サウナやキャンプに共通する、ヒットの要因に「Well-being(ウェルビーイング)」があるといわれる。広い意味での健やかさや幸福感、満足度を重んじる意識だ。マーケティングコンサルタントの藤田康人・インテグレートCEO(最高経営責任者)は「従来の商品・サービスにウェルビーイング思考を持ち込むと、消費マインドや潜在的ニーズに寄り添いやすくなる」と、ビジネス面での価値を説く。『ウェルビーイングビジネスの教科書』(インテグレートウェルビーイングプロジェクトとの共著、アスコム刊)の著者である藤田氏に、ウェルビーイングの業務への生かし方を教わった。(前回の記事「『バドワイザー』流ウェルビーイング 立ち位置変えて顧客をハッピーに」)
日本企業にとってウェルビーイングは「健康経営」と関連付けてとらえられることが多いようだ。従業員の健やかさを保つことは経営面でも意味が大きい。もともと世界保健機関(WHO)が広めた概念だけに心身のイメージが強い。しかし、藤田氏は「マーケティングに生かすと、ビジネスの可能性が広がる」と、さらに広い領域での活用を勧める。狭い意味の「健康」にとらわれず、満足感や心地よさといった広義の「ハッピー」と考えれば、様々な商品・サービスと関連付けやすくなるという。
ブームが続いている「ソロキャンプ」はその一例だろう。山道を歩くことは足腰の健康に役立つが、そういった直接的な「健康効果」よりも、むしろ精神面での解放感やさわやかさのほうがファンを増やしている理由のようだ。藤田氏はウェルビーイングを「『自分らしく、心も体も健やかに』生きることに重きをおく新たな人生観」と位置付ける。短期的・局所的なメリットを超える「人生観」という理解がポイントだ。
ビジネスでの成功例も多い。アウトドア用品大手のスノーピークは「人生に、野遊びを。」を掲げて、単なるアウトドア用品の販売にとどまらない、人生へのコミットを宣言している。「衣食住働遊」というメッセージも打ち出し、登山やキャンプ、ハイキングなどを通した「遊」を人生の柱に据えた。だから、同社の製品は人生への肯定感をまとって映る。アウトドア市場が盛り上がり、低価格商品が増える中でも、価格競争に巻き込まれにくい理由だ。藤田氏は「関係性のリデザインが効果的なマーケティングにつながる」と、ウェルビーイングを織り込んだビジネス思考を促す。
同様のヒット商品に「サウナブーム」も挙げられる。ずっと昔からあった商品・サービスだが、気持ちが「ととのう」という効果がうたわれて、人気が突き抜けた。深酒の後にアルコールを抜くといった、やや不健康寄りの使い方とはほぼ真逆のリラックス感や安らぎをもたらす利用スタイルがブームを呼び込んだ。