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環境に配慮した牛乳を 牛の飼育に経済価値 明治、酪農クレジットで一酸化二窒素削減めざす

SDGs 持続可能性 気候変動

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ゆっくりとした時間の流れを表す「牛歩」。変化の激しい社会にあって、前向きな意味に捉えられることは少ないが、地道に歩を進めることで偉業を成し遂げることもある。「牛の歩みも千里」だ。継続は力となり、いろいろな人たちを巻き込み、経済的な価値を創出することで持続的な社会の実現を目指す。辛抱強い牛の歩みの未来を紡ぐ取り組みこそ、今、私たちに求められる地球環境活動ではないだろうか。

北海道東部、根室を拠点とする酪農業の北翔農場で1月から特別な飼料による牛の飼育が始まった。牛の排せつ物から出る一酸化二窒素(N2O)の25%削減を目指す飼育で、重要な役割を担うのが、味の素が開発したアミノ酸製品「AjiPro-L」だ。明治グループの明治飼糧が北翔農場に飼料を供給。「AjiPro-L」を配合し、農場に最適な飼料設計をする。

牛のふん尿、げっぷは二酸化炭素(CO2)の約300倍の温室効果があるとされるN2Oを排出し、酪農由来の温暖化ガスは世界の排出量の3%を占めるとされ、対策が急務だ。北翔農場はこれまでも「貯留」という方法でN2O削減に取り組んでいた。アミノ酸製品「AjiPro-L」を配合した飼料は牛の小腸の中で消化をよくしN2O削減効果があるアミノ酸のリジンを含む。効率的な消化で大豆かすなど飼料そのものの使用料も約5%減るという。

今回の取り組みに弾みを付けたのが、国の認証制度「J―クレジット」の活用だ。北翔農場はN2Oの排出削減量をクレジットとして味の素に譲渡。そのクレジットを明治が購入。明治は「明治オーガニック牛乳」で生産から消費までの全工程で排出されるCO2量を把握する「カーボンフットプリント(CFP)」の国内初算定に着手。クレジットを自社の温暖化ガス排出量のオフセット(相殺)に使い、北翔農場はクレジット代金を得る。3者がそれぞれ恩恵を受けられる。

明治は2018年から持続可能な酪農経営を目指して酪農現場の課題を解決するMDA(メイジ・デイリー・アドバイザリー)を開始。後継者問題、生産性向上、環境対策などに酪農家と共に向き合ってきた。今回もMDAの活動から北翔農場との協業が生まれた。

北翔農場は明治飼糧との取引はあるが、搾乳された牛乳は指定生乳者団体との関係もあり明治の製品にはなっておらず、競合の乳業メーカーに供給されている。明治の松田克也社長は「それで全く構わない。これを機に取引をすることも考えていない。小さな最初の一歩がきっかけとなり、N2O削減の取り組みが企業の枠を超えて広がってくれたらいい」と語る。

(編集委員 田中陽)

 

明治・松田克也社長 「地球全体がウィン・ウィン」の関係に


どんなことでも「地球環境のために」と言う言葉に反対する人はいません。「地球環境」が主語となれば世の中は、よりよい方向に動いていくことになるでしょう。北翔農場、味の素、明治グループの取り組みもそうだと確信しています。
牛から排出されるN2Oについて、世界的に関心が高まっていますが、牛には全く責任はありません。そもそも牛乳は子牛を育てるためのものであって、それを良質なたんぱく質が摂取できるために我々、人間がいただいているのです。天の恵みです。ならば、生活の必需品の牛乳を「地球環境のために」の意識のもとで、持続的な酪農へと導くには科学の知見によって作っていくのが自然です。
味の素のアミノ酸に関する知見と、酪農家の皆さんとMDAによる良好な関係を築いてきた明治グループによってN2O削減の一助となればと思います。しかも今回は、J―クレジット制度を活用して経済活動にも昇華できました。これからも様々な酪農家の皆さんにお声をかけて、地球全体がウィン・ウィンの関係になれるようにしていきたいと考えています。
読者の皆さんにお願いしたいことがあります。日ごろ、牛乳を飲むときに少しでもいいですから、私たちの健康を支えてくれる牛、酪農家、生産者のことに思いをはせてくださればありがたいです。牛は365日、大切な乳を提供してくれています。酪農家の皆さんは24時間、牛の健康、衛生管理などに神経を尖(とが)らせています。消費者である皆さんが「地球環境のために」の意識をより一層持っていだだくことと、N2Oを削減した新たな価値のある牛乳がスピード感を持って広がることを期待します。

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