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フェムテック、多様な製品・サービス 入社から定年まで フェムテックでつくるウェルビーイングな働き方(上)

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女性の心身の課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」。従業員のウェルビーイング(心身の健康や幸福)が向上して生き生きと能力を発揮できるよう、企業が福利厚生などに活用を探る動きが活発だ。月経や妊娠・出産、更年期など、入社から定年に至るまで女性のライフステージの変化が仕事の生産性やキャリアに与える影響は大きい。ダイバーシティー経営の推進に向けて女性特有の健康問題へ関心が高まる中でフェムテックをどう取り入れるか。製品・サービスの開発、導入の両面で取り組みが進んでいる。

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勤務中の生産性低下改善に効果

スマートフォンに表示された「通話スタート」のボタンをタップしてしばらく待つと、画面に優しそうな白衣を着たCG(コンピューターグラフィックス)の女性が現れた――。通話相手となる助産師のアバター(分身)だ。画面の隅には小さく自分のアバターが表示され、「よろしくお願いします」と話し始めると合わせて口が動く。助産師のアバターは瞬きしたり、うなずいたりしながら耳を傾けてくれた。

助産師にオンラインで相談できるこのサービスは、店舗の販促支援などを手掛けるBRING(大阪市)が開発。もともと小売店向けにアバターを活用して遠隔で接客できるシステムを提供していた。自分の顔を出さなくて良い気軽さと、お互いに顔を見て話しているような安心感が得られることを応用し、女性が体の悩みなどデリケートな話題を相談できるようにした。女性の生涯の健康サポートに力を入れる助産師団体の「女性の健康推進協会」(東京・中央)と連携。助産師が使うアバターも新たに十数パターンを試作し、話しかけやすい顔立ちの中年世代の女性のCGにするなど工夫を凝らす。

同サービスは経済産業省が2022年度に実施したフェムテックの実証事業に採択された。サービス利用前後の効果を分析したところ、健康に関する情報を入手したり実際に対処したりするリテラシーが向上した利用者の割合は77%に上った。心身の不調で勤務中の生産性が低下する「絶対的プレゼンティズム」が改善した割合も、目標を上回る53%に達した。

働く妊産婦や育児中の女性向けのオンライン相談と、パートナー向けセミナーなどを組み合わせたプログラムで同事業に採択された「じょさんしGLOBAL Inc.」(愛知県刈谷市)は、効果の検証に人工知能(AI)による利用者の声の解析を取り入れた。声帯の震えのデータなどから心理状態を可視化する技術を使って分析したところ、プログラムに参加した女性全員について、心配や不安の指標が初回よりも2回目以降の利用時に低下していた。絶対的プレゼンティズムも半数近くが改善する結果となった。代表取締役の杉浦加菜子氏は「妊娠や出産はレアな出来事で、自分に必要な情報も千差万別。オンラインでいつでも個別に相談できるメリットは大きい」と手ごたえを話す。

経済効果は約2兆円

経産省は21年度からフェムテックの実証事業を始めた。背景には、月経や妊娠・不妊、更年期などの女性特有の健康課題が、仕事のパフォーマンスの低下や離職、昇進の辞退などネガティブな影響を及ぼしている状況がある。実証事業ではフェムテック活用の成果を測るため、利用者の主観的なウェルビーイングがどう変化したかなどを共通指標を使って測定することを全ての採択事業者に求めている。「フェムテックを使う意味、効果を『見える化』して、企業などの導入を後押ししていく」(同事業を担当する経済社会政策室室長補佐の村山恵子氏)という。

フェムテックの企業での活用はじわり広がっている。経産省と東京証券取引所が選ぶ女性が活躍する上場企業「なでしこ銘柄」選定企業への聞き取りでは、女性の健康課題についての理解を深める従業員向けのセミナーやeラーニングのほか、生理用品を無料で提供するアプリを導入したり、子宮頸(けい)がんなどの検査キットを配布したりする取り組みも見られた。同省は、フェムテック製品・サービスを働く女性が利用して、月経や更年期の不調による生産性低下や退職などを避けられることで得られる給与相当額が、25年時点で約1.9兆〜2.1兆円に上ると「経済効果」を推計する。

スタイリッシュな製品群

吸水ショーツ、月経カップ、骨盤底筋トレーニンググッズ――。東京・六本木のフェムテック専門店「fermata store in New Stand Tokyo」には色とりどりのスタイリッシュなフェムテック製品が並ぶ。

「フェムテック」という言葉は女性を表す「Female」とテクノロジーを組み合わせた造語だ。デンマーク出身の起業家の女性が、自身が開発した月経周期を予測するアプリへの投資を募るために使い始めた。確立された定義はないが、アプリなどのデジタルツールだけでなく、吸水ショーツなど素材技術を生かしたもの、搾乳をスムーズにできる電気製品など様々な製品・サービスの開発が進んでいる。

同店を運営するfermata(東京・港)が22年に開催したイベント「Femtech Fes!2022」には33ヵ国から集めた200の製品・サービスが並んだ。日本ではまだ入手できないものもあるが、同社の近藤佳奈最高執行責任者によると、国内でもメーカーを中心に、同社のフェムテック市場参入支援のコンサルティングサービスへの問い合わせ件数が増加している。

フェムテックの活用が広がるためには課題もある。例えば、吸水ショーツ。「生理用品」として製造・販売するには、改正医薬品医療機器法(薬機法)などに基づいて承認を得なければならないため、吸水ショーツは、現時点では「経血吸収用」「生理用」とうたうことができない。フェムテック製品には既存の制度に当てはまらないものも多く、法律などの整備は途上にある。

研究開発におけるジェンダー問題に詳しいお茶の水女子大学ジェンダード・イノベーション研究所の佐々木成江特任教授は「何でも性差に結びつけると逆にステレオタイプが強化されてしまう」と注意を促す。「女性に配慮した開発を意識するあまり、性差の影響が小さい製品について『男性用』『女性用』と分けて売り出してしまうケースがある。ジェンダーのリテラシーが低い状態で取り入れると間違った方向に行きかねない。性差を考慮すべきかどうかなど、しっかり研究して取り組む必要がある」(佐々木氏)と指摘している。

(若狭美緒)

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