日経SDGsフェス

問われる課題解決への意思 / 世界で進むグリーン建築 日経SDGsフェス 開催リポート

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SDGs ESG

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9月13日と14日、「日経SDGs/ESG会議」(主催:日本経済新聞社、日経BP)が開催された。多彩な識者が登壇し、持続可能な社会の実現に向けて深掘りした議論の内容を紹介する。

 

【日経SDGs/ESG会議 DAY1】非財務とGX/SXの融合を

9月13日に行われたDAY1のテーマは「非財務とGX/SXの融合を」。人的資本などを議論の軸にしながら、環境にやさしい社会へと向かうためのグリーントランスフォーメーション(GX)と、企業と社会の持続可能性を実現するためのサステナビリティートランスフォーメーション(SX)に取り組む意義を提示した。

 

情報開示からチャンスつかめ

白井 さゆり氏 慶應義塾大学 総合政策学部 教授

私たちは、環境や社会へのネガティブな影響と引き換えに、低価格な製品を大量に生産、消費する社会から脱却しなければならない。そのためには、ESG(環境・社会・企業統治)経営の推進が重要だ。

ただし、社会とガバナンスを巡る課題や優先順位は、各国、各市場、各企業で様々だ。解決方法や取り組み方の標準化は難しい。一方で環境課題は誰にとっても喫緊の最重要課題であり、標準化が進みやすい。

そうした理由から、ESGの中でも気候変動に関する企業活動の指針が、社会やガバナンス課題を巡る指針に先んじて提示されてきた。

2017年、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、気候変動に関する企業の情報開示のフレームワークを提示。TCFDの提言なども踏まえて今年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、より具体的な開示基準を示した。

現在日本では、これを踏まえた国内基準の策定に向けた議論が進められている。

ISSBが示した開示基準の中でも、温暖化ガスの排出量と削減目標は重要な項目の一つだ。投資家は開示情報を通じ、計画の信頼性を読み取ろうとする。そのため、財務戦略や設備投資額なども織り込んだ具体的な移行計画も重視される。

現状、これらの情報開示は日本では義務付けられていない。しかし義務化されずとも、開示することが望ましい。脱炭素実現に貢献する企業活動の実践と、その情報開示を通じた多様なステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションの推進は、今日の世界的要請だからだ。

そこには壁もあるがチャンスもある。たとえば、効率的な資源活用はコスト削減につながり、環境課題解決への積極的な貢献は優秀な人材の確保にも寄与するだろう。

ESG経営の本来の趣旨は、原料調達や生産体制、資金調達など、現状のビジネスモデルをあらゆる角度から見直した上で、事業そのものをサステナブルに変えていくことだ。ESG経営の実践は企業価値向上の機会ともなる。自社の発展のため、主体的に取り組んでほしい。

 

D&I施策さらに前進

天野 友貴氏 三菱地所 サステナビリティ推進部 主幹

2020年に始動した「大丸有SDGs ACT5」は、大手町、丸の内、有楽町エリア内外の企業や団体が連携し、SDGs(持続可能な開発目標)達成を目指す取り組みだ。当社は農林中央金庫や日本経済新聞社などと共に、実行委員会に名を連ねる。

重要テーマの一つ、ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)に関して21年に調査を実施した。目的は大丸有エリアのD&I推進実態を把握し、個人・企業の意識や課題を明らかにすることだ。

調査の結果、当事者とそれらを取り巻く人々に分断があると判明。これを受けて、21年に「E&Jラボ!」を創設。D&I施策を一歩前に進める活動に、誰もがエンジョイしながらジョイン(参加)できるコミュニティーだ。

社会的マイノリティーを理解し、応援する人を「アライ」と呼ぶ。大丸有エリアのアライコミュニティーは、E&Jラボ!がもたらす様々な出会いにより、ゆるやかに広がっている。多様な人が働ける社会の実現に向けて、活動をさらに発展させていきたい。

