サバイバル経営Q&A

入社数年で若手が次々転職 歯止めをかけた中小の奇策 サバイバル経営Q&A 白井旬・職場のSDGs研究所代表

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SDGs(持続可能な開発目標)にデジタルトランスフォーメーション(DX)……。ビジネスの現場には次々課題が降ってくる。あなたの職場は持続可能ですか。今回は若手が次々と転職し、人員計画が成り立たないことに悩む経営者に、職場のSDGs研究所代表の白井旬氏が「失敗より成功体験」を与える育成法を助言します。

食品卸会社を経営しています。入社して数年の20歳代社員が次々転職することに頭を悩ませています。育成に力を入れており、どの人材にもしっかりとしたスキルを身につけさせていますが、力がついたあたりで次々転職していくので人員計画が成り立ちません。給与や福利厚生を大手企業並みに引き上げるのは困難ですし、ベテラン社員とのバランスも保てません。若手を定着させるには、どんな対処をすればよいでしょうか。

今、ほとんどの日本企業が、相談者と同じ悩みを抱えているといってよいでしょう。大学新卒については、ここ30年ほど、「入社3年以内に3割辞める」いう状態が続いています。厚生労働省の新卒の離職率調査(2021年10月22日公表)によると、18年卒の入社3年以内の離職率は、事業所規模30〜99人で39.1%、100〜499人は31.8%、500〜999人が28.9%、 1,000人以上 で24.7%となっています。小さい企業ほど離職率が高めですが、実は1000人以上の大企業も09年卒では20.5%でしたから、離職率がかなり高まっています。つまり新卒若手の定着は、企業規模にかかわらず課題になっているのです。

 

若手の離職は企業規模にかかわらず当たり前になっている

だから、もし相談者が会社が中小企業だから定着しないのだと考えているのであれば、認識を改めた方がよいです。リクルートワークス研究所が20年に実施した若手社会人向け調査の分析によると、大手企業を退職した29歳以下の若手のうち、20.3%は1000人未満の企業に、14.1%は300人未満の中小企業に転職していたとのこと。大手から中小やベンチャーへの転職を選ぶ若手が少なくないのです。したがって、若手を定着させるカギは大企業のような待遇だけではない。求めているものを把握して、職場で対応することが重要です。

では、なにが必要なのか。私が運営する沖縄人財クラスタ研究会が事務局を務める、「沖縄県人材育成企業認証制度」(沖縄県雇用政策課、慶應義塾大学SFC研究所・高橋俊介教授ほかと共同)の分類は現状把握の参考になると思います。この制度では、「働きやすさ」と「働きがい」を評価基準とし、以下の4つに分類しています。

◆人材育成企業(働きやすさ・高×働きがい・高)

「働きやすさ」だけでなく、従業員が「働きがい」を得ている企業。直近1年の成長(成長実感)や、今後の事業発展や自己成長を感じ、仕事への誇り(エンゲージメント)や会社への愛着(愛社精神)を感じている

◆人材輩出企業(働きやすさ・低×働きがい・高)

「働きがい」を十分に得つつ、従業員は自己成長により新たな世界へ出ることを志向。企業側も従業員の卒業(創業や転職など)を許容。その後も関係を維持し、「出戻りOK」という組織文化がある

◆人材滞留企業(働きやすさ・高×働きがい・低)

給与や福利厚生が充実し、肉体的・精神的負荷が少ないなど「働きやすさ」は高い。一方で、仕事における成長や充実が少なく、従業員が「働きがい」を得られていない企業。しかし、転職すると待遇が下がるなどの理由で、留まっている

◆人材流出企業(働きやすさ・低×働きがい・低)

従業員が「働きがい」を感じていないうえに、職場環境も整っておらず「働きやすさ」も得ていない。入社したものの転職したいと考える従業員が多くて定着が難しく、採用→離職→採用→離職のサイクルを繰り返している

若手の離職防止には成長を実感できる環境が不可欠

おわかりだと思いますが、相談者の会社は人材流出企業にあたる可能性が高い。働きがいと働きやすさそれぞれの課題を把握し、一つずつ解決しなければなりません。とりわけ、若手の離職防止を優先するなら重要なキーワードが2つあります。「成長実感と成長予感」と「不の解消マネジメント」です。

入社3年も経たずに離職する若手の場合、「成長実感」の不足が転職を選ぶ大きな要因の一つです。具体的には「上司や先輩に申し訳ない」「会社に居場所が見当たらない」といった感情。これは職場の人材育成のありかたや労働環境、人間関係が大きく影響しています。なにもかも整えるのは現実的には難しいかもしれませんが、若手が心理的な安全性を感じながら仕事に取り組める環境と、成長機会をしっかり与えているか、確認してみましょう。

仕事がうまくマネジメントできないのは経験が少ないのだから当たり前。先輩・上司の多くはそう受け止めがちですが、それがワナとなります。自信を失いかけた時に何の手も差し伸べなければ、若手は成長と将来へのイメージが描けない。だから、別の職場での挑戦を選ぶのです。

ここでカギとなるのが「不の解消マネジメント」。若手の「不理解(仕事の目的や内容の理解不足)」と先輩・上司の「不承認(承認や後押しの不足)」の解消です。

一つの例としてANA沖縄空港株式会社(那覇市)の取り組みを紹介しましょう。同社は新入社員(特に高卒社員)の定着に悩みを抱えており、解決策として新人一人一人にメンターとして先輩社員を指名する「エルダー制度」を導入。定着率を向上させました。

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