アフターコロナの地方創生

立ち上がる観光ビジネス 知恵結集し地方再興へ 日経地方創生フェス「DAY1:観光」〜 盛り上がる旅行需要 受け入れ側の課題は〜

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多様性 地方創生

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全国で進む地方創生に向けた取り組みを有識者の講演や討論などを通じて深掘りする「日経地方創生フォーラム」の特別イベントとして、日本経済新聞社は10月10日から12日までの3日間、東京ミッドタウン八重洲カンファレンス(東京・中央)で「日経地方創生フェスティバル」を開催した。初日は観光業や食、地域再生などの専門家が登壇し、地方創生の大きな原動力となる観光の現状と課題を議論。地域の伝統を生かし域外から人をどう呼び込むか、外部だからこそ気づく魅力をどう発展させるかなど、地域の活力を再興する推進力となる新しい観光の在り方に各方面の知恵を結集した。

 

【ご挨拶】新しいアイデアが地域活性

自見 英子氏 地方創生担当大臣

地方では、人口減少や高齢化などによって過疎化やコミュニティーの弱体化、経済の縮小など経済的、社会的に大きな影響が生じており、結婚、妊娠、出産、そして子育てしやすい環境の整備が喫緊の課題だ。その克服にはデジタルの力を活用し、関係者間の連携、ネットワーク化をしっかり進めていくことが重要。政府では「デジタル田園都市国家構想」を基盤に、全国どこでも、誰もが便利で快適な生活を営める地方創生の取り組みを一丸となって後押ししていく。

地域の個性を生かした地方創生の実現には、行政のみならず民間企業や団体などの積極的な参加が欠かせない。本フォーラムの場で様々な人から生まれる新しいアイデアが地域のイノベーションにつながり、地域社会活性化の原動力になることを期待している。

 

【基調講演】産学集う交流と創発の聖地

加藤 慎司氏 三井不動産 日本橋街づくり推進部 事業グループ グループ長

八重洲は東京駅直結という圧倒的な交通利便性を誇り、企業の集積と多くの変革を生んできた。東京ミッドタウン八重洲ではその特性を生かし、4階に多様なイベントに対応するカンファレンス、5階に交流ラウンジを開設。三井不動産がこれまで手掛けてきたイノベーション創出への取り組みで培ったノウハウやネットワークを結集し、アカデミアやスタートアップ企業などが集う交流と創発の拠点として、地域や産業分野を超えた共創の機会を提供している。

その中核となる取り組みが地域経済創発プロジェクト「POTLUCK YAESU」だ。「地域×イノベーションの聖地」をテーマに、都市と地域、地域と地域をつなげる様々な取り組みを進めている。

今年3月の開業以来、全国から約600人の参加者を集めた地域経済イベント「POTLUCK FES」を春秋の2回開催したほか、オウンドメディアの「POTLUCKマガジン」、リアルとオンラインによる「同TALK」などを通じた多彩な情報発信を行っている。

 

【対談】万博起点に世界へ情報発信

大﨑 洋氏 吉本興業HD 前代表取締役会長 mother ha.ha 代表理事
山中 哲男氏 トイトマ 代表取締役社長

山中 2025年「大阪・関西万博催事検討会議」共同座長に目指す万博の姿を伺いたい。

大﨑 ひと言でいえば「日本から世界に発信する万博」だ。日本は「課題先進国」といわれるが、自然災害や少子高齢化といった課題を世界中に発信する場にしたい。ただ、課題解決というと重苦しくなるので、「祭り」を楽しく課題解決するためのキーワードに設定した。世界中の祭りを集め、子どもたちや若者も参加して一緒に体験する万博にしたいと考えている。

山中 日本を訪れるインバウンドがいま非常に注目しているのが、地域に根付く生活様式などに触れる「体験」だ。日本人のつつましい暮らしぶりが海外から見るとかえって新しさを感じる。