 

農業労働力の安定化目指す

尾崎 太郎氏 農林中央金庫 常務執行役員

農業の労働力不足が深刻だ。農林水産省の調査では、2022年の農業従事者数は約123万人だったが、20年後には4分の1に減る可能性が指摘されている。農家の高齢化が進んでいる上、後継者の確保も困難な状況だ。

JAグループは、就農者や農業経営者の支援体制を強化。加えて、将来の安定的な農業労働力確保を見据え、農業に関心を持つ人や、ボランティアなどで実際に農業に携わる人を増やすための活動も行っている。

その一つが、人手不足に悩む生産者と、農業体験に関心のある企業などをマッチングし、短期の援農ボランティアを行う「JA援農支援隊」だ。社員を派遣した企業からは、農作業が社員のメンタルヘルスケアにも役立ったといった評価を受けた。

「大丸有SDGs ACT5」の運営にも実行委員会の一社として参画している。今年は、都市部の人が農業や農村を身近に感じる機会を提供すべく、援農ボランティアの体験イベントなどを実施する。

 

 

【日経SDGs/ESG会議 DAY2】ネット・ゼロへ 都市と住まいの挑戦

9月14日に行われたDAY2のテーマは「ネット・ゼロへ 都市と住まいの挑戦」。脱炭素をはじめ、様々な社会課題解決への貢献が求められるチャレンジングな状況にあるなか、建築や住まいをめぐる取り組みはどのように進化しているか。国内外で活躍する識者が、グリーン建築の現状と未来について示唆に富む議論を展開した。

 

建築の全段階で脱炭素を

田辺 新一氏 早稲田大学 建築学科 教授

建築物の脱炭素化に関する先駆的な取り組みを展開するデンマークなどの欧州では、2030年より新築建築物のゼロ・カーボン・レディ化が開始される。

国際エネルギー機関(IEA)の定義によれば、ゼロ・カーボン・レディ建築は省エネ性能とレジリエンス(強靭性)性の両方に優れ、運用にはゼロ・エミッション・エネルギーを使用する。エネルギー使用量を需給に応じて調整できる柔軟性も求められる。建物の全ライフサイクルにおける温暖化ガス排出量の削減も必要だ。

従来の重点課題は、建設時や運用時の脱炭素化だった。しかし今後は、材料調達から廃棄までの全段階で脱炭素化が重視される。当然、日本もこの世界的潮流と無関係ではいられない。

わが国では、住宅や建築物から排出される二酸化炭素(CO2)の割合が全体の4割を占める。東京ではその割合が一層高まり、20年度は75%を占めた。脱炭素実現に向け、住宅・建築分野が担う責務は大きい。

 

排出総量に配慮した設計に

岡田 早代氏 Cube Zero 代表/ ウェントワース工科大学 客員教授

米国の建築業界では、エンボディドカーボンへの注目が高まっている。これは、建築材料の採掘から建設、運用、解体、解体した建築材料の廃棄まで、建築の全ライフサイクルで排出される炭素の総量を指す。

すでに米国では、運用時とライフサイクル全体の炭素排出量を数値化し、その両方に配慮して建物をデザインするという設計思想が定着しつつある。

たとえば、断熱材は運用時の省エネ効率を上げるが、石油由来製品が使用された断熱材は環境負荷を高める。そのため近年、わらなどの天然素材でつくられた断熱材の使用が増えている。 州によっては、建物の新築時や改修時にエンボディドカーボンを報告する義務を課している。条例や認証制度が、エンボディドカーボンへの配慮ある建築物の普及に寄与してきた面もある。

こうした実務の変化に対応して、気候変動に対応する建築デザインが基礎カリキュラムに組み込まれるなど、設計士の教育のあり方も進化している。

◇ ◇ ◇

※本会議のアーカイブ視聴はこちら( DAY1 DAY2 )から

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