観光王国再興に全力 新幹線開業を起爆剤に 日経地方創生フォーラムin 九州 ツーリズムの再興

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人口減少、少子高齢化、新型コロナの感染拡大――。重層化する地域課題の解決に向け、自治体を中心に企業・大学、地域団体などがスクラムを組んだ取り組みが各地で芽吹きつつある。その先導役を担う九州・福岡で昨年12月に開催された日経地方創生フォーラムでは、九州各地で進められている地域活性化への一致団結した奮闘ぶりが紹介された。サイクルスポーツの世界大会を九州各県のツーリズム再興につなげる試み、多彩な発想で注目を集める九州発の新ビジネス、100年に1度の変革を進める長崎県の挑戦。壇上で次々に紹介されるアイデア、実装化を目指す胎動に、九州の持つ底力と今後の飛躍を実感させる1日となった。

【ご挨拶】主要産業活性で国も成長

内閣府特命担当大臣(地方創生)、 デジタル田園都市国家構想担当大臣 岡田 直樹氏

地方では様々な社会課題に直面する一方、遠隔医療や遠隔教育、テレワークによる働き方改革などデジタル技術の活用が急速に進んでいる。こうしたデジタルの力で地域の社会課題克服と魅力向上を図り、だれもが便利で快適に暮らせる社会を目指すのがデジタル田園都市国家構想だ。

その実現に向け、来年度から2027年度までの具体的目標と工程表の取りまとめを進めており、中長期的な方向を提示する総合戦略を22年内をメドに策定する。先般成立した補正予算には新たに創設した交付金に800億円を計上、地域のデジタル実装やデータ連携基盤の活用推進、拠点整備を加速させる。

九州はソウル、上海、東京からほぼ同距離にあり、アジアのゲートウエーだ。訪日客のますますの誘致に加え、主要産業である半導体や自動車、農林水産業の活性化が九州全体、そしてわが国の経済成長につながることを期待したい。

■セッション1「動き出すこれからの九州ツーリズム」

【基調講演】主眼はリピーター拡大

九州観光機構 会長 唐池 恒二氏

観光王国だった九州。インバウンドの元祖は九州・長崎の雲仙であり、1913年には雲仙に日本初の県営テニスコートとゴルフ場が誕生。34年には霧島・阿蘇などと共に日本初の国立公園に指定された。昭和初期には別府観光の父の油屋熊八氏、宮崎交通の創業者の岩切章太郎氏という傑出したリーダーが出現して九州観光を盛り上げた。現在の上皇・上皇后さまが訪問されたことから昭和40年代には宮崎がハネムーンのメッカになり、当時年間100万組のカップルのうち半分以上が宮崎と別府に新婚旅行に訪れた。

高度成長期の終焉(しゅうえん)とともに九州観光の停滞が始まったが、観光王国九州を再び取り戻したい。2022年10月から新型コロナの行動制限が緩和され、全国旅行支援と水際対策の緩和がスタート。また、同年7月の米国TIME誌で「世界で最もすばらしい場所50選」に九州が選ばれたほか、米国の有力な旅行メディアのランキングで日本で唯一九州がランクインするなど海外メディアにも注目され始めている。

こうした状況を受けて、九州観光機構では基本戦略を策定した。最も主眼を置くのは、リピーターの確保・拡大と、さらなる観光地の魅力づくりを進めることだ。そのためにはまちづくりと一体となった取り組みが重要であり、22年を「九州観光DX元年」と位置づけ、同年6月からJTBやセールスフォース社と勉強会を立ち上げたところだ。

ほかにも22年には「チャンネル九州塾」というインターネットテレビ局を機構自ら立ち上げ、オフィス内のスタジオで九州情報の動画を配信している。リピーター確保・拡大の施策としてポイントがたまる「九州・たびたびの旅キャンペーン」も実施。23年には自転車レース「ツール・ド・九州」の開催を機に、九州をサイクルツーリズムの聖地にしていきたいと考えている。