大﨑 「旅」という言葉がいつの間にか「観光」となり「観光産業」になってしまった。知らない土地で知り合った人と仲良くなり、その土地が好きになる。そんな旅の原点に戻った方がいい。万博という祭りを体験することは共同体の再生、持続可能性にもつながると思う。

山中 地方創生に取り組む事業者が万博と関わるには。

大﨑 事業化支援プロジェクトが一般社団法人化された。ここを活用するのが一つ。公募が始まった一般参加催事も多くの人が参加する機会になる。

山中 周辺の自治体なども「共創」をテーマに様々な取り組みを始めている。

大﨑 日本の祭りは老若男女がそれぞれ役割を持って参加してきた。何百年も続く催し物は本当によくできている。そのことを私自身再認識したいし、課題解決の事業化も、祭りをわいわい楽しむ中で自然発生的に生まれるのではないか。

山中 日本には地域の困りごとを解決しようとする取り組みを応援する文化がある。それは企業活動においても同じだ。今回の万博では各地の取り組みを幅広く発信し、「共創」に向けた出会いやつながりが大いに盛り上がることを期待したい。

 

【鼎談】日常と非日常の橋渡し

佐藤 裕久氏 バルニバービ 代表取締役会長
山井 太氏 スノーピーク 代表取締役会長兼社長執行役員
モデレーター 山中 哲男氏

山中 観光業界の成長と変革をテーマに、どのような視点で事業を行っているか伺いたい。

山井 スノーピークはキャンパー、アウトドアパーソン目線で日本中のアウトドアで遊べる美しい場所を世界中に紹介し、グローバルなアウトドアパーソンが日本にやってくる導線づくりをしている。その目線が個人的には面白いと感じている。

山中 今後の観光業界は、どういったマーケットが成長すると思うか。

佐藤 非日常体験をしに行く観光は不滅だが、観光強者しか戦えないパターンだ。実は日常のように見えて非日常という世界観があり、日常と非日常の気づきの時間軸を橋渡しするのが我々の仕事ではないか。

観光がきっかけでまちの魅力を知り、それを積み重ねていくと教育や医療につながる。つまり非日常的な観光が生活になっていくことによって、地方が創再生するのだと思う。一つのロマンだが、その中に観光の未来と可能性を見いだした。

山中 持続可能な観光ビジネスにするために、どのような取り組みをしているか。

山井 自分たちで開発をせず、従来のキャンプ場を我々がコンサルティングし、今のキャンパーに魅力を感じてもらえるキャンプ場にリファインする。それらの直営拠点では自然エネルギーしか使っていない。

自治体が運営するキャンプ場は多額の指定管理費がかかるが、スノーピークが運営すると自前で黒字にするので、3年以内には指定管理費がゼロになり、家賃は発生しなくなる。すると経済的な持続性が担保できる。サステナブルは観光ビジネスにとって極めて大事な要素だ。

山中 環境への配慮はどう考えるか。

佐藤 フードロス問題については、コンポストを使った微生物による発酵分解を行っている。ささやかではあるが、自分たちが使う食べ物を栽培するため、淡路島に農地を借りて農業を始めた。観光者向けの農業体験など、食の大切さを感じてもらえる啓発を含めた活動を行う。

山井 持続可能の視点で言うと、そのゾーンがあることによって淡路島に多くの人が訪れ、土地の価値が上がり、最終的には経済的にペイするスキームが考えられているのがすばらしい。

佐藤 淡路島の該当エリアは、オープンから4年で地価が数倍にもなった。例えば地価が落ちてしまった地方の温泉街などで、温泉の質以外にそうなった要素があるのなら、われわれの力でその要素を変えることが可能なのかもしれない。

