長く続いたコロナ禍が収束しつつあり、各地のリゾートに活気が戻ってきた。本格的な行楽シーズンを迎えたこの期を捉え、今回の「日経地方創生フォーラム」は、旅行需要の高まりを地域の活性化につなげる新たな動きにフォーカスする。リアル会場となった日経ホールのステージには自治体や政府関係者、宿泊業関係者、識者が登壇。人材不足という観光・宿泊業界の窮地を救う担い手として急速に存在感を増している「リゾートバイト」の活躍や、観光デジタルトランスフォーメーション(DX)などリゾート再生に向けた様々な取り組みを講演で紹介。パネルディスカッションでは観光を原動力に進むこれからの地域づくりに向けて熱気あふれる討論が展開された。
【ご挨拶】
デジタルを力に
岡田 直樹氏 内閣府特命担当大臣(地方創生)/デジタル田園都市国家構想担当大臣
オンラインによる遠隔医療や教育、働き方改革など、デジタル活用のニーズは地方にこそある。人口減少や少子高齢化、地域産業の空洞化といった地方の社会課題解決に向け、デジタルを成長の原動力にしていくことが重要だ。
このため内閣府では、デジタル田園都市国家構想交付金などを通じ、約1000団体のデジタル実装を支援。デジタルの力で地方創生を推進し、便利で快適な社会の実現を目指す。昨年12月には2027年度まで5カ年の具体的目標と工程表を示した総合戦略を策定。今後はそのフォローアップと、一層の深化・具体化に向けた戦略の改定を行い、構想の早期実現を図る。
観光立国復活へ
和田 浩一氏 観光庁 長官(6月27日時点)
全国旅行支援や水際措置の大幅緩和などを背景に、わが国の旅行需要は本格的な回復を見せている。この動きを加速するため、政府では3月に観光立国推進基本計画を策定、観光を原動力とする持続可能な地域づくりを進めている。
全国には独自の歴史、文化、自然、食など様々な魅力が存在し、インバウンドにはそれらが極めて魅力的に映る。大都市圏中心だった彼らの旅行先も今後は地方に広がるだろう。ただ、こうした観光資源も、人口減少や高齢化などにより失われつつある。今後は地域で観光客を誘致し、地元で消費されたお金を伝統文化に再投資し守っていく仕組みづくりが重要だ。
地方に潜在する資産生かせ
須永 珠代氏 AINUSホールディングス 代表取締役
ラグジュアリーというと「ぜいたく」「高価」といったイメージだが、私が伝えたいラグジュアリーは「人の心を豊かにするもの」、「新ラグジュアリー」だ。私はこの10年間、全国の地方自治体をくまなく訪問、伝統文化に基づいた新ラグジュアリーが着実に生まれつつあることを実感してきた。
観光客1人当たりの消費額が少ないのに生産人口が減っている今、地方の観光業に求められるのは、労働生産性を上げ、高付加価値のラグジュアリーに特化することだ。地方のラグジュアリーホテルの数は世界と比べると圧倒的に少ないが、それだけ伸びしろがあるということでもある。
そこで私は、地域にお金の落ちる仕組みをつくろうと、徳之島に「YUUNA」という高級ヴィラを町と共同で5棟開設した。同町所有の土地で、海を見晴らす絶景の場所。これまではトイレしかなかったところをよみがえらせた。今年4月のオープン以来、「プライベートジェットで訪れたい」といった富裕層からの問い合わせも多い。全国にはこうした大絶景を持つ自治体所有の土地が無数にあり、これを生かさない手はない。
実は、「ローカル×富裕層」はすごく相性が良い。泊まる人が富裕層なら落とす金額は格段に多く、周辺への経済効果も大きい。人手不足でたくさんの人を受け入れられないとすれば、富裕層にターゲットを絞っておもてなしするのも一法だ。ブータンでは1日2万6000円の観光税を取ると宣言したが、観光業を持続可能な産業にする上での英断だと思う。
【パネルディスカッション】
新ライフスタイルを提案
庄子 潔氏 ダイブ 代表取締役
清水 良氏 ヒューマニック 代表取締役社長
柿沼 宏明氏 観光庁 観光産業課 課長(6月27日時点)
山中 哲男氏 トイトマ 代表取締役社長 【コーディネーター】
山中 少子高齢化による人材不足の深刻化で、働くよそ者〟の力が必要になっている。解決策の一つがリゾートバイトだ。
