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「マクロス」河森氏の万博展示館 豊かな生態系を体験 日経SDGsフェス大阪関西 インタビュー特集

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開幕まであと1年余りに迫った2025年国際博覧会(大阪・関西万博)。中核事業のテーマ事業「いのちの輝きプロジェクト」では、各界で活躍する8人のプロデューサーが万博会場の中心に「シグネチャーパビリオン」を展開する計画だ。日本経済新聞社と日経BPは2024年2月14〜16日、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」の実現に向けて議論する「日経SDGsフェス大阪関西」を開催する。15日にはテーマ事業プロデューサーの1人、人気アニメ「マクロス」シリーズなどを手掛けた河森正治氏が登場。「自然の中に含まれて生きているという豊かな感覚を取り戻すパラダイムシフトが重要だ」という河森氏に、パビリオンの構想などについてインタビューした。

河森氏がライブ登壇 2024年2月14〜16日開催「日経SDGsフェス大阪関西」詳細はこちら

1970年の万博が「原点」

――大阪・関西万博の中核となるテーマ事業プロデューサーを務められています。

「小学5年の春休み、1970年の大阪万博に参加しました。入場ゲートをくぐったらすぐ一人で走り出して、3日間で8割以上の館を見たというくらい刺激を受けたんです。今から思うと『マクロス』シリーズに出てくる移民船団のデザインはアメリカ館そのもの。マクロスは地球が1度滅んだという設定なのですが、滅ぶ前の街並みを再現するテーマパークのような設計の仕方も完全に万博のようで、思った以上に影響を受けている。プロデューサーを務めているのは恩返しのような気持ちもあります」

「ただ、1970年代と時代が違う。当時はテクノロジーがいろいろなことを解決して、どんどん成長し発展していくという共通の目標があってわかりやすかったわけです。今は欲望としてはまだ成長、発展したいけれども、それでは生態系は成り立たなくなってきているし、持続可能性が求められるという難しい課題に直面している」

「同じ万博でもテーマ設定が違い、おもしろそうだと感じました。『エコロジー』『環境保護』というと、どこか我慢大会のようなイメージがありますが、そうも言っていられない時代になり、意識を転換する必要があると多くの人が感じていると思う。自分はエンターテインメントの仕事をしてきて、もう少し楽しくそこを突破できる手はないかと思っています」

――どんな方法が考えられますか。

「シグネチャーパビリオンのテーマは『いのちめぐる冒険』です。万博全体のテーマとして『いのち輝く未来社会のデザイン』と聞くと、今は輝いていないのかという印象を覚えるかもしれません。そうではなく、今輝いていることに気付く感受性が薄れてしまっているのではないかと。もし、今輝いていると気付ければ、それを損なう発想は出てこないと思うんです。我慢大会ではなく『そのほうが楽しい』に変わる。パビリオンでは自然とつながっているという感覚を取り戻し、豊かな自然を再発見できるような企画を練っています」

「そうした感受性が薄れていると思うようになったきっかけは、1980年代半ばに中国をめぐった一人旅です。当時テレビも電気もなかった内モンゴルにある町に行ったとき、子どもたちが衝撃を受けるほど元気で、目が輝いていた。一般にいわれる経済の豊かさと生き生きしていることは関係がない、下手したら逆比例しているんじゃないかと思いました」

ネパールのシェルパの感覚能力

――それから世界各地を見て回られていますね。

「アジアの奥地からアマゾンまで訪ねてみてだんだんわかってきたのは、現代文明のテクノロジーに接触すると短期的にはすごくおもしろい一方で、強い刺激を受けることで感受性、感覚能力が鈍ってしまうところがありそうだということです。ネパールでガイドしてくれたシェルパの人たちの視覚、聴覚があまりにも優れていた。草原の向こうを指さして羊がいると言われたのに、何も見えない。じーっと見ているとようやく点が見え、何千頭もいることが見えてくる」

「あるときはネパールのシェルパの人がV字の谷の向こうに向かって普通の声で突然話し始めた。相手は見えず、声も聞こえないのに、『今笑っているから』と言う。すごく悔しかったですよ。自分はものづくりをやっていて、アイデアの源泉となる世界を観察する力を鍛えてきたつもりなのに、彼らは自分よりはるかに豊かな世界を感じている。損して生きているんだ、もったいないと思いました」

「アフリカに行ったときに、生態系のサイクルを目の前で見たことも大きかった。例えばゾウがフンをして、フンを食べにくる虫がいて、その虫を食べにくる鳥がいて、種が運ばれて、ヤシが生えているというサイクルが全部見えるんです。現代社会は1つのサイクルがものすごく長く、遠くの国から輸入したものを食べて、ごみになって、分解されるサイクルの全体像が見えない。そうしたサイクルを肌身で感じることができるかどうかも重要だと思いましたね」

超高解像度映像やXR技術を駆使

――パビリオンの構想を教えてください。

「民俗学の文献などを調べても、どうやって感覚を磨いているかというメソッドはあまり紹介されていません。自分が現地で教えてもらった方法もありますが、日単位で時間がかかり、万博で体験できる時間軸に合わない。パビリオンでは、テクノロジーを駆使してデフォルメした体感映像などで豊かな感覚を喚起できるようにしたいと考えています」

「具体的には超高解像度の映像で地球の大気の流れや太陽の表面のコロナの動き、卵の中の成長など、普段は見えない、または見えているんだけどよく見えていないものを『観(み)られる』展示を準備しています。草花が枯れて微生物に分解されていく過程を実物と(コマ撮りした画像をつなげて動画として見せる)タイムラプスで見せる展示も予定しています。イマーシブ(没入型)の企画としては、現実と仮想空間を融合するクロスリアリティー(XR)の技術を使って、生物の体内や、原子の世界から宇宙までの壮大な流れを体感し、『命をめぐる冒険感』を得られるものも構想しています」

――2023年11月には企業との共同プロジェクトの第1弾も始まりました。

「生物情報のアプリ開発などを手掛けるバイオーム(京都市)のアプリを使って、身の回りの動植物を撮影してコレクションする『いのち繋(つな)がる!みゃくみゃくいきものクエスト』をスタートしています。万博に向けた『準備運動』としても、自然とのつながりを感じるきっかけにしてもらう狙いがあります」

「共同プロジェクトはパートナー企業と連携した取り組みになっています。万博のテーマ事業を通じ、産業界と一緒に大きな取り組みにしていきたいと考えています」

バーチャルワールドとリアルワールドの『ダブル社会』

――自然への配慮が求められる中で、テクノロジーはこれからどうなっていくと思われますか。

「テクノロジーは必要最小限で利用する方向に向かわざるをえないだろうなと思いますが、テクノロジーを否定したいわけではありません。従来型の経済成長に憧れる人間の心理はなかなか止められない。限りない経済成長や発展はバーチャルワールドで追及し、リアルワールドのほうは循環型で持続可能な社会とする『ダブル社会』になるとロスが少ないのではないかと想像しています。両方大事にできれば、何倍も楽しくなると思うんです」

(聞き手は若狭美緒)

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