関心高まる体験型観光

山中 今注目の体験型観光にはどう取り組むか。

山井 アドベンチャーツーリズムは、日本でこれから増えていくだろう。ローカルの自然を熟知しているガイド、自然体験に誘える人材育成は非常に大切だ。

佐藤 体験型観光の楽しさは、もともとその地域で生活している人、そこで働くためにやってきた人、そして観光者が入り乱れて一緒に時を過ごせることだ。日常と非日常が入り混じるのが理想だと思う。

山中 観光業界の将来についてメッセージを。

山井 観光の目的は、顧客の体験価値や人生価値を上げることだ。観光業界の外にいるプレーヤーも含めて、中にいる人たちとしっかりつながり、ここに来てよかったと思ってもらえるような価値をつくっていきたい。

佐藤 日本はガラパゴスであったがゆえに海外の人にとっては非日常体験ができる国でありインフラである。これからどんどん日本を体験してもらい、気に入ってもらえたらうれしい。

 

 

【基調講演】この地ならではの場を醸す

水野 直人氏 石田屋二左衛門/黒龍酒造代表

私たちが蔵を置く福井県は大きな岐路に差し掛かっている。コロナ禍で停滞したインバウンド(訪日外国人)の再開をはじめ、高速交通網の進展は人の移動や物流の高速化など、交流拡大の好機をもたらすと考える。

酒造り以外に地域に返せるものは何か、という長年の問いに、具体的に答えを出すタイミングだと感じた。

そこで、改めて企業の存在意義であるパーパスとブランド構造について、整理と見直しを行った。私たちが誓ったのは「我々は九頭竜川とともに生きる」という地域との共生関係であり、新たに取り組むESHIKOTOは、黒龍酒造が培ってきた哲学や技術、精神や美学を、酒を含めたあらゆる物事に拡張するための新ブランドだ。

私たちのものづくりの力と、地域の生産者やものづくりをする方々、付加価値を生み出すクリエーターが協働して、ESHIKOTOという場所やブランドを利用する。そしてこの地でしかできない経験や食、出会いや学び、遊びといった感動を生み出すことで、国内外から多くのファンや観光客、同志が、九頭竜川をはじめ永平寺や福井を訪れるようにする。

その結果、ふるさとに成長や持続性をもたらし、地域の自然保護や環境維持へ投資がなされる。ESHIKOTOはそれを具現化する活動のプラットフォームだと考える。

私たちの観光におけるポジショニングは、この地でしか経験できないものごとをいかに耕し、種をまき、育て、磨きをかけ、対価以上の感動を生み出せるか。つまりこの地ならではの場を醸せるかどうかだ。

おかげさまでESHIKOTOは、開業1周年を迎えた。基幹施設は大人がゆっくりとお酒を楽しむ場所がコンセプトであり、20歳未満の方、ペット連れの方の入場をお断りしている。敷地内には酒などを販売するショップのほか、レストランやパティスリーがあり、さまざまなイベントを開催する。来年にはオーベルジュや新たな飲食店を建設・開業予定だ。

地方の小さな酒蔵が、200年間地域でお世話になってきたことを、これからいかに返せるか。挑戦は始まったばかりだが、誠心誠意取り組みたい。

 

【基調講演】丸亀市との連携深める

粟田 貴也氏 トリドールホールディングス 代表取締役社長兼CEO

丸亀製麺の創業前、讃岐うどんブームに沸く香川県を訪れたとき、製麺所の長蛇の列に驚がくした。多くの人が他県からわざわざうどんを食べに来ている現実に、繁盛の極意ともいえる消費者のインサイトを見た思いがしたのだ。製麺所はモノを売っているのではなく、手づくり、できたての麺ができるまでの過程を見せる体験を売っているのだと気がついた。

潜在的な可能性を強く感じた私は、製麺所の繁盛ぶりを自分でも検証してみたくなり、兵庫県加古川市に1店舗目の丸亀製麺を出店。するとこのコンセプトが大いに受けて、オープンから大繁盛した。その後、全国の大型ショッピングモール併設のフードコートや、郊外ロードサイドに次々と出店した。