10月に「ツール・ド・九州」初開催

【概要紹介】

サイクルロードレース「ツール・ド・九州」は、各国プロ選手の白熱した戦いを目の前で見られる観客動員型の大規模スポーツイベント。九州地方知事会および九州地域戦略会議において開催が決定した。自転車で九州を周遊する旅行商品「ディスカバー九州」の事業と併せ、サイクリングを通じた九州への人の流れを促進する。

サイクルロードレースは一般公道を使い、1日当たり100㌔㍍超を競う。レース展開と共に、まちからまちへと場所を変えて自然やまちの景観を楽しむことができる。コースの起伏に合わせて、山に強い選手やスプリントに強い選手の特性を生かし、様々な駆け引きを楽しむところが醍醐味だ。

国内には北海道から沖縄まで、長い歴史を持つ国際認定のロードレースがある。23年に選手が国際認定ポイントを稼ぐことができる国内レースはツール・ド・九州を含めて8レース。ツール・ド・九州は国際自転車競技連合(UCI)の認定レースとして上位3番目のクラスを獲得。初開催でこのクラスを得られたことは極めて異例といえる。

ツール・ド・九州は10月に開催。6日のエキシビションレースを皮切りに、7日から9日まで福岡・熊本・大分の3ステージを駆け抜ける。大会事務局次長の仲谷隆造氏は「サイクルツーリズムの推進と共に『九州の持続可能な未来のために』をスローガンに、地域貢献、環境、健康、先端技術の実証への貢献を目指す。環境にやさしい大会運営を皆様と力を合わせて実現したい」と語る。

【各県知事からリレーメッセージ】

服部誠太郎・福岡県知事一一競輪発祥地からスタート

福岡ステージは競輪発祥の地、北九州市小倉北区をスタート、耳納連山などの山々を越え、豪雨災害の被災地をつなぎながら、世界遺産のまち大牟田市まで約150㌔㍍のアップダウンに富んだコースを走り抜ける。小倉城を中心に市街地を周回するクリテリウムコースもある。

サイクリング周遊型旅行商品「ディスカバー九州」では国内外の多数のサイクリストや観光客を呼び込むべく、県内に10の個性あるサイクリングルートを設定。サイクリングを楽しみながら福岡自慢の食や豊かな自然を楽しんでほしい。

 

蒲島郁夫・熊本県知事一一雄大な阿蘇で熱戦に期待

熊本ステージは雄大な景観を誇る阿蘇地域で熱戦が繰り広げられる。大分との県境にある瀬の本高原をスタート、阿蘇市に向かい高低差500㍍を一気に駆け下り、阿蘇五岳の東側、箱石峠を経て南阿蘇村をゴールとする全長約120㌔㍍のコースだ。終盤では国際レースならではの激しい競り合いが予想される。

熊本県では県自転車競技連盟と連携し、高校生サイクリストによるプレ大会や大会予定コースを使ったサイクルイベントを開催した。大会本番まで様々なイベントを開催し、大会を大いに盛り上げていく。

 

広瀬勝貞・大分県知事一一日田舞台にせめぎ合い

総合順位が決定する最終日の大分ステージは、大分県日田市を舞台に熱いレース展開になるだろう。スタート会場は国際レーシングコース、オートポリス。世界でしのぎを削る自転車のプロチームによるサーキットのせめぎ合いに注目していただきたい。市街地の1周約10㌔㍍の周回コースでは、最終ゴールを目指し全力を振り絞るスピードレースを期待している。

魅力あるコースづくりと両輪で、選手、観客の受け入れや大会盛り上げに向けて、様々な関係者が一丸となって準備を進めている。

 

