事「オンライン会議で『顔を出せ!』 気疲れ不調に要注意」)
2019年12月に新型コロナウイルス感染症が発生してから、既に約2年半となる。その間に新卒者を迎える春が3度あり、「新人研修や職場内訓練(OJT)を十分に受けられなかった若手が積み上がってきつつある。人事育成の面では無視できない痛手となりかねない」と、八角氏は指摘する。ただ、マスク着用に代表される、各種の規制がいくらか緩んでも、以前のように「密」な接し方は難しい。オフィスにおける新人・若手との「距離感」はこの先も悩ましい課題であり続けそうだ。
オンライン会議はこうした新人・若手の疎外感を生む一因とみられがちだが、八角氏は「必ずしもオンライン会議が悪いわけではない。むしろ上手に使って、心理的な距離を縮めるのが得策」と、賢い活用を提案する。コツは「リアル会議の代用品」という位置付けを改めて、「コミュニケーションのアクセラレーター(加速器)」と捉え直すところにある。新人・若手が上司や先輩、同僚とつながることのできる、貴重な「場」となっているだけに、「新人・若手が発言ゼロで終わるような会議ではもったいない」(八角氏)。
大勢が参加する会議では新人・若手が自分の気持ちを述べるチャンスは少ないが、1on1式のミーティングを取り入れれば、悩みや現状を打ち明けやすくなる。「オフィスとは違って、リラックスしやすい在宅勤務の環境が素直な発言を引き出すのに一役買ってくれる」(八角氏)。上司・先輩にとっても、いちいち会議室を押さえる手間を省けるうえにスケジュール調整も楽で、新人・若手との接点を増やしやすい。
クライアントから同研究所に寄せられる相談では、「かつての職場で普通だった、新人・若手の席を通りがけに『最近、どう?』と声を掛けるような気安いコミュニケーションができなくなった」という声が聞かれるという。オフィスに人が戻りつつある状況だが、「以前のようにフル出社態勢に戻る可能性は低い。今のテレワークに近い出勤状況が長期的に続くとみるほうが現実的」と、八角氏は見通す。
議案があって、会議を設定するという旧来の発想にとらわれないオンライン会議の使い方も視野に入れたいところだ。「会議」という名前に引きずられて、まっとうなアジェンダ(課題)がないと、呼び掛けてはいけないのではないかと思い込みがちだ。しかし、八角氏は「便利なツールとしてマルチに活用したほうがいい。上司やリーダーが開催権を独占しないで、『ちょっと、ご相談』程度のミニミーティングを、誰もが呼び掛けやすい雰囲気をつくるほうが新人・若手の孤独感をやわらげるうえでも効果が見込める」と、「上意下達」式ではない便利使い・普段使いを促す。