2011年には、ハワイで丸亀製麺ワイキキ店を出店した。讃岐うどんを世界に広げるだけでなく、世界各地の味に合わせながら讃岐うどんをより身近に感じてもらうことで、うどん文化を広めていきたい。

店名の由来でもある香川県丸亀市との連携を深めることも重要だ。私は12年前から同市の観光大使をしており、丸亀市沖にある讃岐広島という島の活性化の手伝いをしている。丸亀市の女子サッカーチームへの寄付や援助、香川丸亀国際ハーフマラソンのスポンサーも務める。

22年には、丸亀市と地域活性化包括連携協定を締結した。讃岐広島の島民の生活を熟知すべく、1人の社員に島へ引っ越してもらい、みなさんの声を聞かせてもらっている。169人まで激減した島の人口を500人まで増やそうと、共に計画しているところだ。

まずは島の自然に触れ、島の良さを知ってもらうことが大事なので、企業版ふるさと納税を利用し、島のフェリー乗り場を明るく改装した。その中に島の名産で作るピザの店をオープン予定だ。

また、島のみなさんのご厚意で畑をお借りして、小麦粉を作らせてもらっている。そこで収穫した小麦を石臼で製粉して、島の海水から作った塩でうどんの麺を作り、島の間伐材を使ってまきの釜でうどんをゆで上げ、瀬戸内海のいりこでだしをとった讃岐広島ならではのうどんを島民に振る舞い、大変喜んでもらった。

讃岐うどんの製麺所に魅せられてはや25年。丸亀製麺の店舗は国内外で1000店舗を超えた。まだまだ未熟だが、讃岐うどんの文化を世界の人から愛されるものにしていきたい。

 

【パネルディスカッション】インバウンドが復活

庄子 潔氏 ダイブ 代表取締役
加藤 史子氏 WAmazing 代表取締役CEO
安部 勝也氏 観光庁 観光地域振興部 観光地域振興課長
モデレーター 家長 千恵子氏 玉川大学 観光学部長

家長 2023年以降のインバウンド観光の状況はどうか。

安部 6月から訪日外国人旅行者数は200万人を超え、コロナ前の19年に比べて86%ほど回復、消費額もほぼ戻っている。宿泊者数は全体の7割が3大都市圏なので、いかに地方に誘客するかが観光政策の柱だ。観光庁は昨年度末に「観光立国推進基本計画」を発表し、訪日外国人旅行消費額5兆円、国内旅行消費額20兆円を早期に達成すべく動いている。

家長 インバウンドは今後の日本の発展に大きく寄与すると考えられる。現場ではどのようなことが起こっているか。

加藤 宿泊施設の労働力不足なども問題になっている。コロナ禍前には外国人労働者が清掃などの現場を支えてくれていたが、コロナ禍を経て円安もあり人手不足が深刻化している。

庄子 離職の原因は給与と待遇と働き方だ。やる気でこの業界に入っても、「やる気だけでは続かない」厳しさがある。

安部 観光庁では観光地自体を高付加価値化してインバウンドを地方に誘客すべく、支援や施策を実施している。例えば、せとうちエリアでは、宿や人など様々なコンテンツの価値を上げ、従事者の給与を上げる好循環を生む取り組みを進めている。気づかれない地域資源を掘り起こして磨き上げ、観光資源化することも重要だ。

家長 地域人材の現状は。

庄子 人材がいない本質は、生産性や経営の課題にあることも多いのではないか。観光を学んだ学生が必ずしも観光産業に従事しない理由は、業界が求める人材を育成できていないことや、働く魅力の創造・発信が少ないなど、育成・確保にミスマッチが生じているからだ。われわれ民間が加わった長崎短期大学のリゾートバイトの有給インターンシップの取り組みでは、地域人材との交流を通じて、地域や観光産業の魅力発見につながっている。

