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SDGsは後半戦に 反転攻勢へ行動を 日経SDGsフォーラムシンポジウム

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SDGs ESG

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2015年の国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されてから8年が経過した。今まさに折り返し地点を過ぎようとしているが、目標達成には高い壁が立ちふさがる。加速度的に進む気候変動に歯止めをかけ、目標達成への道のりを探るため、日本経済新聞社と日経BPは9月12日、オンラインとリアルのハイブリッドで、「日経SDGsフォーラムシンポジウム」を開催した。企業経営者、学識経験者らが参加し、世界と日本のSDGs(持続可能な開発目標)を取り巻く最新動向を紹介。SDGs達成には、反転攻勢に向けた行動が不可欠との認識で一致した。

 

【挨拶】人々と地球のより良い未来へ

アントニオ・グテレス氏 国連事務総長

今年の日経SDGsフォーラムは、SDGsが窮地にあるという厳しい現実に注目している。

私たちの世界は、気候カオス(大混乱)や紛争から、貧困、不平等、不信、そして分断に至るまで、あらゆる分野で深刻な課題に直面している。SDGs達成に向けた前進は停滞しており、貧困と飢餓においては後退さえしている。

私たちは、SDGメディア・コンパクトに加盟しているパートナーが、SDGsが救済計画を必要としているというメッセージを周知してくれることを期待している。 本フォーラムで、各国政府、企業、市民社会、メディアによって行われる議論は、いくつもの主要分野における前進を加速させる一助となるだろう。

貧困を撲滅し、教育を変革し、気候変動と自然の破壊を終わらせ、そして、開発途上国が自国の人々への投資に必要な支援を受けられるようにグローバルな金融システムを改革するためには、全ての人々の力が必要だ。

9月18〜22日にニューヨークで開催されるSDGsや気候野心、健康、開発のための資金調達に関する重要なサミットに出席する世界の指導者たちは、SDGsを再び軌道に戻し、人々と地球のためのより良い未来に投資するための、信頼のおける計画を携えて来なければならない。

しかし、私たちには皆役割がある。私は、今回の重要なフォーラムに会する皆さんが、SDGsを救い、将来世代にふさわしい持続可能な遺産を贈るべく、一丸となって引き続き取り組まれることを期待している。

 

【トークセッション】萌芽からの爆発的広がり狙う

酒井 里奈 氏 ファーメンステーション 代表取締役
鈴木 絵里子 氏 Kind Capital ファウンダー兼代表取締役
モデレーター 蟹江 憲史 氏 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授

蟹江 2030年の達成を目標に、国連が15年に採択したSDGs。今年はその折り返しの年だが、進捗はかんばしくない。私は国連発行のGSDR(持続可能な開発に関するグローバル・レポート)2023の執筆に関わった。報告書が最も主張したいのは、世界にはSDGs達成の萌芽となる活動がいくつもあることだ。そして、何かを契機に、萌芽が爆発的に広がる可能性がある。いかに爆発的広がりを起こすかを考えたい。

鈴木 スタートアップ企業はその萌芽の1つであり、そこへの投資は起爆剤になり得る。当社はそうした意図を持って、いわゆるインパクト投資を行っている。投資先は環境や人権、貧困などの問題解決に取り組む企業だ。

最近、「SDGsウオッシュ」という言葉を聞く。実体の伴わないSDGsへの取り組みだ。しかし、インパクト投資には20年以上の歴史があり、ウオッシュを見極める手法も成熟している。例えば、統一された非財務情報の開示の進展で、SDGsの真贋は判断しやすくなっている。

酒井 インパクト投資は社会的リターンと経済的リターンの双方を追いかける。最近はSDGsを重視するという意見も聞かれるが、やはり経済的な利益が第一だ。SDGs関連ビジネスは多くが新たなチャレンジであり、結果が出るまでに時間がかかる。よって、短期的な経済的リターンを求める投資家には評価されにくい。

一方で、投資先の事業がどう社会問題の解決に資するかどうかを測りかねている投資家もいる。当社は米国の民間団体によるBコープ認証を受けている。これは社会や公益のための事業を行う企業に発行されるものだ。こうした認証も投資の判断材料になるだろう。

