寝だめはダメ?
どのくらい寝れば良いか、言い換えると適正な睡眠はどのくらいなのか。これは個人差があるため一概には言えませんが、日中の眠気を感じない、もしくは感じてもやり過ごせる程度であれば、適正睡眠といえるでしょう。
そうは言っても仕事があれば平日に睡眠時間が短くなるのは仕方がありません。休日の寝だめでなんとかしのいでいる人も少なくないはずです。平日と休日の睡眠時間が大きくずれてしまうことを「社会的時差ぼけ(ソーシャル・ジェットラグ)」といいます。要するに、平日の睡眠負債を解消するための「休日の寝だめ」がその原因とされます。ここ10年くらいで社会時差ぼけの研究が進み、
①休日の寝だめによって、睡眠リズムが崩れてしまうこと。
②そうなると、ブルーマンデー(月曜の朝から憂うつな気分を感じてしまうような状況)が生じやすくなること。
③疲労感や眠気が通常通りに戻るのに3~4日かかること。(図2、3)
などが、明らかにされています。要するに、平日の半分は調子が上がらないので仕事面が充実しない。休日は長く寝てしまうからプライベート面が充実できないということになってしまいます。
こんな研究(※2)もあります。17時間覚醒し続けていた場合、その時のパフォーマンスは血中アルコール濃度0.05%(呼気1リットル中のアルコール量は0.25ミリグラム:ほろ酔い期)のパフォーマンスと同程度まで低下するというもの。どうしても片付けたい仕事があるからと、頑張って残業するほどパフォーマンスは低下していくというパラドックスです。
睡眠負債は国益をも損なう
日本の喫煙による経済損失は、年間2兆円超え。これは厚生労働省が2018年に公表した15年度の総損失額です。では、睡眠不足・睡眠負債はどうでしょう。米シンクタンク、ランド研究所による試算によれば、なんと15兆円にも。国民総生産(GDP)に換算すると約3%の損失となります。週の平均睡眠時間を1時間延ばすことで、長期的には生産性を約5%上げられるという試算もあります(※3)。
「睡眠を削ってでも頑張る」のはもう古い。これからは「睡眠を十分とって頑張る」がトレンドなのです。
※1 Van Dongen H et al: The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep. 2003; 26: 117-126.
※2 Dawson D, Reid K: Fatigue, alcohol and performance impairment. Nature 388:235-237,1997.
※3 Gibson M, Shrader J: Time use and labor productivity: The return to sleep. Review of Economics and Statistics 100:783-798, 2018.
東京家政大人文学部心理カウンセリング学科(睡眠行動科学研究室) 准教授。博士(臨床心理学)。日大文理学部卒、北海道医療大大学院博士課程修了。早大人間科学学術院助教などを経て2018年より現職。毎日8~9時間睡眠をとると快調だと気づき、夜9時に寝て朝5時ごろ起きる生活を続けている。