観光業の魅力伝える

家長 観光業界に進みたい学生に対して、大変さを超える魅力がある産業であることを伝えていくことが大事だ。

加藤 当社はコロナ禍を機に原則フルリモートワークになった。本人の能力重視で、現在の従業員は1都3県以外の居住者が3割、外国人は4割、女性は7割という幅広い構成になり、採用に困ることはない。旅行や観光、地域の仕事にはポテンシャルがある。正当な条件と魅力を伝えられれば、間違いなく人気業種であると感じている。

家長 サービスや業務効率などの面で、観光業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)はどのように進んでいるか。

庄子 効率化ばかりに目を向けがちで、顧客体験の価値を高めるところまで目が向けられていないとも感じる。自動チェックインを導入しても、空き時間にスタッフ同士の雑談が増えたら意味がない。現場を知らない外注業者が作った結果、かえって現場の業務が複雑化するケースも多い。なぜDXを導入するのか従業員に伝え、その先の世界を共有することが重要だ。

加藤 19年のインバウンド旅行消費額4.8兆円のうち、買い物は1.7兆円と最も大きい。消費額の少ない地域が消費税免税販売をDX化してオンラインで地域産品を購入予約して空港で受け取る形にすれば、その地域に足を踏み入れなくてもお金が落ちていく。また、当社は京都市内の地下鉄と市バス乗り放題を組み合わせた切符に高単価の体験を組み合わせて全域に分散化し、オーバーツーリズムを防ぐという提案も行っている。

安部 一部地域・時間帯のオーバーツーリズムの問題は、観光庁を中心に関係省庁と未然防止・抑制に関する検討を断続的に行っている。また、地域住民と協働した観光振興や人材についても、一つのツールとしてDX活用を進めていきたい。

 

【パネルディスカッション】古民家再生、域外から活力

舩木 直美氏 山梨県小菅村 村長
藤原 岳史氏 NOTE 代表取締役
古北 真里氏 NIPPONIA 美山鶴ヶ岡 山の郷 郷の案内人
安達 鷹矢氏 Local PR Plan 代表
仲本 いつ美氏 Endemic Garden H 代表
モデレーター 小安 美和氏 Will Lab 代表取締役

小安 古民家再生がいかに持続可能な観光ビジネスモデルになりうるのかを伺いたい。

藤原 当社はNIPPONIAという、地域資源を生かした観光まちづくり事業に取り組んでいる。活動は全国32カ所に広がり、地域ごとに事業主体者が異なる。古民家を含む景観などのハード面、風習や祭事、工芸、食文化などのソフト面を地域資源と考え、まち全体を再生する取り組みを実施している。

舩木 山梨県小菅村は多摩川の源流域に位置し、2005年に「全国源流の郷協議会」を設立、全国の仲間と源流にこだわった村づくりをしている。課題は、360世帯に約100軒ある空き家問題だ。地方創生事業の採択で空き家対策を行うことになり、NIPPONIAの提案により、村と密着した古民家ホテルをオープン。国内外から多くのお客様でにぎわうようになり、1年後には第2弾のホテルをオープンした。

安達 丹波篠山市の福住は約1500人の小さなまちだが、約10年で40人ほどが移住開業した。30年までに移住開業者100人、年間10万人の日帰り観光客、NIPPONIAで7000人の宿泊観光客、約10億円のGAP(地域内総生産及び経済効果)を目指す。

仲本 生まれ育った沖縄県国頭村で19年に地域限定旅行会社を設立、藤原さんに事業参画していただき、22年に古民家ホテルをオープンした。集落の人口は28人。宿泊するお客様には必ず1時間程度ご案内して、地域の魅力とローカルなルールを伝えている。

古北 美山町は21年に世界観光機関のベストツーリズムビレッジに選定されたが、鶴ヶ岡エリアはあまり人が訪れない。8年前に学校跡地と空き家活用プロジェクトが立ち上がったのを機に、古民家の再構築で鶴ヶ岡の宿泊事業を行っている。

