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メンター・雑談…テレワークでも新人が育つ4つの環境 実践オンボーディング(上) ビジネスリサーチラボ代表 伊達洋駆

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4月から新しい社員が加わる企業も多いかと思います。新人は新しい環境に適応しなければならず、そうした適応プロセスを「オンボーディング」と呼びます。オンボーディングは人事の世界で近年、注目を集めている考え方の一つです。新型コロナウイルス感染症の影響でオフィスに集まることが難しくなり、テレワークが増えました。テレワーク環境で新人を受け入れる企業もあるでしょう。本稿では、テレワークにおけるオンボーディングの方法について解説します。

テレワーク下のオンボーディングは過酷

オンボーディングは対面の場合(オフィスで新人を受け入れる場合)と、テレワークの場合とで事情が異なります。テレワークにおいて新人は、同僚や先輩(中途入社の場合は後輩も含まれます)、上司と離れて働くことになります。

残念ながら、テレワーク下のオンボーディングは、新人にとって過酷であることがわかっています。というのも、テレワークにおいて新人は周囲から孤立しやすく、適応に必要な学びが進みにくいからです(※1) 。

例えば、新人が出席するウェブ会議の中で、カメラをオフにしている同僚。オフィスとは異なり、偶然、誰かと出くわすことのない環境。こうしたものが積み重なって、新人は孤立感を覚えます。

また、新人は仕事を進める際に必要な文書の保存場所が分からず、苦労します。普段なら隣席の先輩に一言聞けば済む話も、テレワークでは難しくなります。

そもそもテレワークが本格的に導入される前は、口頭で確認しながら仕事を行っていました。仕事に関する文書が整備されていない企業も少なくありません。新人は働く上で必要な情報が得にくい状態にあります。

裏を返せば、対面下のオンボーディングでは、新人の学びが意識しないうちに自然発生していたと言えます。テレワーク下では、よほど意識しない限り学びが起きにくく、企業側にも新人側にも能動的な働きかけが求められます(※2) 。

テレワークのオンボーディング方法

過酷な環境にある、テレワーク下のオンボーディング。何をすればオンボーディングが円滑に進むのでしょうか。ここでは、4つの対策を紹介します(※3) 。

①メンターをつける

新人にメンターをつけましょう。文書になっていない情報をメンターから新人に伝えることができます。すべての内容を文書に落とせない以上、メンターの存在は大きなものとなります。

テレワーク下の新人にとって難易度が高いのは、人間関係の構築です。人と人は対面で言葉以外の情報(身ぶり手ぶり、視線など)をやりとりすることで親密になりますが、テレワークでは、そうはいきません。

こうした状況に対して、企業側がメンターを割り当てることで、新人の相談相手が決まっている状況になります。困ったときに誰に話をすればよいのかが分かっていると、新人は非常に助かるでしょう。

通常、メンターと言うと、異なる部署の先輩が務めることが多いかもしれません。しかし、テレワーク下では同じ部署の先輩が担うのがおすすめです。仕事に関する具体的な情報をもらえるからです。

②非公式のコミュニケーション

仕事の指示や助言以外のコミュニケーションを、新人との間で交わしましょう。既に述べた通り、仕事の情報は確かに大事です。しかし、仕事以外の話をすることで、新人は職場のメンバーと仲良くなることができます。

自然に会話が生まれる対面とは異なり、テレワークにおいて、新人は周囲との関係を構築しにくいものです。新人は仕事の情報を職場メンバーから受け取るため、非公式コミュニケーションを通じて、新人の関係構築を支援しましょう。

例えば、新人と職場メンバーが15分ずつ、1対1で話をする時間を設定するなどの方法があります。堅苦しい話をする必要はありません。とにかく話をすることが大事です。一度でも話をしたことがあれば、仕事の中で声がけをしやすくなります。

③ツールの利用

テレワークにおけるコミュニケーションを豊かなものにするには、様々なツールを用いなければなりません。テレワークの導入に伴ってテクノロジーは大きく進展しています。

チャット、ウェブ会議、メール、電話など、さまざまな方法で新人に話しかけ、情報を提供しましょう。積極的にツールを利用することで、新人とのやりとりが増えます。オンボーディングに必要な情報が行き渡ることでしょう。

ツールの使い分けに際しては、すり合わせがどの程度必要かを基準にすると良いでしょう。やりとりを通じた調整が必要な場合、ウェブ会議や電話など、言葉以外の情報を受け取りやすいツールを用いるのが効果的です。逆に、すり合わせの必要がない情報伝達においては、チャットやメールを活用しましょう。

④職場メンバーの可視化

新人のオンボーディングは、新人に対する直接的な情報の提供だけで進むわけではありません。「観察学習」と言って、新人は職場メンバーの働きぶりを見て、そこから学びを得ています。

ところが、テレワークは新人の観察学習を難しくします。職場メンバーの働く様子が見えないからです。テレワーク下のオンボーディングを促すためには、職場メンバーを新人に「可視化」しなければなりません。

例えば、資料を作成する際に変更履歴をつけて、新人にも作成プロセスをイメージできるようにするといった方法があります。

他にも、新人以外のメンバーが、その日の仕事の進捗を職場メンバーに報告するのも有効でしょう。その際、どのような仕事をどのように進めたかだけではなく、仕事をするにあたって大事にした点もあわせて報告すると、新人にとって学びになります。

以上、本稿では、テレワーク下のオンボーディングを円滑にするための方法を紹介しました。テレワークの中で新人を受け入れる職場の方に、本稿で扱った内容が参考になると幸いです。

伊達洋駆(だて・ようく) 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、11年にビジネスリサーチラボを創業。HR領域を中心に調査・コンサルティング事業を展開し、研究知と実践知の両方を活用したサービス「アカデミックリサーチ」を提供。13年から採用学研究所の所長、17年から日本採用力検定協会理事。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(共著、ソシム)、『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)など

(※1) Rodeghero, P., Zimmermann, T., Houck, B., and Ford, D. (2020). Please turn your cameras on: Remote onboarding of software developers during a pandemic. arXiv preprint arXiv:2011.08130.

(※2) Ahuja, M. K. and Galvin, J. E. (2003). Socialization in virtual groups. Journal of Management, 29(2), 161-185.

(※3) Ergun, E. E. (2021). Remote work and organizational socialization in the era of Covid-19. Journal of Organizational Psychology and Behavior, 2(1), 1-8.

Hemphill, L. and Begel, A. (2011). Not seen and not heard: Onboarding challenges in newly virtual teams. Technical Report Tech Report MSR-TR-2011-136.

URL:https://www.microsoft.com/en-us/research/publication/not-seen-and-not-heard/

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