ヒットの軌跡

『地球の歩き方』、逆風に逆張り 図鑑や国内編に拡張 地球の歩き方 コンテンツ事業部長 宮田崇氏(下)

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逆風下で強みと持ち味を再確認

編集部の本気度を印象づけたのは、22年2月に刊行した『地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方』だろう。「ムー」特有の怪しげなムードと、『地球の歩き方』ならではの信頼感が混じり合って、読み物の新カテゴリーが生まれた。

異色の取り合わせという話題性の高さもあって、「売り出してから3カ月で10万部を超えた」(宮田氏)という、異例のヒットを記録。超常現象や怪奇伝説の専門誌「月刊ムー」とコラボレートしながらも、『地球の歩き方』の流儀を守って、ガイドブックの異世界に読み手をいざなった。

この頃までにSNS(交流サイト)やネットメディアでは、『地球の歩き方』の生き残りを懸けた取り組みを応援する声が広がっていた。すぐに旅行に行く予定はないし、行ける状況にもない。でも、これまで旅の伴走者だった『地球の歩き方』を、今度は自分が支えるといった「応援買い」が少なくなかったという。

コロナ禍にあっては、飲食店の窮地を常連が救った。「いつか来るから」と代金を先払いしたり、朝営業に通ったり。「消えてもらっては、こっちが困る」と考える常連客の心理は『地球の歩き方』の読み手に通じるところがあっただろう。

バリエーションを増やしたのは、『地球の歩き方』だけではない。女性向けガイドブックの『地球の歩き方 aruco』シリーズも国内版を出した。新シリーズの『aruco東京で楽しむ海外』では、海外に出掛けられない状況でも、東京都内で現地の気分を疑似体験できる飲食店やスポットを集めた。

「海外に行けなくなった状況を逆手に取って、東京で味わえる現地感を押し出した」(宮田氏)。台湾、フランス、ハワイ、イタリア&スペイン、英国などを刊行。こちらも読み手の幅を広げた。

よその旅行ガイドブックではこれほど大胆に打って出る戦略を選んだケースは見当たらない。身をすくめて3年間が過ぎるのを待ったようにみえる。なぜ、『地球の歩き方』は看板商品を封じられた中、深掘りや横展開に挑めたのか。宮田氏は「長年の読み手との結びつきが新たなチャレンジを支えてくれた」と振り返る。

もともと体験記から始まっているだけに、投稿や情報提供の形で双方向メディアの性格を帯びていた。「今でも長文の体験記を届けてくる人がいる」という。そうした「常連客」がポジティブな生き残り策を購入という形で応援した可能性は高そうだ。彼らの好奇心をくすぐるテーマや切り口を用意した編集部の創意が一種のファンマーケティングを成り立たせたと映る。

旅行の計画を立ててから、ガイドブックを買うという、これまでの購買パターンとは異なる「『地球の歩き方』との付き合い方」を広めたことは、旅行需要が戻ってからもビジネスを支える柱になると期待される。旅行予定に左右されない「読む旅人」のカルチャーを育てた意味は大きい。『地球の歩き方』ブランドのさらなる立体展開にもつながる可能性がある。

ブランド名をそのまま冠した事業会社にまとまった結果、ビジネスのかじ取りを進めやすくなったのも、コロナ禍の前向きな「落とし物」だ。たとえば、ウェブサイトの活用はその一例。「ウェブと紙媒体との連動を進めている。公式サイトもリニューアルした」(宮田氏)。以前に比べ、掲載される情報に厚みが加わり、ライターからのタイムリーな投稿も増える流れにある。2〜3年に1度という改訂ペースを補ううえで、ネット媒体の価値は大きい。

小さめの文字でぎっちり詰め込んでも、あれだけのページ数になってしまうほど、情報と情熱を注ぎ込むスタイルは編集者と書き手の熱量を伝えてきた。「役に立った」「助けられた」という読み手の実感が重なって、ブランドに信頼感が備わった。その幸福な結びつきは、全く別のテーマであっても、「きっと期待を裏切らないはず」という気持ちでの購入を誘った。再び旅路が開かれ始めた今、3年間で強みと持ち味を再確認した『地球の歩き方』の足取りは一段と頼もしさを増して見える。

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