小安 古民家再生はどう地域に役立っているか。

安達 新しい開発や新築が規制されているエリアなので、古民家を守るだけでなく再生して地域外からの収入を獲得している。地域の雇用や産品の販売促進にもつながり、応援してくれる雰囲気が醸成できていると思う。

仲本 私たちのエリアの事業者仲間には女性が多い。今まで暮らしの中で大事にしてきた部分を見つめ直すという意味で、女性が思い切って踏み込める活躍しやすい分野だと思う。そういう場面を見てほしいという思いでツアーも展開している。

新しい金融スキームを

小安 古民家再生のビジネスモデルは、人づくり、そして本当に持続可能なまちづくりにつながるので、個人的にも注目しているが、さらに持続可能にしていくにはどういうことが必要か。

古北 地域に住む人がいて暮らしが続いていかないと、観光資源自体が維持できなくなる。私の実家が代々建築会社を営んでいることから、建築や地域活動などを通じて、私たちの村を地域住民とお客様と共につくるというコンセプトで様々な取り組みを今後予定している。

藤原 課題の一つは資金調達だ。全国の各地域の経済を動かしていくので、投資のリターンや税制優遇、もしくはESG(環境・社会・企業統治)投資の文脈で行うこともポイントになってくると思う。開発は2期、3期と長く続くため、地方の金融機関だけで進めていこうとすると難しい。新しい金融やファイナンスのスキームが重要になると考える。NIPPONIAに泊まればその先で農業も山も元気になるという、喜ばれる循環をつくっていきたい。

 

【クロージングリマークス】多様性受け入れ未来つくる

中野 善壽氏 東方文化支援財団 代表理事 ACAO SPA & RESORT 代表取締役

日本の観光業で必要なのは、ハードではなく「人」というソフトだ。いいものをつくり、ブランディングして、宣伝費をあげるだけでは、おそらく付加価値はつかない。人間的に好かれる人は、地方創生や観光にとって大事なスキルを持っている。例えばホテルで「これをお願いします」と言われて「ルールなのでできません」と言うのではなく、「あなただけにやってあげます」というスタンスが必要だ。その機転が利かせられる従業員が少なければ再生は難しい。企業文化の問題であり、従業員を入れ替えない限り無理だろう。私は今後、そんな人間的なスキルを学ぶ教育の場の立ち上げを予定している。

私が以前から関わっている静岡・熱海では、まちの52%を占める9400もの空き物件がある。クラウドファンディングを活用しながら空き物件を借りたり買ったりして環境を整え、裸一貫で来ても立ち上がれるようなまちづくりをしたいと考えている。海と山が隣接するモナコのような景色で熱海文化をつくれば、都心部からも人が集い、地方創生ができるのではないか。

地元の人々が望んでいなければ地方創生はできない。それならば「よそ者」にチャンスを与えるお金の使い方を考えたほうがいい。地元の人々とよそ者がミックスされ、格差と異文化が交わった時に、地方創生のパワーが出る。しかし、今は多くの人がそれを拒否してはいないだろうか。過去の話ではなく、「あしたの話をしたい」というムードをまちに醸成するため、年代の違う人、日本語が得意でない外国人など多様性を受け入れる風土で未来をつくりたい。

リスクというが、1億円を集めるのに1カ所から集めるからリスク感覚が出る。お金を出したい1万人から集める新たな金融システムを法的にバックアップしてつくり上げることが地方創生に役立つのではないか。

「難しい」という言葉は頭の中から消して、覚悟を持って地方創生に皆で本気で取り組んでいかなければならない。

◇ ◇ ◇

※本フェスティバルのアーカイブ視聴はこちらから

 

日経地方創生フェスティバル
DAY1:観光 〜盛り上がる旅行需要 受け入れ側の課題は〜
【主催】日本経済新聞社
【後援】内閣府
【特別協力】三井不動産
【協力】よんなな会

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多様性 地方創生

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