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経営の右腕がハラスメント処分 復職に必要な条件は? サバイバル経営Q&A 辻・本郷社会保険労務士法人 田中宏二氏

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SDGs(持続可能な開発目標)にデジタルトランスフォーメーション(DX)……。ビジネスの現場には次々課題が降ってくる。あなたの職場は持続可能ですか。今回は経営の右腕のハラスメントが発覚し、その処遇に悩む経営者に、特定社会保険労務士の田中宏二氏が経営者として取るべきスタンスを助言します。

インターネットのサイトデザインを手掛ける会社を立ち上げ、3年になります。先日、創業時から私の右腕となってきた幹部による女性社員へのパワー(セクシュアル)ハラスメントが発覚しました。会社として謝罪をし、幹部を厳しく処分しましたが、被害を受けた社員は退社しました。すぐにとはいきませんが、ほとぼりが冷めたところで幹部を元の職に戻すことは可能でしょうか。

セクハラについて加害者に厳しい処分をしても、被害を受けた社員が辞めてしまう。とてもよくあるケースです。それだけ被害の傷を癒やすことが難しいということですし、こうした事件が起きると職場に対する信頼が一気に失墜する、ということでもあります。起きる前の予防が何より重要であることを、まずは認識してください。

また、有能な幹部が加害者になるのは、ハラスメントの典型でもあります。どれほど有能でも、ハラスメントには会社として厳しく対処する。これが絶対的な前提です。

本人の反省・改心と長期の観察期間が必須条件

その上で、加害者となった幹部を元の職に戻したいという相談者の問いへの答えは、ハラスメントの程度によると考えます。どんな人材でもそれはやめるべきだとする見方もありますが、失敗したら二度と復帰のチャンスを与えないというのも考えもの。降格なりの処分をしたうえで、敗者復活の機会を与えることも人材活用では重要です。元の職への復帰にはかなり高いハードルを設定し、かつ長期間にわたり本人の監督を行った上で復帰の判断をすることは可能です。具体的には下記の要件を満たすことが条件になるでしょう。

①処分後に、例えば10年など長期の観察期間をとり、本人がハラスメントの有害性を理解し、反省の意識が明らかだと確認する

②同僚の目から見ても変化が明白で、再発の可能性がないと判断できる

③再度ハラスメントを行った場合は懲戒解雇することを本人に通知し、理解させる

3つの要件のうち、とりわけ重要なのは同僚たちの判断です。ハラスメントは、会社が把握した段階で多くの社員が認識しているケースがほとんど。職場の人間関係が崩れていたり、被害者が一人ではなかったりすることも多々あります。被害を訴え出ない潜在的被害者がいる前提で対応する必要があるのです。被害を受けていない社員も、あえて加害者と働きたいと思うはずがない。「次は自分が標的になるのでは……」と思わせるような人物が、すぐに元の職に復帰すれば、多くの社員が業務に集中できず不健康な状況になることは容易に想像できます。職場の士気や生産性の低下、ひいては会社の社会的評価の失墜につながりかねません。それだけに同僚たちの納得を最も重視する必要があるのです。

再発なら経営に決定的ダメージ 訴訟リスクも

加えて、加害社員が再度、ハラスメントを犯すリスクも無視できません。元の権限ある立場に戻したのちにハラスメントが起きれば、会社としての管理責任が問われるのはもちろん、社内外の信頼に決定的ダメージを与えます。人材の大量流出が現実となり、事業の存続にも支障が生じます。

近年はハラスメント被害者が会社や加害者に法的措置をとることをためらわなくなっていることも、考慮すべきです。一度、ハラスメントが社外に露見すれば、取引先にとってもリスクとなる。場合によっては取引を打ち切られるでしょう。小売りなど消費者が直接の顧客である企業では、不買運動などにつながる可能性もあります。それほど、ハラスメント事案は悪影響を及ぼすのです。被害者が退社した途端に加害者を復帰させようと考えるのは、安易で危険と言わざるを得ません。

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