蟹江 SDGsの目標年である30年まであと7年。取り組みを加速すべきフェーズに入った。今後、どういう方向を目指すべきだろうか。

鈴木 企業のSDGsに対する課題意識が徐々に深まっている。なかには20年後、30年後にこの分野で何をしたいか、それが本業とどうつながるかを、経営計画などで明確に打ち出す企業もある。こうした姿勢は投資家の評価、さらには資金調達につながる。また、いわゆるZ世代は社会課題解決への関心が高い。SDGsへの真剣な取り組みは新卒採用にも大きく関わる。

酒井 単に「SDGsの何番に取り組んでいます」で終わらせず、具体的な目標や進捗状況を可視化し、開示すべきだ。そうしてこそステークホルダーに安心感を持たれるし、資金も集まる。成功事例を増やせば、SDGsに取り組むスタートアップの数も増えてくる。

蟹江 全てのスタートアップが成功するわけではない。それだけに母数が大きいことは重要だ。実はSDGsの最後の方に「GDP(国内総生産)に変わる尺度を開発する」という記述がある。シンプルでわかりやすく、人的資本や社会資本、自然資本を測れる指標が生まれれば、そこからSDGsに資する企業であるか否かが見極められる。そうした企業に資金が集まり、それが変革の引き金となり、SDGsの目標達成につながる。そんな展開を期待する。

 

【対談】人材価値の1倍割れ問う

伊藤 邦雄 氏 TCFDコンソーシアム会長 人的資本経営コンソーシアム会長
一橋大学CFO教育研究センター長
聞き手 酒井 耕一 日経BP 総合研究所 ESGフェロー

伊藤 日本取引所グループ(JPX)は、新たな株価指数「JPXプライム150」を今夏から公表し始めた。プライム市場上場銘柄を対象とし、資本収益性の高い上位75社と、市場評価の高い上位75社の合計150社を選出している。

資本収益性は、株主資本利益率(ROE)と株主資本コスト(投資家の期待リターン)との差であるエクイティ・スプレッドで捉え、これが高い企業は価値創造が推定できる。市場評価とは、株式時価総額を純資産で割った株価純資産倍率(PBR)には将来情報や非財務情報が織り込まれており、それが1倍を超え、時価総額が大きい企業である。

稼ぐ力を示すROEでは、8%が企業価値を創造するか破壊するかの分水嶺であり、私の分析ではJPXプライム150のROEの平均値は16.9%と非常に高い。PBRの平均値も3.6倍だ。TOPIX500銘柄の4割がROE8%未満であり、PBRも1倍割れなのに対し、JPXプライム150銘柄は日本を代表する優良銘柄。しかし、他の東証指数と比べて外国人持株比率は有意に高いが、個人株主比率は有意に低い。

2014年に伊藤レポートでROE8%以上を目指すことを私は提唱した。その後17年の伊藤レポート2.0ではESG(環境・社会・企業統治)・SDGsの推進を提唱した。20年には人材を資源ではなく資本とみなす人材版伊藤レポートを、22年には実戦事例集を追加した人材版2.0と、サステナビリティートランスフォーメーション(SX)重視の伊藤レポート3.0を公表した。これらはテーマの切り替えではなく、ESG経営の進化に必要な積み上げ努力を促すのが目的だ。

ESG経営では損益計算ではなく、貸借対照表(BS)思考が問われる。資産全体が株主資本プラス負債と一致するBSは、事業ポートフォリオを示す。では、人材のポートフォリオをBSで描くとどうなるか。BSの株主資本を人的資本に置き換えると分かりやすい。労働市場から労力や知力を拠出するのが人的資本だ。資産は人的資産、デジタルトランスフォーメーション(DX)人材、研究開発などの合計だ。PBR同様に、人的資本でも人材価値の1倍割れを意識すべきだ。

酒井 JPXプライム150の分析結果からの助言をお願いしたい。

伊藤 社外取締役や女性役員の比率が高い企業が多く、ダイバーシティーの重要性を再認識した。また、ROEを上げる努力だけでなく、資本コストを下げるために市場感応度(ベータ値)を下げるマネジメントが必要で、そのためには投資家向け広報(IR)の上手な活用が効果的だ。

酒井 人的資本のBSは画期的だ。資本を厚くするには何が必要か。

伊藤 人的資本には人材の自己成長期待値も含まれる。自己成長期待値を上回るリスキリング(学び直し)の機会を提供できている日本企業は少ない。投資家向けIR同様、人的資本のIRも重視すべきだ。

酒井 社員にも自律性が求められる。

伊藤 企業の強じん化には、ウェルビーイングの重要な構成要素である個としての自律的キャリア形成が欠かせないが、日本企業はここも弱い。知力や労力という無形資産への投資と価値向上には、経営者の意思決定が何よりも不可欠だ。