【基調講演】総合知で社会変革けん引

九州大学 総長 石橋 達朗氏

九州大学は2021年11月に指定国立大学法人の指定を受けると同時に、「九州大学ビジョン2030」を策定・公表し、目指す姿として「総合知で社会変革をけん引する大学」を掲げ、実現に向けた8つのビジョンを提示した。22年4月には、研究戦略から社会実装まで一体的に推進する体制を整えた。社会的課題解決への貢献に取り組む「未来社会デザイン統括本部」、DXを統括推進する「データ駆動イノベーション推進本部」を核に、活動を通じて得られた研究成果を、「オープンイノベーションプラットフォーム」を中心に社会実装につなげる。特に、脱炭素、医療・健康、環境・食料の3つに最優先で取り組んでいく。

イノベーション・エコシステムの実現には地域社会との共創が不可欠だ。企業や自治体と組織対応型連携協定を結び、共同研究などを推進している。福岡県とは22年4月に包括連携協定を締結。11月に「福岡県・九州大学イノベーションカンファレンス2022」を開催した。

地方創生に向けた取り組みでは、佐賀県唐津市と呼子イカ(ケンサキイカ)の畜養・輸送技術の開発などに取り組み、近年ではマサバの「唐津Qサバ」やブドウの「みつしずく」など地域の特産ブランド化を行う。22年9月には福岡市および電通と「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)福岡プロジェクト」を開始した。これらの取り組みに加え、洋上風力をはじめ、DX、半導体などの産官学コンソーシアム等を立ち上げた。さらに九州・沖縄地域の15大学とFFGベンチャービジネスパートナーズにより、大学発スタートアップ創出プラットフォーム「PARKS」を設立。26年度までに155社の起業を目指す。

アクティブラーニングやデータサイエンス教育などの習得で価値創造人材を育成し、地域の社会的課題の解決モデルを示していきたい。

【パネルディスカッション】

パネリスト
●辻 慎一氏 九州電力 ビジネスソリューション統括本部 地域共生本部 総務部長
●前田 慶太氏 西部ガス 都市リビング開発部長 理事
コーディネーター
●古山 かおり氏 フリーアナウンサー

活性化の好機 ゼロカーボン北海道

古山 九州では地域ごとの特性に合わせた地域創生が進んでいるが、各社どのように取り組んできたか。

辻 九電グループが保有する経営資源を活用し、地域と連携して課題解決やまちづくりを行い、地域活性化に取り組んでいる。2022年11月末時点で九州43自治体と連携協定を締結。企業や教育機関との産官学の連携も進めている。また、「Qでんにぎわい創業プロジェクト」を立ち上げ、持続可能なビジネスモデルを構築し、地域と協働で地域の課題解決に貢献する取り組みを福岡と長崎でそれぞれ進めている。

前田 当社の事業の基本は地域密着。人やまち、社会をつなぐことが当社の使命だ。まちづくり事業で社会課題を解決して地域創生に取り組むチャレンジをしている。現在は北部九州で7カ所、戸建て団地管理業務を実施。北九州の城野地区「BONJONO(ボンジョーノ)」では一般社団法人を立ち上げ、まちの住民同士をつなげ持続的なコミュニティー形成を支援し、当社主導から住民主導のイベントへと進化している。

古山 地域創生の取り組みを通じて得た気付きを。

 地域の課題や魅力は各地域で異なり、それぞれ独自のアプローチが必要。地域団体と協働して相互に補完し合い、地元に過度な負担がかからない持続可能な施策と、スキルや熱意を持ったキーパーソンに人が集まる仕組みの構築が必要と感じる。

前田 取り組みは「3年で結果を出す」といった企業のスピード感ではなく、その地域のスピードに合わせることが大事だと実感している。

古山 今後の展望は。

 九州は交通インフラの整備や再エネ電源など、事業に適した環境がそろった魅力ある地域だ。九州の地場企業として、産業の創生に向けて相乗効果が出せるような取り組みで九州経済を活性化したい。

前田 当社は築50年の大型既存団地、日の里団地の再生プロジェクトにも携わっている。この取り組みが他の様々な団地再生のヒントにもつながっていくと考えており、今後も「つながり」をテーマにした様々なプロジェクトに挑戦していきたい。

