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スプツニ子!氏 フェムテック新会社で目指す社会変革

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日本経済新聞社と日経BPは2023年5月8〜13日、SDGs(持続可能な開発目標)について議論するイベント「日経SDGsフェス」を開催する。12日のジェンダーギャップ会議にはアーティストのスプツニ子!氏が登場し、女性の心身の課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」の最前線をテーマに対談する。法人向けにフェムテックを活用して多様な人材の活躍を支援するCradle(クレードル、東京・渋谷)を立ち上げたスプツニ子!氏に、起業に踏み切った理由や今後の事業展開について聞いた。

企業の担当者の助けに

――クレードルのサービス内容を教えてください。

「導入企業の従業員は専用サイトにログインすると、ヘルスケアやダイバーシティー(多様性)などに関する様々な動画を視聴できます。月に2回、リアルタイムのオンラインセミナーを開催し、女性や男性の更年期、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)、『フェムテックとは何か?』といった多様なテーマについて専門家に話してもらい、参加者は質疑応答を通じて学べる仕組みです。北海道から沖縄県まで100以上の医療機関と提携し、卵巣の予備機能を調べる『抗ミュラー管ホルモン(AMH)』検査といった診療サポートサービスも提供しています」

「正しい情報に早くアクセスできるのがポイントです。企業でも女性の健康やダイバーシティーに関するセミナーが開催されていますが、人事部などの担当者の多くは、そもそもどんな先生を呼べばいいかわからず困っている。クレードルでは専門家のネットワークを築き、動画をすべて独自制作しています」

「今、働く時間の8割をクレードルに割いています。大学の仕事もフルタイムで続け、アート作品も作っています。長時間労働だと誤解されますが、決してそうではありません。午前9時から午後6時まで働き、土日は休む。テクノロジーをどんどん取り入れていて、人工知能(AI)を資料や文章作成で活用しています」

テクノロジーに潜むバイアス

――アーティストや大学教授などの立場で社会に発信し、働きかけてきました。企業向けサービスを手掛ける会社を立ち上げようと考えたのはなぜですか。

「10年に、男性が女性の生理を疑似体験する『生理マシーン、タカシの場合。』という映像作品を発表しました。当時は日本でも海外でも生理の話題がほとんどメディアに取り上げられず、女性の多くが生理痛への対処法を知らずに我慢するものだと思い込んでいた。生理でおなかが痛くなることと血が出ることを体験できると、相互理解が生まれ、議論につながり、世の中が前進するんじゃないかと考えました」

「問題意識を持ったのは大学1年の時。大学ではコンピューターサイエンスと数学の勉強をしていました。テクノロジーは人間の様々な課題を解決してきて、これだけ技術力があるのに、たくさんの人が悩む生理に対して全く課題解決していないのはおかしいと思うようになりました」

――おかしいと思ったきっかけはありますか。

「驚いたのは大学で留学した英国での出来事です。病院に生理痛の相談に行ったら、ピルを処方された。私は中高生時代から痛くて学校を休むことがあったくらいつらかったんです。ピルは避妊だけでなく生理痛緩和にも使えること、連続服用で生理の回数も減らせることをその時に初めて知りました」

「自分は勉強も理系も大好きなのに、これほど重要な知識に出合うのにこんなに時間がかかったのはおかしい。そう思って調べると、日本では直前までピルが承認されていなかったとわかりました。テクノロジーは人類にとって平等に進んでいなくて、誰が力を持っているかによってどんな医療が承認され広がっていくかが左右される。テクノロジーも医療も男性が多い世界で、女性のニーズは後回しになるという構造的なバイアス(認知や行動の偏り)があることに気づきました。そんな問題提起をしたいという思いが、アーティストとしてデビューした根源にありました」

もっと早く、多くの女性を救いたい

――順調にアーティストとしての影響力が大きくなるなかで、いつ起業を考え始めたのでしょうか。

「10年代の半ばからフェムテックの動きが欧米で盛り上がり、性暴力やハラスメントを告発する『#Me Too』運動をきっかけに多くの女性が生理や更年期などの健康課題について声をあげるようになりました。まさに自分が取り組みたいと思ってきたテーマだと。美術作品の発表やメディアでの発信を通じて行動することもできましたが、身近にスタートアップを経営する友人が多く、プロダクトやサービスがダイレクトに働き方やライフスタイルを変える可能性を持っていると感じていました。アーティストとして、新しい作品として起業できないかと思い始めたんです」

「一緒に創業した小島由香最高財務責任者(CFO)は同世代で、働く女性として妊娠・出産のタイミングや生理など体調のことでフラストレーションを感じていた。2人で話して、クレードルを構想し始めたのは18年の終わりくらいです。彼女は2回目の起業でノウハウがありました。話を聞いていると、アートで資金調達してチームを作って制作するプロセスとすごく近いと感じました」

「働く女性は年齢的に妊娠・出産のタイミングで悩みやすいので、卵子凍結に関する事業を考えていました。しかし、実際に法人化してヒアリングを始めると、今の日本で卵子凍結をしたい女性は非常に限られた都市部の一部の女性で、むしろ不妊治療や生理、更年期に悩む人が多いと気付きました。また、早期に法人向けサービスとして検討を始めました。女性個人はすでに賃金格差などで悩んでいる。資金のある企業に支援してもらう方が、もっと早く、多くの女性が救われると考えました」

導入企業の利用者の4割は男性

――クレードルは導入企業の数が伸びています。

「22年4月に現在のサービスを正式にスタートしました。公式サイトには導入した15社のロゴを掲載していますが、未掲載を含め現在30社以上に利用いただいています。金融や自動車、エネルギーなど幅広い業界の大手企業に導入されています」

「導入企業の従業員で動画を視聴するなどした利用者の4割は男性です。男性にも更年期症状があることはあまり知られておらず、セミナーで取り上げたところ予想を上回る参加者が集まりました。今後は男性向けコンテンツを増やすことで、男性にも自分事として考えてもらうきっかけをつくり、社会を変えていきたい」

(聞き手は若狭美緒)

 

 

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