BizGateインタビュー/SDGs

インパクト投資で起業家支援 紆余曲折の人生経験生かす Kind Capital代表取締役 鈴木絵里子氏に聞く

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社会課題や環境問題の解決に取り組む企業を後押しするインパクト投資。社会貢献と投資リターンを同時に追求する手段として注目を集めている。日本経済新聞社と日経BPは2023年9月11〜16日、SDGs(持続可能な開発目標)について議論するイベント「日経SDGsフェス」を開く。12日の「日経SDGsフォーラム シンポジウム」で「SDGsを進めるビジネス」をテーマに開催するトークセッションには、ベンチャー投資家でESG(環境・社会・企業統治)コンサルタントの鈴木絵里子氏が登場。インパクト投資を手がけるKind Capital(東京・港)を立ち上げるまでに投資銀行や事業会社の財務部門、ドローンベンチャーの日本法人代表など様々なキャリアを経験し、「紆余曲折(うよきょくせつ)の人生」(鈴木氏)を歩んだ同氏に起業の背景などを聞いた。

「勇気の必要な優しさ」を支援

――Kind Capitalの事業について教えてください。

「社会や環境に良いインパクトをもたらすような国内外のスタートアップへの投資が中心です。ESGに関するコンサルティング、起業家・経営者向けのメンタルヘルスや健康などの助言、コーチングも手掛けています」

――投資以外のサービスが手厚いですね。

「前職も含めてインパクト投資に7年間ほど携わっています。社会課題が複雑化し、いったい何をすべきか。正解がない中で経営者や起業家が社会にもたらしたいインパクトを追求しながら、自分の弱い部分と日々葛藤している姿も見てきました。そうした精神的な部分への支援がスムーズな経営を大きく左右すると実感し、当社はウェルビーイング(心身の健康や幸福)にかかわるアドバイスやコーチングも事業の柱としています」

「昨今、『環境に優しい』『サステナブル』などといえば良いものだとされますが、実際にそこに事業としてリソースやコストを投じて取り組む決断をするのは難しさもあり、勇気が必要です。数字やデータも使って論理的にメリットを理解し、小さなプロジェクトから始めて成功体験を積み上げてもらう。いわば『勇気の必要な優しさ』を支援するという思いから、社名に『Kind』という言葉を使っています」

機会の平等があることで社会が向上する

――なぜインパクト投資で起業しようと考えたのでしょうか。

「社会課題の解決に貢献したいと思うようになったのは、私の生い立ちと関係があります。両親とも経済的に苦労して育ったなか、父は高等教育を受けていわゆる大手企業に就職した。それで私と兄弟の世代は不自由なく暮らすことができました。父が経験したような機会の平等があることで社会が向上する――。自分もすごく恩恵を受けたし、そういったことに携わりたいと思うようになりました」

「父親の海外転勤に伴って様々な国で暮らした体験も大きかった。最初は米国のヒューストン。日本人も少なく、幼いながらにマイノリティーの立場を味わいました。小学校に上がってすぐに移ったカナダは移民大国です。周囲の多様な友人や大人から刺激を受け、多様性の強みを身をもって理解しました。高校時代をすごした中東のバーレーンでは貧富の格差を目の当たりにしました」

――Kind Capitalを立ち上げるまでに様々なキャリアを経験しています。

「大学の卒論のテーマはマイクロファイナンスでした。在学中にインターンシップでケニアにあるマイクロファイナンスの機構を調査していた際、地方を訪ねると、現地の人々が小規模なビジネスを立ち上げ、拡大しながら生計を立てている。女性の起業家もたくさんいて、農業を効率化したり、養蜂を兼業すると収入が増えるなどと学び、教え合ったりしていました」

「ビジネスは社会をより良くするのに重要な一助なんだと知り、そこをさらに学ぶために投資銀行に入りました。投資銀行では企業のM&A(合併・買収)や大企業の資金調達を助言する資本市場部という部門に所属。その間に結婚して1人目の子どもを授かりました」

子どもを抱えてフレキシブルに働ける方法

――子育ての経験はどんな影響がありましたか。

「投資銀行では早朝から夜中まで、土・日曜日も仕事をするような働き方が必要で、子どもを生んで復職した前例も当時はほとんどありませんでした。出産後は勤務時間を半分にすることで職場に復帰しましたが、現実問題として、例えば、新規株式公開(IPO)があれば半年前から投資家に訴求するメッセージを整理し、国内外の投資家と対話を続け、やはり夜中まで働かないと回らないことも多かった」

「ベビーシッターも雇って1年間続けましたが、過重労働になってくると自分の嫌な面が抑えられなくなるなどネガティブな影響があるのは明らかでした。そこで声をかけていただいた外資系ブランドの財務部門に移りました。働き方は『9時5時』になり、女性も多く理解があってありがたかった。一方で、今度は自分が思い描いていた社会課題を解決する道とは離れてしまったという責任もすごく感じていました」

「出産して女性として働きにくさ、生きにくさを痛感したことでも、社会課題解決への思いを強くしました。悩んでいたところ、バーレーンにいたころの友人から連絡をもらいました。友人はシリコンバレーのドローンのスタートアップでマーケティングを担当していて、日本に顧客が増え始めたので日本法人を設けたいと」

――ネパールで震災があった2015年ですね。

「そのスタートアップは現地でドローンを飛ばして世界遺産の被害の状況を記録し、マッピングして復旧を支援していた。先進的なテクノロジーを使って社会に良いインパクトを与えるビジネスでやりがいがありました。続いてそうしたスタートアップを支援する側であるミスルトウに転じました。同社などでインパクト投資の経験を積み、18年にKind Capitalを起業しました」

「起業した一番の理由は働き方の部分です。長男が小学校の高学年にさしかかり、健康だけでなく人としてどういうふうに育ってほしいか、自分がどういう大人として向き合いたいか。そこに思考のシェアをおけるようなかたちで働けるよう、子どもを抱えてフレキシブルに働ける方法を模索しようと考えたんです」

やってみて、修正を図っていく

――次々と新たな環境に飛び込む原動力はどこにあるのでしょう。

「もともと今日よりも明日のほうが少しでも成長していたいという気持ちがあって、そう意図すれば大変さはあってもかなうと考える自分の楽観的な性質に助けられています。ただ、投資銀行からスタートアップに転身した時はとても苦労しました。商習慣も考え方も全然違い、振り返ると失敗も多かった」

「けれど、VUCA(ブーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)といわれ、変化が激しく不確実性が高い今の時代は、何かを周到に整えて準備することは難しい。やってみて、修正を図っていくのも重要なスキルになります。失敗しなければわからないこともたくさんある。どういう人が助けてくれるか、失敗することの痛み、失敗したおかげで得られるものはすごく大きいのです。現在と全然違う未来が見えている起業家の話には本当に活力をもらえます。そうした人々も失敗も悩む時もある。そこで確信をもって踏み出せるようお手伝いを続けていきたいと思っています」

(聞き手は若狭美緒)

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