■セッション2 「九州発 新ビジネスで加速する九州経済」

【対談】

●横江 友則氏 スターフライヤー 代表取締役会長執行役員
●北橋 健治氏 北九州市長

北九州発の新ビジネス加速

北橋 北九州市はものづくりのまちとして発展してきたが、観光面でも可能性を広げていこうと模索している。就職時の若者の転出を防ぐことが課題だったが、現在では社会動態はプラスに向かって推移している。IT企業誘致でこの8年間に130社ほどの企業が進出。環境関連では洋上風力ファームによる脱炭素のチャレンジを成功させたい。

横江 当社が拠点とする北九州空港はアジアにも非常に近く九州のゲートウエーとしての潜在力は高い。首都圏からの観光客招致のためペットと同乗可能なサービスや地上交通との連携を進めている。アニメとコラボした特別企画イベントツアーは30分で完売。20代、30代女性客にアプローチできた。リモートワークで月間数日しか出社しない人向けの北九州市の物件と当社のサブスクサービスをセットにした商品も検討中だ。

北橋 観光客の増加や移住定住促進は非常に大事だ。行政としても支援したい。ふるさと納税制度を活用してアフターコロナの観光需要を見込んだ体験型の返礼品開発にも力を入れている。

横江 海外インバウンドは、1人当たりの消費額など経済的指標が目的になりがちだが、それは結果であって目的ではない。世界各地で起きている紛争も、国民同士が仲良くなれば大事に至らないはず。インバウンドの真の目的は、海外観光客に日本と日本人を好きになってもらい、次世代に平和を紡ぐことである。

北橋 滑走路延長計画が着実に進む北九州空港は物流の拠点になると期待する。地方創生には企業や働く人を豊かにすることが重要。それに資するため市では、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ロボットなどイノベーションの活用を産官学で支援する体制を取っている。今後も挑戦を続けていく。

【DX活用事例】

●横尾 敏史氏 佐賀銀行 営業統括本部 営業統括本部長代理
●木村 隆夫氏 木村情報技術 代表取締役

地銀柱に地域活性実現

木村情報技術は、佐賀銀行と業務提携し、同行と地元企業を結ぶデジタルプラットフォーム「LoBaMaS(ロバマス)」を開発した。ロバマスとは、ローカル・バンク・マッチング・サービスの頭文字をとった名称。佐賀銀行と取引がある企業が無料で利用でき、パソコン、スマホやタブレットからアクセス可能。経営効率化、ビジネス拡張、IT活用、採用や人事、労務、企業継承、海外進出、不動産など様々な相談を入力すると銀行がリアクションする。

DXツールの他、補助金情報なども提供し、コンサルタント業務の収益化にもつながり、中小企業のDX化にも貢献する。同システムの説明会はメタバース(仮想空間)で行われ盛況だった。

開発した同社代表取締役の木村隆夫氏は、「自分たちだけがもうけようと考えると事業はうまくいかなくなる。まず地方銀行が収益を上げられるよう、今後より重要になってくるコンサルタント業務支援を考えた。取引先企業を活性化できれば銀行と企業の信頼も深まり、弊社もDX技術を提案できる。今後はロバマスを全国に広げていきたい」と語る。

佐賀銀行の横尾敏史氏は「ベンチャー支援制度を創設した1995年以来、佐賀大学、佐賀銀行、佐賀県の産学官連携で人材育成や起業支援を続けてきた。今後はロバマスをマッチングや起業支援など顧客とのコミュニケーションに活用しネットワーク化に取り組んでいきたい」と期待する。営業担当者から新たな契約につながったとの喜びの声も上がっているという。

坂井秀明佐賀銀行頭取も「佐賀の地をスタートとして、全国の地方銀行と共に地元企業の活性化を実現したい」と動画メッセージを寄せた。

【パネルディスカッション】

●山田 信太郎氏 山田水産 代表取締役
●桜井 一宏氏 旭酒造 代表取締役社長

中小企業こそ高き志で

山田 鹿児島県はうなぎの生産量日本一だが、うまくブランディングできていなかった。無薬養鰻(ようまん)うなぎを食べられる「うなぎの駅」を造ってから他県からも多くの観光客が集まるようになった。