 

【対談】スピード感、スケール感が鍵

根本 かおる 氏 国連広報センター所長
聞き手 馬場 未希 日経ESG編集長

馬場 折り返し地点を迎えたSDGsの達成状況は。

根本 あらゆる側面において窮地にある。国連が7月に公表した「SDGs報告2023特別版」によると、進捗順調なターゲットは全体の15%。5割が満足な進捗状況になく、赤信号がともっているものが4割近くある。例えば気候変動問題。今夏、世界も日本も観測史上最も暑い夏となった。何十年も前から科学者が指摘してきたことを、後回しにしたツケが回った結果だ。

20カ国・地域(G20)の温暖化ガスの排出量は全体の8割を占めている。一方、アフリカ諸国は4%に過ぎない。9月4日に行われた第1回アフリカ気候サミットで、アフリカ諸国から「地球温暖化の原因をつくったのは先進国。しかしその影響を受けているのは我々だ。先進国には責任を取ってほしい」という声が強く上がっている。

馬場 日本はどうか。

根本 SDGsという言葉はかなり浸透したと思う。しかしシンクタンクによる国別のSDGsの実施度ランキング(持続可能な開発リポート2023)では前年の19位から順位を下げて21位となっている。取り組みのスピード感、スケール感をもっと上げていかなければいけない。それには政府の政策誘導が必要になる。

馬場 22年度から始まった気候キャンペーン「1.5℃の約束」の評価は。

根本 国連広報センターがSDGメディア・コンパクトに加盟する日本のメディア有志と取り組んだ1.5℃の約束に関連した報道に接した人の方が、「行動を実践した」「行動への関心度が高くなった」という調査結果が出ている。この流れを定着させるため、23年度もより活発に取り組んでいくことが大切と考えている。何より、気候変動アクションを日常の当たり前にしなければいけない。昨年10月環境省も脱炭素につながる新しい豊かな暮らしをつくる国民運動「デコ活」をスタートした。いま人々は気候変動アクションに関する解決策などの情報を求めている。そうした発信を引き続き、期待したい。

馬場 30年に向けてSDGsも後半戦に入るが。

根本 どんな試合も後半戦が大切。目標の達成に向けて、知恵を絞って行動することが欠かせない。国連総会は「清潔で健康的かつ持続可能な環境への権利」を人権と認める決議を採択した。いまこそ、気候変動アクションを新しい常識にし、その解決に向けた資金の流れが野太いものになることを期待している。

 

【講演】防災・復興ボンドを発行

武藤 めぐみ 氏 国際協力機構(JICA)上級審議役 最高サステナビリティ責任者

(CSO)

国際協力機構(JICA)が行う有償資金協力事業は、社会的課題解決に加えて、環境・気候変動の課題解決にも貢献している。財源は、自己資金や政府からの出資金に加え、2008年からはJICA債の発行を開始、16年には国内市場初の発行体としてソーシャルボンドを発行した。23年4月には「JICAソーシャル/サステナビリティボンドフレームワーク」を公表し、同5月には新たにサステナビリティボンドを発行した。

19年からは年に一回程度、開発途上地域の重要アジェンダを周知し、共に取り組むパートナー開拓のため「テーマ債」の発行に取り組んでいる。ジェンダーボンド、ピースビルディング(平和構築)ボンドなどに続き、23年9月には防災および自然災害からの復興を支援する案件に資金使途を限定した防災・復興ボンドを発行。世界中で自然災害が頻発化・激甚化する中、民間資金を通じて事前防災投資が少ない開発途上国を支え、自然災害に強じんな社会づくりを支援していく。

SDGs実現には、政府開発援助(ODA)など官の資金が触媒となり、民間資金を動員する「ブレンデッド・ファイナンス」が重要だ。日本ならではのイノベーションを皆さんと起こして取り組んでいきたい。

 

【講演】テクノロジーで未来共創

川上 結子 氏 日本アイ・ビー・エム 執行役員 IBMコンサルティング事業本部

ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部長

多くの企業がサステナビリティーを最重要課題と捉えているが、なかなか実績が伴わないのが現状だ。国内外の企業のCEOは「ROI(投下資本利益率)や経済的メリットが不明確」「データからのインサイト不足」などを課題に挙げている。