庄子 リゾートバイトは学生が多いと思われがちだが、当社では25〜44歳の社会人がメインだ。住み込みなので生活費負担がない経済的メリットがあるほか、人との出会いやつながりを通じて多様な価値観に触れたい人々が就業している。生き方が多様化する中で、世界が広がる点が支持される理由では。
清水 観光業は繁忙期と閑散期の差が大きい。流動的な人材のニーズを支えるのが、われわれが提供するリゾートバイトのサービスだ。全国の観光地と取引して地域間に必要な観光人材をマッチングできる。低賃金というネガティブなイメージがあるが、実際はわれわれ派遣業が先行してダイナミックに賃金を上げられるメリットがある。
庄子 「気に入った土地に移住したい」と勤務先でのつながりを広げ移住を果たした人も多い。移住促進のハードルは高いが、リゾートバイトの「旅行以上移住未満」の距離感だからこそ移住につながると思う。
山中 働き手不足に陥っている現状だが、観光業の構造から見直す必要はあるのか。
柿沼 観光業は昔から賃金水準や生産性が低い問題がある。観光庁では初の経営ガイドラインを策定し、実効性を高めるために補助金支給とうまくリンクさせて旅館の構造改革を進めている。日本の宿泊産業や観光業は団体旅行が隆盛だった時期のビジネスモデルであり、日本全体で見直しを考えていく時期ではないか。地域が輝きを取り戻すには、観光業を「持続可能な稼げる基幹産業」にすることが重要であり、観光庁の使命だと考えている。
清水 人材の定着のためには労働環境や賃金の見直しに加えて、何のために自分が働いているのか、自分が働いた結果でどうなっていくのかを、企業がしっかりイメージした上でマインドセットすることが重要だ。ビジョンや意義を伝えないと残念な結果になってしまう。
山中 事業者の意識改革や経営改革は前提として、観光業の活性化のキーポイントは「人」にある。働き手が未来に希望を持って働けるようになるために必要な取り組みは何か。
柿沼 観光庁としては観光業の構造改革を進めると同時に、働いている方々が観光業に従事することに対して矜持(きょうじ)を持てるようなメッセージの発信に取り組んでいる。
庄子 担い手を増やすべく、リゾートバイトをしながらリモートで別の仕事をするなど多様な働き方、新しいライフスタイルのあり方も打ち出したい。
清水 単体の事業者で考えていくのは限界がある。持続した地域の発展という大目標のために、地域の集合体で課題に対する意見を出し合い、知恵を持ち合うことも大事だと思う。
柿沼 外国人観光客が「日本の温泉地はどこも似ている」と言うことがある。各地が地域資源を十分生かせているわけではなく、個性あふれる魅力を持った地域をつくるべきだ。そのための地域経営が大変重要だ。働き手の確保という意味でも、まさに「住んでよし、訪れてよし」の地域をつくっていかなければいけない。
山中 よそ者の意見を取り入れ、行政や観光産業事業者、人材を送り出す事業者がチームで盛り上げる意識を持つことに地域経済の活性化の突破口があると思う。この観光産業で働く一人ひとりがどういうモチベーションで話をするかで今後の未来は大きく変わるのではないか。
【パネルディスカッション】
外国人受け入れ体制が鍵
菅沼 基氏 ダイブ 外国人人材サービスユニット ゼネラルマネージャー
井上 善博氏 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会11代会長
中井 貫二氏 大阪外食産業協会 会長 千房 代表取締役社長
柿沼 宏明氏 観光庁 観光産業課 課長(6月27日時点)
南田 あゆみ氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 政策研究事業本部 主任研究員 外国人活躍推進室 室長 【コーディネーター】
南田 外国人人材の登用が進み、地域経済の担い手として自治体が積極的に関与する取り組みも見られる。6月の閣議決定では特定技能2号の分野が宿泊・外食業に拡大され、在留期間の更新上限がなくなる。中長期的に外国人人材に活躍してもらう転機だ。
柿沼 外国人人材の活用は単なる人手不足の穴埋めではなく、事業者の価値を上げることにもつながる。実際に雇用している宿では「インバウンド対応がしやすくなった」「様々なバックグラウンドを持つ従業員がサービスに対してディスカッションすることでサービス自体の質が向上した」などの声もある。
