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面接通過率17% 「できのいい孫」と変える超高齢社会 MIHARU代表取締役 赤木円香氏に聞く

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2023年1月に発表された国連の「世界社会情勢報告2023」によると、21年に生まれた子どもの平均寿命予測は71歳だった。1950年生まれの子どもより約25年長く、65歳以上の世界人口も2021年の約7億6000万人から50年には16億人へと倍増する見込み。世界的に加速する高齢化という課題に対し、スタートアップのMIHARU(東京・渋谷)は、ポジティブに年を重ねるという「Age-Well」という概念を提唱し、高齢者の挑戦などを支援するサービスを開発する。サービスのカギを握るのは面接通過率17%という若いスタッフだ。23年5月に東京で開催した日経SDGsフェスのパネル討論にも登壇した同社代表取締役の赤木円香氏に、事業を立ち上げた背景などについて聞いた。

「ポジティブに年を重ねる」という新市場

――手がけているサービスについて教えてください。

「大きく5つの事業があります。中核は『孫世代の相棒サービス』と呼んでいる『もっとメイト』です。20〜30代のスタッフが利用者のところに出向いてスマートフォン(スマホ)の使い方を教えたり、散歩や趣味のお供をしたりするなど、シニアのもっとこうしたいという思いをかなえるサービスを提供します。23年1月に新たに世代を超えて交流できる『モットバ!』というコミュニティースペースを開設しました。さらに、もっとメイトやモットバ!で蓄積してきたことを企業や自治体向けに提供するソリューション事業も展開していて、例えば、23年度は自治体でのスマホ講座は約300回を予定するなど大きく伸びています」

「年を取り老化するのは事実で、そこで心身ともに健康で社会的にも満足していれば『ウェルビーイング』という状態になる。私たちの提唱する『Age-Well(よく年を取る)』はさらに挑戦や発見を楽しむことで、超高齢社会を問題ととらえるのではなく、ポジティブに年を重ねるという考え方です。「『Age-Well』の市場をつくるために22年度、産業界やアカデミア、シニアも参加する『Age Well Japan』というイベントを立ち上げてカンファレンス事業を始めました。コミュニティースペースを拠点に有識者らとシニアマーケティングや幸福学などを研究・発信する事業も動き出しています」

――利用者はどのようなきっかけで「もっとメイト」を知るのでしょうか。

「8割はデジタルマーケティングです。会社を立ち上げたころ、創業メンバーで街に出てサービスを売り込んでもなかなか理解されなかった。聞き取りを重ねて、具体的に困っていることが最初に解決されないと信用してもらえないと気付きました。ヒアリングしたシニアの大多数が困っていたのがスマホの使い方です」

「サービスの入り口として『スマホの困りごとを自宅訪問で丁寧にお伝えします』と打ち出しており、ウェブ検索で『スマホ 講座』などと調べてもっとメイトのページにたどり着く方がほとんどです。そこで問い合わせの電話をいただいた利用者の方には15〜20分間をかけて、手順に従ってニーズやご自身の状況を聞き取り、独自のアルゴリズム(計算手法)に基づいて最も合うスタッフを選んで派遣します」

4つの「クレド」と40の研修講座

――訪問前にきめ細かにマッチングしているのですね。

「入り口はスマホですが、スタッフとの会話を楽しんだり、もっと挑戦してみようという気持ちになったり。弊社のスタッフは『できのいい孫』と言ってもらえています。継続する方のほとんどが定期的に訪問する月額会員になってくださるんです」

「そのためのスタッフの採用と育成にはもっとも力を入れてきました。ポイントは4つのクレド(行動指針)です。1つ目は『親切・感動』で、潜在しているニーズを把握し付加価値を乗せて期待を超えた感動体験を生む。それには相手(シニア)との信頼関係を築く必要があって、2つ目に『傾聴・対話』を掲げています。では(シニアが)どんな人と話したいかと考えると、自分に対して『感謝・尊敬』がある人たち。これが3つ目で、4つ目は『安全・安心』な空間をつくることです」

――具体的にどのように採用・育成を進めていますか。

「採用では書類を通過した志望者に2回面接します。集団と個別です。集団面接でコミュニケーション力を測り、3つ目のクレドであるシニアへの感謝や尊敬を見極めます。面接の通過率は17%。採用になったら、担当を持つまでに約30時間の研修を受けます。最初に『ビジョン・ミッション研修』で高齢者向けにサービスを提供するマインドセットを整えます。スタッフは利用者のシニアにスマホの使い方などの知識を提供しますが、利用者からは人生で積み重ねてきた経験から教えてもらえることがあり、感謝や尊敬があると」

「そのほかコミュニケーション研修や、利用者から弱音が出てきたときにどう相手を尊重しながら答えるかという『ネガティブ切り返し研修』、高齢者が悩む不調を知る研修などオンデマンドで受講できるものも含めて40程度のプログラムを用意しています。どれもこれまでスタッフが利用者と向き合うなかで悩んで、解決策を見つけながら作ってきました」

やりたいこと、できるようになることが多いポジティブな毎日を

――高齢者向けのサービスを立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。

「もともと社会起業家を目指していました。中学生のころ、貧困層に少額融資するグラミン銀行がノーベル賞を受賞するなど、単なるボランティアでも利益を追求するビジネスでもない、社会課題をビジネスとして解決するソーシャルビジネスを知った。大学受験のタイミングで、途上国発のバッグやジュエリーを展開するマザーハウスを創業した山口絵理子さんの著書を読んで強く影響を受けました」

「就職して、自分の祖母に恩返しをしたいと思ったタイミングで、祖母がけがをしました。できないことが増え、家族や地域で謝っている姿を見て、感謝されるべきシニアが肩身の狭い思いをするのはおかしいと強く感じました。衰えがあっても、やりたいこと、できるようになることが多いポジティブな毎日を送ってほしいと思いMIHARUを起業しました」

――シニア世代に街頭インタビューしてニーズを探ったと聞きました。

「東京の白金で、趣味の華道を30年続けて先生をしている女性に会いました。よく聞くと病気をした後に再起したということで、待ってくれる人がいて、居場所があったからだと。たとえ健康を害しても、自尊心や存在意義を感じていれば再起できる。年を取ってできなくなることはあるけれど、なお人はポジティブに生きたいと思う根底の部分があって、それを引き出していくのが自分の目指すことだと思いました」

「もう1人、誰と百貨店に行きたいですかと尋ねた高齢の女性が、『青学(青山学院)か慶応ボーイ』と答えたんです。そこで、介護してほしいと思う相手と、晴れの日に一緒にいたい人は違うんじゃないかと気付きました。そういう日に共にいたいのはどんな人かと考えていって、懐に入って一生懸命に荷物を持ってくれるような『孫世代の相棒』とイメージを固めていきました」

――年を取るのが楽しくなりそうですね。

「世界がどんどん高齢化するなかで、日本は幸福度が高いといわれるようになることを目指しています。超高齢社会の価値観・文化・制度を変革するのが当社のミッションです。会社の忘年会で、スタッフが『○○さんみたいになりたいんだ』と担当の利用者について話していたことがありました。かっこいいと憧れるシニアがいて、そんなふうになりたくて教養を高めようとか、話し方を変えようなどと考える。『高齢者最高だよ、超イケてるから』と伝えていきたいんです」

(聞き手は若狭美緒)

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