IBMでは50年以上にわたりサステナビリティー活動に取り組んできた歴史から、マネジメントの仕組みを確立してきた。そのノウハウと研究開発、テクノロジーを生かして、グローバルでの先進事例をもとにコンサルティングを行い、企業のサステナビリティー実現を支援している。サステナビリティーの実現には、テクノロジーの活用が必要不可欠だ。IBMはESGの各領域で、人工知能(AI)やブロックチェーン、ITインフラ最適化などのテクノロジーを活用して、日本企業とのサステナブルな未来の共創に努めている。

例えば環境の領域では、生成AIの進化により今後計算量が増え、消費電力が激増する見通しだ。その解決策として、IT機器やインフラ自体の省エネで消費電力を削減するグリーンITを推進している。社会の領域では、NASAの膨大な地球観測データにAI基盤モデル技術を適用して地球規模でのハザード予測を実現。社会課題の解決に寄与していく。

 

【講演】計測・制御技術で社会に貢献

山本 清博 氏 アズビル 取締役 代表執行役社長

アズビルは「人を中心としたオートメーション」の理念の下、計測と制御の技術で人や社会の安心・快適・達成感を実現すると共に、地球環境への貢献を目指している。

従来のオートメーションは、温度などの物理的な数値を達成目標にしていた。しかし新オートメーション事業では「人を中心」の発想に立ち、人の状況を把握して快適・安全な空間を作り出す方法を推進している。

例えばオフィスでは人の感じる快適度に応じて空調を制御して、より少ないエネルギーで快適な環境を実現。また、生産現場では、人が担っていた計画や管理、監視の業務までも「自律化システム」に託すことで、人をより創造的な業務に従事させることを可能にした。

人を中心としたカーボンニュートラルの事例として、自社開発システム「AutoDR」がある。電力の需給ひっ迫時に建物の空間の環境をモニターしながら、人への影響を最小限にとどめて需要を抑制する仕組みで、多くの導入実績がある。

2022年度、当グループでは1.7万㌧の二酸化炭素(CO2)排出により創出される製品サービスを現場に届け、276万㌧ものCO2削減に貢献した。今後もサプライチェーンを含めて、SDGs達成に向けて取り組んでいきたい。

 

【講演】30項目の目標定め行動

瀧澤 徳也 氏 EY Japan チーフ・サステナビリティ・オフィサー

EY Japanは価値創造をビジネスの中心に据え、サステナブルな世界の実現を目指している。価値創造型のサステナビリティーは全ての人の関心事であり、その推進に関わる課題は多岐にわたり、非常に速いスピードで変化している。それらを解決し、ステークホルダーに価値を与えるため、誰もが行動する必要がある。

今注視すべき課題は「生物多様性に向けた社会変革」「人的資本」「テクノロジーの活用」の3つ。企業は自社のマテリアリティー(重要課題)やステークホルダーの期待などを判断して取り組むことが大切だ。

プロフェッショナルファームとして、顧客価値、人材価値、社会的価値、財務的価値という4つの長期的価値の提供を通じて、環境および持続可能な長期的成長を促していく。コミットメント「25年までにCO2排出量の実質ゼロ」を掲げるほか、30項目の目標を定めている。例えば人材に関しては監査法人が「サステナビリティ開示・保証業務認定者制度」を導入。23年度は766人が認定を取得した。

23年にサステナビリティー報告に関する基準が策定され、24年度から開示が始まる。基準間の相互運用性を注視し、有用な情報提供などにより、支援していく考えだ。

 

【講演】真のCHRO育成支援

山田 貴博 氏 アビームコンサルティング 代表取締役社長

いま世界の最高責任者(CEO)が挙げる経営の優先課題は「成長」であり、その推進に求められるCxO(最高○○責任者)のアジェンダは「事業ポートフォリオ変革」だ。ビジネスモデル転換や新規事業開発など抜本的な構造改革であり、短期的な経済価値だけでなく、環境価値や社会価値を創造し、持続的な成長、企業価値向上へとつながる。

その実現にデジタルケーパビリティー活用と人的資本の最大化が不可欠となる。つまり人的資本経営こそ、企業が最優先で取り組むべきテーマだ。

そこで日本企業は持続的な成長に向け、人材戦略を従来の全方位的な施策ではなく、経営戦略や事業戦略との連動性を高めて、選択と集中にかじを切り、人事施策や人材投資について、その効果を数字で可視化し、定期的に見直す。一過性ではなく、継続して取り組むことが必要だ。また最高人事責任者(CHRO)は人事・労務管理の専門家から、経営・事業における人材領域の専門家として、人的資本価値の最大化に向けた取り組み推進の役割が求められる。