菅沼 多くの宿泊施設が人手不足を感じているが、外国人雇用は進んでいない。日本でおもてなしを学びたい外国人は多く、当社のアンケートでは日本で就業を目指す外国人のうち61%の人が宿泊施設で働きたいと回答している。
井上 多様なバックグラウンドを持つ外国人人材が、新たなスキルや視点で地方創生に新しい風を吹き込む可能性は高い。特定技能ビザを活用して、調理場の料理人不足を解消した宿の事例もある。
中井 外食産業の人材不足は深刻だ。外国人人材の活用は地方ではまだ進んでおらず、多様性を受け入れる素地が必要だと思う。責任感を持って頑張る外国人人材が大勢いるため、柔軟に働ける仕組みづくりを進めていきたい。
南田 地方で働くことの外国人側の関心はどうか。
菅沼 日本の宿泊施設で学べるなら場所を問わないという人も多い。選ばれるポイントの断然トップは賃金なので、宿泊業界を挙げて賃金を上げていくことが重要だ。
南田 人材育成の進め方は。
井上 スポットの穴埋めではなく、中長期的な計画を立てながら採用していくことが望ましい。業界団体として教育プログラムの構築も検討する必要があると考えている。
中井 当協会では外国人雇用推進部門会を立ち上げ、外国人の受け入れや教育を専門に取り組んでいる。こうした仕組みづくりも必要だが、企業側が受け入れ体制を整えられるかどうかに尽きる。
柿沼 外国人人材は安価な労働力(チープレイバー)ではない。自らの企業の価値を高めるためにも必要である、というメッセージを観光庁としても出し続けたい。特定技能2号の制度面での整備は終わったため、今後はこうした意識づけの努力が最も重要だと感じる。
南田 ダイバーシティー経営やインバウンド対応においても外国人活躍が重要だ。宿泊業ならではの地域ネットワークの強みを生かせば、地域全体で外国人人材の受け入れができるのではないか。
50年で熱海変える夢発信
中野 善壽氏 東方文化支援財団 代表理事 ACAO SPA & RESORT 代表取締役CEO
2021年に熱海市のリゾート施設ACAO SPA&RESORTの代表取締役に就任した。熱海が変わることによってACAOにもプラスの影響が与えられると考えて、地方創生を始めた。
就任直後にしたことは、給料を1.7倍に上げることだ。従業員が楽しく働いていると客も楽しくなり、人が集まる。地方創生の原点はちゃんと給料が払えることだと感じている。給料を上げられないのは経営者の迷いだ。一つの例だが、アカオフォレストというガーデンの入園料を前年比5倍の4000円にしたところ、売り上げは18年比約200%になり客からの苦情が減少した。当初は反対意見もあったが、強いリーダーシップを持たないと地方創生はままならない。自信を持って値段を上げよう、ちゃんと給料を払おうと申し上げたい。地方はライバルが少ないゆえに、思い切って価格のチャレンジができる場所だ。
地方創生をやる以上は、自分が前面に出て広報活動をすることが大事だ。過去に東国原英夫氏が「どげんかせんといかん」と宮崎県知事としてマスコミに登場してすごいことをやったが、彼は結果的に地方創生のプロデューサーになったのではないかと思う。彼の足元にも及ばないが、徹底して手法をまねて発信することにした。発言できる場に出席し、主張を繰り返すことが大事だと感じている。
私はどこに行っても「熱海でこんなことをやろうとしている」と漫画の世界のように実現不可能な話を必死にしている。熱海ビーチ近辺の国道135号地下化によるビーチの改造などが一例だが、これらは20〜30年かければできることでもあり、必ず具体的な図や数字のプランをつけ、それぞれの役割を明確にして発信している。〝サグラダ・ファミリア方式〟と言っているが、ガウディのように私の死後に皆が提案の一つひとつに魅力を感じて役割分担をして、一生懸命努力することで「50年後の熱海はこんなに変わるね」と夢を抱くことが大事だと思っている。
時代はローカル型産業へ
冨山 和彦氏 経営共創基盤IGPIグループ会長 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役社長