桜井 当酒蔵の周囲には稲田が少ないため、酒米は全国から集めている。酒米の品質向上のため毎年独自で山田錦のコンテストを実施。優勝した酒米は市販価格の20倍で購入している。

山田 非常に素晴らしい取り組みだ。悪いものをつくったら値引きされるが、いいものをつくったときのプレミアが日本には少ない。いいものを高く売ってやりがいを感じて上を目指せるようにしておかないと、これからの1次産業は人が続いていかない。当社のサステナブルな挑戦は、うなぎの稚魚からの完全養殖だ。日本の養鰻業者として初めて人工ふ化に成功した。

桜井 地元地域は人口減少していたため父が東京で市場開発し、「獺祭」というブランドが生まれた。次は世界だと海外進出に取り組み輸出に注力している。気に入ってくれたリピーターから広がりニューヨークで日本酒の人気トップになり、他国にも広がっている。ニューヨークには酒蔵を建設中で、そこから世界の食文化を変えていきたい。生産者のためにも市場開発が重要と考えている。

山田 中小企業のブレークスルーで日本は活性化できる。中小企業こそが資源や環境問題から逃げずにコスト競争の中でも高き志を持ってやらねばならない。

桜井 海外進出するからといって欧米化しては意味がない。日本の良さやものづくりをきちんと伝えていく。結果として世界に通用し、日本という国の理解にもつながる。酒蔵だけではなくいろいろな伝統産業や生産者などの活性化にもいえるのではないか。

■セッション3 「始動 シン・長崎創造へ 新たな取り組み」

【基調講演】長崎、100年に1度の変革

長崎県知事 大石 賢吾氏 

2022年の長崎県は、長年の悲願であった西九州新幹線の開業をはじめ、街のたたずまい、産業構造が大きく変化する100年に1度の変革を迎えた。新幹線利用者数は好調に推移。今後は関係者の理解を得て全線をフル規格で整備し、関西直通運行を実現、全国の新幹線ネットワークにつなげることが目標だ。

現在、県内各地域で複数の大きなプロジェクトが同時進行する。長崎駅周辺の再整備や、サッカースタジアム、アリーナ、ホテル、商業施設、オフィスなどを複合的に整備する長崎スタジアムシティプロジェクト、さらに大型クルーズ船が2隻同時に接岸できる2バース化事業が進んでいる。

さらに成長著しいアジアに近い地理的な利点を生かし国際競争力が高く、魅力ある滞在型観光を推進するため、ハウステンボス隣接地に、年間673万人の来訪客を見込むこれまでにないスケールとクオリティーのMICE施設をはじめとする世界最高水準の統合型リゾート(IR)実現を目指す。

また、平戸城を利用した城泊や、雲仙温泉地域のリニューアル、離島初の釣り文化振興モデル港の整備など、歴史文化等のストーリーを生かしたツーリズムのさらなる活性化にも注力。同時に昨年3月から航空管制の一部リモート運用を開始した長崎空港の24時間化を進めていく。

県の成長産業である半導体や航空機などの分野でも京セラやソニー、三菱重工航空エンジンをはじめとした様々な企業が本県での工場新設や拠点拡大を進めている。これに伴い航空機産業クラスター協議会を設立し取引マッチングを支援。新ビジネスに対するスタートアップ支援も重要と考え、人とアイデアを集める交流拠点を設け本県で事業を希望する人を強力に支援している。

4月には長崎大学が病原性の高い病原体を扱える「BSL4」を中核とした高度感染症研究センターを設置。企業の科学研究、技術開発などR&Dや創薬、新たなソリューションの構築につながるよう産学官の連携による取り組みを強化していきたい。本県の特徴である離島ではローカル5Gを活用した専門医による遠隔サポートやドローンによる医薬品配送サービスの提供、車とアプリを組み合わせた地域版次世代移動サービス(MaaS)などの実証実験を進めている。