当社は、真のCHROの育成と人的資本経営の推進を支援することで、顧客企業における経済価値、環境価値、社会価値の持続的向上に貢献していく。

 

【講演】目標達成へ強み生かす

岸田 吉史 氏 野村ホールディングス 執行役員 チーフ・サステナビリティ・

オフィサー(CSuO)

SDGsの目標達成が危ぶまれているとの指摘がある。この流れを変える3つのキードライバーを特定し、グループの持つ特性や強みを生かして取り組む。

キードライバーの1つ目は「民間資金の活用」だ。SDGs13番目の目標は「気候変動に具体的な対策を」。その取り組みには50年までに累計150兆㌦が必要とされる。

当グループは、低炭素化に向けた企業の設備投資や研究開発を後押しするトランジション(移行)ファイナンスに注力。金融資本市場における民間資金の流れを活用して課題解決に取り組む。

2つ目は情報開示による「取り組みの共有」。統合報告書やウェブサイトなどで、SDGsへの取り組みはもちろん、様々な非財務情報を積極的に開示。こうした開示はSDGs推進の動機付けともなる。他企業の開示情報との比較は、取り組みの高度化や拡充を促す。

3つ目が「政策提言」。SDGs達成には、制度変更が必要なものが多く、民間企業の力だけでは難しい。自社や自社の属する業界の利益の観点だけではなく、サステナブルな社会の実現、SDGsの達成にもつながる提言が重要との考えから、政府の検討会議などに参加。議論をリードし、積極的かつ建設的な政策提言を行っている。

 

【講演】指標提供通じ貢献めざす

藤崎 慎一郎 氏 オークネット 代表取締役社長CEO

オークネットの主業務は、企業間取引(BtoB)向けの流通プラットフォームの提供である。扱うのはリユース品であり、商材は自動車、バイク、電子機器、ブランド品と幅広い。では当社の事業活動が、経済や環境にどの程度、貢献しているのか……。そうした疑問から開発した指標が、総循環型流通価値(GCV)だ。

GCVは「商品の取扱高」と「リユース品提供による環境貢献額」の和である。例えば、当社の昨年のGCVは5417億円と算出されるが、うち5031億円が取扱高、385億円が環境貢献額となる。環境貢献額はリユース品の利用、あるいはオンライン取引による商品輸送削減によって減らした温暖化ガス排出量から算出する。

一方で、事業活動によって排出した温暖化ガスはTCFDの基準に沿って算出し、これを環境貢献額から差し引く。算出方法について、計算式の経済学的な整合性は東京大学エコノミックコンサルティング、用いる数値の信頼性は非財務保証協会による検証を受けている。

今後、GCVの精度をさらに向上させ、その外部提供の事業化を図りたい。さらに、公的な温暖化ガス削減効果の算定ルール作成での貢献も視野に入れている。

 

【講演】社会的価値の創造を推進

髙梨 雅之 氏 三井住友フィナンシャルグループ グループ チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO)

2023年5月に今後3年間を計画期間とする中期経営計画を策定した。その柱の1つが「社会的価値の創造」である。近年、地球温暖化や人権侵害、貧困問題などが顕在化し、その解決への取り組みが喫緊の課題となっている。こうした社会課題の解決を主導し、同時に経済成長を促すため、5つの重点課題を挙げた。

重点課題の第1が「環境」である。顧客支援を通じた取り組みとしては、トランジション・ファイナンスによる脱炭素社会実現、温暖化ガスの排出量算定、脱炭素技術を持つ企業と必要な企業とのマッチングなどが挙げられる。

一方、我々自身は、投融資のポートフォリオの温暖化ガス排出量を50年までにネットゼロにすると宣言している。

第2が「D(ダイバーシティー)E(エクイティ)&I(インクルージョン)・人権」である。これには従業員が働きがいを感じる職場の実現や、サプライチェーン全体での人権尊重責任への取り組みなどが該当する。

第3、4、5の重要課題には「貧困・格差」「少子高齢化」「日本の再成長」を挙げている。

今後も多くのステークホルダーと協業して、これら社会課題を解決し、社会的価値の創造を果たしていきたいと考えている。

◇ ◇ ◇

※本シンポジウムのアーカイブ視聴はこちらから

 

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