カンヌライオンズ特集

日本勢も表彰続々、カンヌライオンズは「受賞率」3% カンヌライオンズ2023

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世界最大の広告祭「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2023」は2023年6月23日に閉幕し、日本勢はグランプリと金賞を複数獲得する好成績をおさめた。23年は86カ国・地域から2万6992件のエントリーがあり、全30部門の受賞作は計874件。単純計算で「受賞率」3%という狭き門だ。今回、日本は銀賞、銅賞を含めて11の部門で22年の倍以上となる延べ19作品が受賞。最終選考の対象となる「ショートリスト」に入った延べ作品数が43に達する結果を残した。

スタンプラリーや幸福度指標、父娘の情景

企業のキャンペーンなどの優れたクラフト(技巧)を表彰する「インダストリークラフト」部門でグランプリを獲得したのは、JRグループの「MY JAPAN RAILWAY」(マイ・ジャパン・レールウェー)。日本の鉄道開業150周年を記念してスマートフォンでスタンプラリーを楽しめるアプリを展開し、日本人の生活にとって当たり前の存在となっている鉄道の魅力を見直すきっかけづくりに取り組んだ。

各駅のスタンプはアナログな木版画風にし、歴史的史料やSNS(交流サイト)などの調査に基づいてデザインした。スマホの画面をタッチする強さや長さでスタンプが押される強さを変化させるなど、きめ細かな工夫が効いて、これまでアプリのユーザーが計200万個のスタンプを収集し、SNSでも1800万件以上のインプレッション数(表示回数)を記録するなど話題を集めた。キャンペーン参加者へのアンケートでは、71%が「鉄道で日本を旅するのが楽しくなった」と答え、68%が「今まで行ったことのない場所に行ってみたくなった」と答えたという。

グランプリに次ぐ金賞を獲得したのは計5部門の延べ7作品。「MY JAPAN RAILWAY」がデザイン部門など2部門で金賞も獲得したほか、相鉄グループが相鉄線と東急線の直通線開業を記念して制作した映像作品「A Train of Memories」がフィルムクラフト部門やデジタルクラフト部門で金賞などを贈られた。

相鉄線で通勤・通学する父娘の12年間の姿を、曲がりくねりながら走行する1つの車両内に出演者がずらりと並んでワンカットで撮影。家族の日常に寄り添い、祝福し、直通運転で新たな可能性を広げていくという企業の姿勢を表現し、動画投稿サイト「ユーチューブ」での再生回数は300万回に迫り、7万の高評価を得ている。

日本経済新聞社と電通が主宰する「ウェルビーイング・イニシアチブ」は「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション」部門の金賞などを受賞した。同部門はビジネスの在り方を変革する独創的な取り組みを表彰する。日経は21年3月、公益財団法人ウェルビーイング・フォー・プラネット・アース(東京・千代田)や参画企業とともに同イニシアチブを立ち上げ、国内総生産(GDP)を補う指標として、心身の健康や幸福を指す「ウェルビーイング」を加味して豊かさを測定する「ウェルビーイング指標(GDW、国内総充実)」の開発を推進している。企業のウェルビーイング経営の推進、政府への提言といった活動が評価された。

クラフトへのこだわりと技術に強み

22年に日本から受賞したのは7部門の8作品で、グランプリはなかった。23年に上位の受賞数が伸びたことについて、カンヌライオンズを長年取材する編集者の河尻亨一氏は「日本がもともと強みをもつクラフトへのこだわりが評価のポイントになった」と指摘する。

社会や環境に良いことを指す「ソーシャルグッド」への関心が高まるなか、ここ4〜5年、企業がどんなパーパス(存在意義)を掲げているかが注目されるようになり、カンヌライオンズでも社会的なメッセージ性の高い広告やプロジェクトの応募や受賞が多い状況が続いている。「日本の取り組みがまだ進んでいない分野」(同氏)でもあり、日本の作品が苦戦する一因になっていたといえる。

23年は風向きが少し変わった。例えば、マクドナルドの映像作品で、音楽に合わせて出演者が眉を上下させてロゴを表現するというユーモラスなアイデアが評価され、もっとも注目を集めるフィルム部門などで複数受賞したことに象徴されるように、「笑わせる、楽しませるという、広告が本来持っている人間のエモーショナルな部分にストレートに働きかける力を再評価する動きが出てきている」(河尻氏)。さらにテーマとして気候変動や貧困といった大きな社会課題だけでなく、身近な幸福感につながる「小さな社会課題」の解決に目を向ける傾向がみられるという。

アナログな風合いを追求したスタンプラリーも、美しく描かれたありふれた電車内の父と娘の映像もこうした流れに沿う。「日本は細部にこだわったクリエイティブに定評があり、それを支える印刷などの技術も世界的に見て高く評価されてきた経緯がある。今年はそうしたクラフトの力が再評価された面があったのではないか」と河尻氏は分析する。

日本勢ではこのほか、プラスチック加工の甲子化学工業(大阪市)が手掛ける廃棄されるホタテの貝殻を原材料に使ったヘルメットが、デザイン部門とイノベーション部門で金賞を受賞。パナソニックの映像作品「Unveil」がフィルムクラフト部門で銀賞、ナイキジャパンが高校生を中心とする若い世代向けに展開したウェルビーイングを向上させるプロジェクト「NIKE塾」がフィルム部門で同じく銀賞を獲得するなどした。

(若狭美緒)

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