BizGateインタビュー/SDGs

SDGsは企業成長ツール、中小も戦略に組み込む時代 ニューラル代表の夫馬賢治・信州大特任教授に聞く

SDGs インタビュー 脱炭素 ベンチャー

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SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素社会への関心が高まる一方、政府が目指す2050年までのカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量が実質ゼロ)の実現性を疑問視する声もある。ロシアによるウクライナ侵攻の悪影響なども懸念されるなか、国内企業はSDGsにどう取り組むべきなのか。ESG(環境・社会・企業統治)投資アドバイザーの夫馬賢治・ニューラル代表は「脱炭素化は企業の成長のためのツール。中堅・中小企業もSDGsを経営戦略に組み込む時代だ」と説く。

脱炭素化への流れ、中期的にスピードアップも

――ウクライナ侵攻の長期化が脱炭素化の足かせになるとの指摘があります。ドイツはロシアからの天然ガス供給が大幅に減る事態に備え、緊急措置として石炭火力発電の稼働を増やすことを決めました。

夫馬氏(以下、敬称略)欧州では水素ブームが起きています。欧州連合(EU)は5月、30年までに従来目標の2倍にあたる年間1000万トンのグリーン水素を製造すると発表しました。ロシアに対するエネルギー供給依存を解消する狙いです。40年までに温暖化ガス排出量の実質ゼロをめざす企業有志連合「クライメート・プレッジ」は、過去半年間で加盟企業が1.5倍に増えて300社を超えました。19年に米アマゾン・ドット・コムなどが中心となって設立した組織です。短期的にはカーボンニュートラルの流れに逆行することもあるでしょうが、中長期的にはエネルギーミックスの形で脱炭素化のスピードが速まると予想します。

――カーボンニュートラルという言葉は以前は専門用語でした。脱炭素化に産業・金融界が率先して取り組むことに違和感を覚えるとの指摘もあります。

夫馬 カーボンニュートラルは今や環境化学用語というより経済用語です。世界的な異常気象が起きるのは今夏だけではない。自然災害による損失が年々拡大し、毎年「数十年に一度」という状況がどこかの地域で起きています。自然災害に対する世界の保険損害総額を分析すると、1990年代初頭には70年代初頭に比べて約2.5倍の水準に増え、2005年にはさらに約2倍に膨れ上がりました。05年と11年、17年には年間1400億ドルを超えました。このうちの多くは台風、ハリケーン、サイクロンなどの気候変動が関係する災害です。金融危機さえ引き起こしかねない可能性が真剣に懸念されています。

イメージ戦略にとどまらない取り組み

――カーボンニュートラルは欧州が仕掛けた巧みな戦略との見方もあります。

夫馬 欧州連合(EU)が新たな価値観を提示し自分たちに有利なルールをつくり出そうという「お家芸」の面があることは否定できません。実際に率先してSDGsや気候変動の政策を採用してきました。しかし、EUだけで世界経済のルールを変えるのには力不足です。後押ししたのは米アップルやマイクロソフト、スターバックスなどの米系大手グローバル企業です。環境問題や社会問題への対応が遅れると、世界市場で顧客の離反など大きな経営リスクを負うと認識し、カーボンニュートラルを支持したのです。単なるイメージアップのためではなくNGO(非政府組織)の意見を取り込む企業も増えています。日本では過激な行動の団体ととらえられがちな国際環境NGO「グリーンピース」はノルウェー2位の金融機関で公式のアドバイザーを務めています。

戦略的な中国のカーボンニュートラル

――温暖化ガスの排出量削減のコストは日本が突出しているということはありませんか。内外のSDGs情報が多過ぎて日本の立ち位置が見えにくいとの指摘もあります。

夫馬 2030年の温室効果ガス(温暖化ガス)排出量削減目標は、1990年比で日本が40%、米国が43%、EU55%、英国68%減となっています。2050年までにカーボンニュートラル実現を宣言しているのは140カ国・地域を超え、日本だけが大きな宿題を抱えているわけではない。世界最大の排出国である中国の脱炭素化のプロセスは、非常に戦略的です。60年までのカーボンニュートラル目標は各国・地域より10年遅いものの、日本に先駆け二酸化炭素の排出量取引制度を導入しました。先行するEUのケースに学んでいます。EUは企業への排出量課金を始めることで脱炭素の技術革新が進みました。中国も同じ効果を期待しているのです。さらに中国は太陽光発電パネル、電気自動車(EV)、陸上風力発電などを重要産業と位置づけています。排出量削減と脱炭素時代の産業育成を結びつけて、国際的な経済力を大幅に強化しようと狙っています。

SDGs関連の新技術開発に取り組む中小も

――中堅・中小企業はカーボンニュートラルを達成するための資金不足が課題ですが、最新著の「武器としてのカーボンニュートラル経営」(ビジネス社)では「中小企業もSDGs経営へとカジを切るべき時期に入った」と説いています。

夫馬 必要なのは、ガス排出量を削減しながらコスト削減を同時に目指す発想です。SDGsに配慮する企業・製品は取引先や消費者に選ばれやすくなっています。例えば、結婚式場などを運営するタガヤ(京都市)は解体した英米の教会の廃材のステンドグラスやドア、ベンチなどを再利用して建築した古風な趣の結婚式場を売り物にしています。新築より建築コストを3割削減できたそうです。レストラン事業では根から葉まですべて使う無農薬の料理にこだわって提供しています。主な顧客はSDGsに敏感な若い世代です。老舗の陶磁器メーカーのニッコー(石川県白山市)は、廃棄するボーンチャイナ製食器を粉砕し、肥料としてリサイクルする新技術を開発し、農林水産省から肥料として認定されました。ボーンチャイナ牛の骨灰と土・石を混ぜて作り、農業の肥料に欠かせないリン酸が豊富。サーキュラーエコノミー(循環経済)の一種として石川県立大と共同研究を続けた結果でした。あえてリスクを取ってSDGs関連の新技術開発に取り組む中小企業が増えてくるかもしれません。

(聞き手は松本治人)

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