日本における観光ツーリズムは全国で500万人以上が従事する、自動車に匹敵する基幹産業だ。世界に誇る観光コンテンツが各地にあり、国内、海外から多くの旅行者が訪れる。コロナが一服し、落ち込んだ需要も回復してきたが、一方で業界は深刻な人材不足に陥っている。
人を確保するには良い賃金、良い処遇体制が前提になる。これから地方の観光業が真剣に取り組まなければならないのは、付加価値労働生産性の向上だ。1人当たりの粗利を高め、賃金水準を上げる。これなくして事業の持続性はない。チープレイバーに依存する企業、ブラック企業は淘汰されていくだろう。
重視したいのは「頭数」よりも「単価」。これからは大人数が駆け抜けていく格安ツアーでなく、しっかりした単価を払ってくれる付加価値の高い観光ツアー、アクティビティー(活動)ツアーを呼び込みたい。
企業内の新陳代謝も今後のテーマ。地方の女性が東京に出てきてしまうのは、地元企業の職場に古い体質が残り、活躍できる期待が持てないからだ。
こうした課題を一つひとつ片付けていくと、観光業はチャンスの宝庫だ。現在、自動車などのグローバル型産業と観光業のようなローカル型産業の国内総生産(GDP)に占める割合は3対7。半導体などの工場は無人化が進んでおり、雇用吸収力という面でもこれからはローカル型産業の時代といえる。
当グループは今、東北地方でバス会社や旅館を経営している。東北地方は過疎化が進み、日本で最も条件の厳しい地域だが、利益率や生産性では日本最高レベルにある。従業員の処遇改善や女性活用も進めている。なぜそれができるのか、特にマジックはなく、普通に真面目な経営をしているだけだ。
急速に進んでいるDXも追い風だ。地道に業務改善や分ける化、見える化を進めていると、当然のようにデジタルツールが必要になる。最近のツールは安いし、次々に出てくるツールを使い倒している。デジタルネーティブの若い世代に頑張ってもらえば、生成人工知能(AI)の使いこなしも問題ない。
今後AIの時代が来ると、ホワイトカラーの仕事が減っていく可能性がある。これに対し、現場で汗を流し、人と直に接しながら多くの人の役に立つ、付加価値を提供できる観光業は素晴らしい産業だと思う。
【パネルディスカッション】
歴史・文化生かし差別化
桑原 悠氏 新潟県津南町長
上村 一郎氏 香川県東かがわ市長
谷口 圭三氏 岡山県津山市長
森下 晶美氏 東洋大学 国際観光学部 教授 【コーディネーター】
森下 消費を促す仕組みがないと観光での地方活性化は難しい。観光に注力する各自治体に取り組みを伺いたい。
桑原 津南町は積雪3㍍以上に達する日本有数の豪雪地帯だ。スキーや雪まつり、25年前から始まった「大地の芸術祭」などで関係人口を創出する。日本ジオパークに認定されたジオサイトも点在しており、観光のブラッシュアップにつながっている。優良な農地を生かした「つなんブランド」の定着とブランド価値の向上を図り、農業と観光でグローバルへとかじを切りたい。
上村 東かがわ市では、アドバイザーとして迎えた起業家が「東かがわ市わくわく課」という市役所外組織を設立。地元の動物園と老舗和菓子店のコラボ商品がヒットするなど制限なく自由にやれている点が非常に大きい。市の主要産業である手袋は国内シェア90%超。市のものづくりをファクトリーツーリズムとして観光コンテンツにする民間の動きを後押ししていきたい。
谷口 津山市ではまち全体を「屋根のない博物館」に見立てて、市内に点在する歴史、文化、自然、伝統、芸術などの魅力をつなぐ「津山まちじゅう博物館構想」を立ち上げた。まちのブランディングと魅力アップのために城泊事業に取り組むほか、2024年には県とのタイアップで「森の芸術祭」を開催する。市の提案で中津市・津和野町と「蘭学・洋学三津同盟」を締結し、地域活性化につなげていく。
森下 地域の観光振興では「どう観光資源を生かすのか」「誰がやるのか」など課題がある。アドバイスはあるか。
桑原 豪雪地帯をプラスの面でPRすべく、ゴディバ社の「ご縁プロジェクト」を通じて特産の雪下にんじんを使用したドリンクを開発し、知名度向上を図っている。自治体連携の相乗効果も大きい。例えば湯沢町とのコラボでは、米や野菜、畜産といった食の魅力も観光コンテンツとして磨くことが可能だ。
