旅行ガイドブック『地球の歩き方』(販売はGakken)の各国・地域版は新型コロナウイルス禍でダメージを受けた出版物の代表格だろう。海外旅行が難しくなり、旅行ガイドの需要も蒸発した。しかし、編集部は逆風下で積極策に出て、業績回復を呼び込んだ。約3年間に及んだ「氷河期」に耐え、図鑑タイプや国内編へと、逆に品ぞろえを広げた取り組みは、ピンチに立ち向かう企業のお手本とも映る。編集部が見せた「危急のしのぎ方」をたどってみよう。(前回記事「『地球の歩き方』が歩む異形の旅路 貫く読者ファースト」)
久しぶりとなる改訂版の刊行が2022年夏から相次いでいる。コロナ禍の3年間に海外旅行を取り巻く事情は様変わり。日本円は為替レートのせいで海外では弱くなった。円安は旅人の懐を冷え込ませる。「改訂版では円安に負けない食事や買い物のプランを盛り込んだ」と、株式会社地球の歩き方(東京・品川)の宮田崇・コンテンツ事業部長は改訂版での工夫ポイントを挙げる。実際、『地球の歩き方 タイ2024年〜2025年版』には屋台や食堂のお手頃な庶民食のデータが増量されている。
緊急事態宣言で存続の危機に
20年4月に緊急事態宣言が出た後、『地球の歩き方』は存続の危機を迎えた。主な販路だった書店が閉じて、売り上げがダウン。さらに、各種の制限に阻まれて、取材に出ることも難しくなった。看板商品を作ることも売ることもできなくなって、売り上げは「それまでのほぼ9割減にまで落ち込んだ」(宮田氏)。
当時は「週刊ダイヤモンド」を発行するダイヤモンド社の子会社、ダイヤモンド・ビッグ社が『地球の歩き方』の発行元だった。だが、ダイヤモンド・ビッグ社の「地球の歩き方」事業は21年に学研グループへ事業譲渡。タイトルと同じ名前を持つ新会社が新たな発行元になった。コロナ禍のさなかに発行元が変わるという二重の波乱だったが、宮田氏は「『地球の歩き方』を残したいという関係者の気持ちで成り立った事業譲渡。出版人の心意気を感じた」と振り返る。
だが、学研グループは「死に体」の旅行ガイドブック事業を慈善事業的に買ったわけではない。編集部が始めた新たな試みは、ビジネスが広がる可能性を秘めていた。まず20年7月に、「旅の図鑑」シリーズの第1弾となった『世界244の国と地域 197カ国と47地域を旅の雑学とともに解説』を発売。続いて、初の国内版として『地球の歩き方 東京』の21-22年版を世に出した。海外旅行ガイドブックの枠を超える、一連の取り組みは業績回復につながる、最初のシーズ(種)となった。