BizGateインタビュー/SDGs

全国各地お手伝いしながら旅行 「関係人口」の増やし方 おてつたびCEO 永岡里菜さんに聞く

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日本経済新聞社と日経BPは2023年5月8〜13日、SDGs(持続可能な開発目標)について議論するイベント「日経SDGsフェス」を開催する。8日のトークセッションには、農家などを手伝いながら旅行できるサービスで注目を集めるスタートアップ、おてつたび(東京・渋谷)最高経営責任者(CEO)の永岡里菜さんが登壇する。自身の「勇気のなさ」をヒントに、地域活性化の切り札とされる「関係人口」の増加につながる仕組みを開発した永岡氏に、起業のアイデアが生まれた背景などを聞いた。

利用者は3万人を突破

――おてつたびの仕組みを教えてください。

「おてつたびは短期的、季節的な人手不足に悩む各地の事業者と旅行者とを結びつけるマッチングサービスです。旅行者はおてつたびのウェブサイトで利用登録し、募集ページに載っている仕事の内容や地域で楽しめるレジャーを見て応募します。SNS(交流サイト)のように気になる事業者をフォローし、募集がスタートしたら通知を受け取ることも可能です。(採用されたら)マイページで勤怠登録や給与情報のチェックなどもできます。『おてつびと』と呼ばれる利用者は3万人を突破しました」

「一方、事業者はアカウントを開設してそこに募集情報を掲載します。多いのは農家や宿泊施設です。応募者の自己紹介文やスキルなどを確認して採否を判断します。利用者への通知機能を利用し、例えば夏に人手が欲しい場合でも、冬にアカウントをつくっておいてアピールを始める事業者もいます。訪問した利用者からの評価の点数や感想を表示する機能もあり、継続的にファンを増やせる仕掛けを設けています。現在、約900の事業者・自治体が登録しており、全国47都道府県すべてをカバーしています。おてつたびのプラットフォームを活用して、旅行、小売り、運輸など様々な業種の企業や自治体、大学などと連携したプロジェクトも手掛けています」

知らないのはもったいない

――求人情報サイトと旅行サイトが合わさったようなサービスです。どうしてこのような事業を構想したのでしょうか。

「私は三重県尾鷲市で生まれ、愛知県で育ちました。おてつたびを立ち上げた原点には、小さいころに尾鷲で過ごした記憶があります。長期の休みは祖父母が住む尾鷲に滞在していることが多かった。山や川に行き、海でバーベキューしました。近くの小学校で地元の子と遊び、帰り道にある小さな個人商店でお菓子を買って帰りました。お祭りの時は皆で屋根に上って花火を見ながら、祖母から地区の花火の由来を教えてもらいました。他の地域にもあるありふれた光景だと思いますが、私にとってはかけがえのないシーンとして残っています。大学に進学して関東に出てきたら、尾鷲の話をしても『どこそこ?』と言われてしまうことが多くショックを受けました」

「大学卒業後、地域活性化などを手掛けるコンサルティング会社に勤めていた時、地方によく出張して、尾鷲のような魅力を持つ町が各地にあることに気づきました。その魅力を言葉にすると全部一緒になってしまうのですが、行ってみて、自分にしかない体験が生まれたとき、好きでたまらない地域に変わる瞬間がある。大きな観光地と同じくらい面白い町があるのに、みんな知らないのはもったいないと思うようになりました」

「尾鷲市が『消滅可能性都市』と指摘されていたので、人知れず大切な場所がなくなってしまうという危機感と、若くて身軽なうちに行動を起こしたい思いが強まり、26歳の時に会社勤めを辞めて起業に乗り出しました」

「どこそこ?」と言われる地域に行く2つのハードル

――そこからどのようにして「地域の仕事を手伝いながら旅をする」というコンセプトにたどりついたのでしょうか。

「会社を辞めてから半年くらい、北は岩手県から南は鳥取県まで様々な地域をめぐり、『どこそこ?』と言われやすい地域に人が行かない構造がなぜ生まれているのか理解しました。人が地域間を移動するきっかけは3つあります。まず旅行。2つ目が出張で、3つ目は親戚など知り合いがいることです。旅行は有名な観光地に行き、出張は仕事先。あとは知り合いがいなければ『どこそこ?』となってしまう」

「ただ、アンケートやヒアリングを重ねてみると、訪ねる方もそういう地域に行きたくないわけではないことが見えてきました。ハードルは2つです。第1に観光名所は価格競争が働いて旅費を抑えられますが、無名の地域は交通費なども高くなりがち。魅力がよくわからない町にお金をかけて行く人はいないでしょう」

「訪ねてみれば、私が祖母から花火のいわれを聞いたように、地域の魅力を教えてくれる地元の人がいます。けれど旅先でいろんな人に自分から話しかけて仲良くなるのはコミュニケーション能力が高くないとできない――。これが2つめのハードルです」

「私自身、勇気がなくて、地域に関わりたいという思いはあっても、いきなり知らない人に話しかけてはいけないと臆病になる部分があった。そこにお手伝いというきっかけがあれば、誰でも自然と交流でき、地域の人手不足の悩みも助けられる。お手伝いの報酬で金銭的ハードルも下げることができると思いました。おてつたびが生まれた背景には、自分の勇気のなさもありました」

「この夏はおてつたびに行く」という未来に

――おてつたびに掲載されている募集を見ると、手伝いの内容は重量物を運ぶなどハードなものも少なくありません。

「実際に参加した人からは『めっちゃ大変だった』という声も寄せられました。『でももう一生忘れない』『合宿みたいに楽しかった』『みんなで乗り越えた達成感があった』とポジティブな感想をいただいています。リピートして手伝いに行ったり、今度は観光客として訪ねたりする人も多く、少しずつ手ごたえを感じています」

「日本全体として人が減っていく中で、1人を取り合うのではなく、1人が何役にもなれるような未来をつくりたい。それが定住人口と、観光客のような交流人口のあいだにある関係人口という考え方ですが、一方で地域に根差す人がゼロになってしまったら意味がないので、関係人口の中から根付きたいと思う人が出てくれば本物だと思っています。『どこそこ?』と言われてしまう地域に行くのが当たり前の選択肢になって、『この夏はおてつたびに行く』というくらい、日本人にとってなくてはならない未来のインフラになるのが目標です」

(聞き手は若狭美緒)

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