長崎県対馬市と一般社団法人ブルーオーシャン・イニシアチブ(BOI)は2023年10月20〜21日、対馬市内で「対馬未来会議2023」を開催した。漁業関係者など対馬で働く人や市の職員とBOIに加盟する大手企業やスタートアップの関係者、学識経験者ら約60人が参加。「2050年までに、対馬を世界最先端のサステナブル・アイランドにする。」ことを目標に、対馬が抱える3つの課題と未来に向けた解決策について議論した。会議の模様をリポートする。
参加企業と地元の関係者が3つのテーマを議論
未来会議は合宿形式で開催した。BOI側の参加者は20日までに対馬に到着し、同日午後に対馬沿岸にある漂着ごみや養殖場などを視察してから地元の民宿に分かれて宿泊した。翌21日は午前と午後に計6時間ほど漁港近くの施設で地元関係者との会議に参加。対馬が抱える「海洋プラスチック削減」「海洋資源保全と海業(うみぎょう)活性化」「海洋と気候変動対応」の3つのテーマについて、それぞれ6〜9人で構成する計8つのグループに分かれて解決するためのアイデアを話し合った。
21日の会議の冒頭で対馬市の比田勝尚喜市長は「対馬市民は23年5月に連携協定を締結したBOIの活動に注目している。いろんな方面の方々が一堂に会し、地元の関係者と対馬の視点に立って議論を進めてほしい。対馬から世界へと、未来の持続可能な社会の姿を示していただきたい」と期待を示した。これを受け、BOIの代島裕世代表理事は「25年の万博に向けた魅力ある会議にするための最初のタネをまいてほしい。皆さんのアイデアが融合して何かが生み出されることを期待している」と語った。
対馬特有の海洋環境を理解
最初は学識経験者2人が講演した。事業構想大学院大学の小宮信彦特任教授は、経営学の視点から対馬の課題を解決するイノベーションを起こす手法について紹介。「(対馬が)こうなったらいいなという『妄想』を出発点に『構想』してください。異質な人同士のアイデアを結合させて、新しいやり方をデザインしよう」と呼びかけた。
九州大学の清野聡子准教授は「(空から見た)地球規模の視点が役に立つ」と最新の衛星画像を見せながら、海面温度や海流、栄養分布などの対馬周辺の海洋環境を解説。「世界有数の経済成長地域にある東シナ海からの対馬暖流は栄養と共に海ゴミも運んでくる。対馬がキャッチしなかったごみは日本海から太平洋へと流れていく。対馬問題を考えるとき、白地図ではなく頭の中に海流のイメージを持つことで世界の中で我々が(課題解決を通じて)どういう責任を果たせるか明確になる」と助言した。
その後、参加メンバーは各グループに分かれて議論を開始。それぞれのグループテーマについて、各メンバーが気づいたことを粘着メモに書き込んでから、グループ内で順番に発表して意見を交換した。
記者も海洋プラスチック削減について話し合うグループの1つに参加してみた。市役所の幹部が「漂着ゴミを減らすには、海上を漂流するごみを回収する方法が最も効果的だ」と指摘したのに対し、「対馬のゴミを海上で回収・再生する様々な機器のショールームにしたらどうか」といった意見が出ていた。各グループはこうして出たアイデアが書かれた粘着メモを、「インパクトの大きさ」と「時間がかかるか」の2つの評価軸で縦横方向に位置づけした円状の用紙に貼り付けて議論を深めていった。
お互いのグループのアイデアにフィードバック
各グループのアイデア出しが一段落すると、昼食を挟んでグループの代表者がアイデアを他のグループメンバーに説明する約10分間の「ワールドカフェ」を2回実施した。代表者以外のメンバーは異なるテーマを話し合った他の2つのグループの説明を聞き、各アイデアへの感想や意見を付箋に書いて他グループにフィードバックしていた。
記者がヒアリングした海洋資源保全と海業活性化のグループでは、「養殖のエサにかかるコストは大きい。対馬で害獣として問題になっているシカなどの肉を活用してエサを活用すればいいのでは。海だけでなく山とも連携すれば、サステナブルな対馬にできる」といったアイデアが出ていた。次に向かった海洋と気候変動対応のグループでは、「漂着したプラごみを燃やして地域暖房に活用したい。発電の安定性を確保するため、島内に小水路発電を設置して組み合わせたらいい」などの意見が出ていた。
25年の大阪・関西万博で活動成果を発表へ
その後、各グループでフィードバックを参考にしながら、対馬の課題解決につながる2〜3の事業に絞ってアイデアを練り上げて所定の用紙にまとめ、全参加メンバーの前でプレゼンした。その後、個々のメンバーが実現させたいと考えるアイデアに投票した結果、海洋に関する実証実験に取り組む企業や研究機関を呼び込む特区を設け、実験で得たデータを広く共有するという「ブルーオーシャン・サイエンスパーク構想」のアイデアが最も多くの票を集めた。
BOIは対馬未来会議2023で出たアイデアを集約・整理したうえで会員企業などに提供し、11月に「アクションテーマ」を決定。アクションテーマを実行に移すチームに参加したい企業やメンバーを募集する。24年1月からチームごとに活動を開始し、同年10月の「対馬未来会議2024」で途中経過を発表する。25年4月からの大阪・関西万博にNPO法人ゼリ・ジャパンが出展する企業パビリオン「Blue Ocean Dome」で対馬における活動を発表し、優秀な事業は表彰する予定だ。