上村 「誰がやるのか問題」は、行動力ある外部の方々が地域に入りやすい環境をどれだけ行政がつくれるかにかかっている。観光コンテンツとして売れるかどうかは、外からの視点がないと分からない。市では投資して事業を始める行動力のある人を応援する門戸を開いている。
谷口 歴史ある津山の肉食文化を観光に役立てている。B級グルメのホルモンうどん、干し肉、そずり鍋など多彩な食べ方があり、22年には農林水産省の「SAVOR JAPAN」、今年は文化庁の「100年フード」にも認定された。さらに食をしっかりアピールしていきたい。
森下 3自治体のように地域連携や外部の上手な受け入れ、独自性ある歴史・文化を生かすことで差別化でき、認知度も上がるのではないか。
【パネルディスカッション】
宿泊業の魅力向上へ知恵
久保 亮吾氏 リクラボ 代表取締役
井門 隆夫氏 国学院大学 観光まちづくり学部 教授
浅生 亜也氏 サヴィーコレクティブ 代表取締役CEO
高良 真理氏 ANAインターコンチネンタル別府 リゾート&スパ 総支配人
近藤 寛和氏 宿屋大学 代表 【コーディネーター】
近藤 宿泊業界の人材不足の現状認識について伺いたい。
久保 人材のデータベースを見ると、ホテル業界を経験した人のうち「将来もホテルで働きたい」という人の割合は3割に満たない。なぜ逃げてしまうのかを人事部、経営陣はしっかり認識し、魅力ある産業をつくっていく必要がある。
井門 長期デフレの中で生まれ、未来を描けない今の若者を報酬で釣ろうというのは間違いだ。今の若者は礼儀正しく、真面目な子が多い。ただ社会に触れる機会が圧倒的に足りない。そこで大学では、就職活動の前に「社会で生きる力」を学ぶ場としてインターンシップに力を入れている。
浅生 働きやすい職場づくりのため取り組んできたことが2つある。一つは業務の細分化。DXのプロ育成のための専門職を設け、在宅勤務や時短を奨励した。もう一つが定年にとらわれない雇用。シニアを積極的に採用し、高校出たての若い人たちと同じ職場で仕事をしてもらうことで、両者間にとても良い関係性が生まれている。
高良 当ホテルでは従業員の40%が地元採用。ゼロから地方にラグジュアリーホテルをつくろうと、情熱を持ったメンバーが集まった。外国籍のスタッフも全体の20%に及ぶ。地元の大学には5000人の留学生が学び、街全体で外国人を受け入れる文化が出来上がっている。各部署も多様性に富んだ従業員が一緒に働き、マイノリティーを感じさせない環境が定着率の高さにつながっていると思う。
近藤 採用を増やし、離職率を下げるには、どのような取り組みが必要か。
久保 会社が「働きやすい環境を提供しよう」という強い意志を持つことが大前提だ。採用の成功事例としては東京・新宿に開業した大型タワービルのホテル。「従来の池には魚はいない」を前提に、LGBTQ(性的少数者)や芸能志望の若者向け媒体、複数のSNSなど、多様なチャンネルで情報を発信。リファーラル採用も推進し、16%を社員紹介で採用できた。選考自体のスピードも他社を圧倒していて、成功したと思う。
井門 人材を獲得するには投資が必要。特に人口減少時代の今は、魅力的なまちづくりにお金をかけてほしい。とはいえ、日本の宿泊業の94%は中小企業。経営者は個人の預金をつぎ込み、預金を担保にお金を借りている。地元の金融機関が中に入り、この悪しきサイクルを解消していく必要がある。
浅生 新しいホテルと違い、当社の場合は既存ホテルの人材を生かしながら再生していく事業なので、マインドチェンジが重要。このため、独自の育成プログラムを走らせて事業ビジョンの共有化を図った。
高良 紹介で入ってくるスタッフに対して当ホテルでは、社内でのキャリアプランのステップを明確化したロールモデルを提示している。自分が5年後、10年後にどうなっているのか、明確な将来像を描けることが働きがいにつながっている。
アフターコロナの地方創生〜具体的事例から考える持続可能な経済循環〜
【主催】日本経済新聞社 【後援】内閣府 観光庁
【協賛】ダイブ 阪急交通社 全国旅館ホテル生活衛生同業協会連合会