駅弁好きは毎年1月が待ちきれない。東京・新宿の京王百貨店新宿店で「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」(以下、駅弁大会)が開かれるからだ。1月7〜22日の第58回は新型コロナウイルス禍を乗り越えて、本格的な規模で開催され、待ちかねた駅弁ファンでにぎわった。百貨店の物産展としては最大級の規模・売り上げを誇る名物催事の秘密に迫った。
全国各地の駅弁が集められ、その数は44都府県の約300種類にのぼる。36の駅弁調製元による「実演販売」も呼び物で、たくさんのブースが所狭しとフロアを埋め尽くす。今回のメイン会場となった7階大催場は名物駅弁それぞれの香りに包まれた。駅弁大会は「いつからか『駅弁甲子園』と呼ばれるようになっている」と、食品・レストラン部酒・進物・催事担当の堀江英喜統括マネージャーは話す。
1966年2月に第1回大会が開催された。年に1回のペースだから、既に半世紀を超えている。百貨店の催事としては異例といえるロングヒットだ。そもそも、なぜ京王百が駅弁大会を開くことになったのか。京王百側の説明では「当時、髙島屋との提携関係があり、先に駅弁イベントを開いていた髙島屋からヒントを得た」という。現在は京王百が独自に企画・運営している。
初期を除いて、毎年1月に開催している。これだけ人気があるのだから、年に2度、3度と開催してもよさそうに思えるが、1月の開催には「ちゃんと理由がある」(堀江氏)。第1回が2月開催だったことからも分かる通り、もともと百貨店業界で客足が落ち込みがちといわれる「ニッパチ(2月と8月)」の集客対策として始まった。高度経済成長の時期に各地への旅行熱も高まり、駅弁を味わう人も増えた。旅先で知った味を駅弁大会で追体験したいというニーズも広がったようだ。
ニッパチ対策であれば、8月も候補になりそうだが、堀江氏は「ありえない時期」と首を振る。なぜなら、夏の暑さは駅弁の大敵だからだ。駅弁は各地から運ばれてくる。遠隔地の場合、輸送に時間がかかるケースも珍しくない。真夏の開催では、食材が傷んでしまうリスクが1月よりずっと高まる。気温がまだ低い真冬の1月は駅弁大会のベストシーズンなのだ。なまものを扱う実演販売での安全性を考慮してもやはり真冬が望ましい。「1年の始まりに華やかな催しとおいしい駅弁はふさわしい」という思いも込められているという。