【パネルディスカッション】

パネリスト
●大石 賢吾氏 長崎県知事
●坂口 克彦氏 ハウステンボス 代表取締役社長
●田中 渉氏 九州旅客鉄道 執行役員 長崎支社長
コーディネーター
●白石 小百合氏 元テレビ東京アナウンサー

高い誘因力を線から面へ

白石 西九州新幹線開業の影響はどうか。

田中 新幹線の車体が登場し一般の目に触れやすくなって以来、認知度が上昇した。長崎県川棚港に陸揚げや基地見学など、車体が見えるイベントを数多く開催することで、九州北部3県に、当事者意識の醸成に成功。開業一番列車の指定席は10秒で売り切れた。

観光誘客に関しては、福岡・大阪・東京を重点エリアとし、各媒体に強く働きかけることで全国発信に成功した。開業2カ月で利用者数は42万2000人と好調。コロナ前対比105%で推移。街にもにぎわいが戻り、観光客だけでなくビジネス利用も増加している。

坂口 残念ながら新幹線は、佐世保は通らないが、九州に注目が集まり、ハウステンボスにも利用客が戻っている。

大石 肌感覚でも人が増えたと実感している。新幹線をきっかけとし、県内13市8町が連携をしながら、全域にこのメリットを享受すべく取り組みを進めている。インバウンドに顕著だが、遠方からの観光客は、長崎だけで完結することはない。福岡着から佐賀で遊び、長崎から帰るといった周遊が一般的なので、その線と面でつなぐ観点を広域行政として重視したい。

田中 訪日客の、最初の目的地までの移動距離とその後の行動半径は比例する。当社のJR九州レールパスというインバウンド用のチケットの数字も伸びている。

坂口 当社のデータでは、東京からハウステンボスだけを目的にする観光客は13%。旅行会社にも周遊をテーマにした企画を訴求している。

田中 新幹線開業に伴い、「ふたつ星4047」という西九州地域を周遊するデザイン&ストーリー列車の運行を開始。絶景を楽しみながら駅のバーで日本酒を飲んだり、車内で絶品のソルベを食せるなど、あえてゆっくり旅を楽しんでもらうのが目的だ。これは地域の素晴らしいコンテンツを紹介するメディアとしての役割も担うと自負している。新幹線によって移動時間が短縮され、生まれた時間で、のんびり滞在する観光が生まれた。

大石 佐賀県と長崎県の窯業をテーマにする旅や福岡に抜ける「シュガーロード」という広域の日本遺産もある。「九州は一つ」というスローガンの下、九州地方知事会でもコミュニケーションを取り、連携を進め可能性を伸ばしたい。

白石 地方創生は観光だけでなく、地域自体が盛り上がることも同時に進めていく必要がある。

坂口 コロナ禍で観光業は疲弊した。危機をチャンスにしようと、改めてパーパスを見直したが、人を大事にし、人を残す経営こそが企業の繁栄につながると確信している。地域共同体でありたいという強い意識から、当園で佐世保市の成人式を開催。健康寿命の伸延に貢献したいとの思いから75歳以上の年間パスポートを5000円に設定した。また、各県で歌劇団の地方公演企画、九州観光機構との連携も行っている。今後も各方面で九州の観光業を強化したい。

田中 長崎観光を予定調和にしないためにも、知られざる地域のコンテンツをメディアに積極的に訴求することは重要だ。ビジネスチャンスを求めて長崎に来る人も増えた今、来訪者からもたらされるアイデアと知恵が次の長崎の変化の素地になる。

大石 新幹線による様々な変化でビジネスチャンスも生まれた。今後はより戦略的に広報に力を入れ、長崎のそして九州の成長につなげていきたい。

 

日経地方創生フォーラムin九州
官民連携で加速する九州経済〜コロナを乗り越え、ツーリズムの再興〜
【主催】日本経済新聞社
【後援】内閣府
【協賛】山田水産、木村情報技術、大倉、九電グループ

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