日本酒やトマト 異業種向け投資
北海道の日本酒、千葉のトマト、鹿児島の木材――三菱地所が出資している地方の投資先の一例だ。東京・丸の内の大家と呼ばれる同社が一見、畑違いに思える地方の異業種に投資するのはなぜか。
鹿児島県湧水町の県立高校跡地でメックインダストリーという会社の木材工場の建設が進んでいる。三菱地所が建築用木材の生産、流通、施工、販売に関連する6社と設立した新しい形の木材事業体だ。
生産から販売まで一貫して手掛けることで中間コストを減らせるほか、販売先が決まってから伐採するため、森林資源を有効活用できる。使う木材は主に南九州産で、地域の林業の安定や森林の持続可能な管理といったSDGsにもかなう。
千葉市の郊外では、農業ベンチャーと設立したメックアグリという会社が高糖度のミニトマトの栽培を始めた。太陽光発電を利用したハウスで育てるフルーツのように甘いミニトマトだ。1年を通じて丸の内のレストランなどに提供しており、訪日客が戻れば、東京を訪れる外国人をひき付ける甘い魅力となろう。日本各地の魅力を東京から世界に発信するという新拠点「トウキョウトーチ」の理念は広がりをみせる。
北海道上川町では酒造会社に出資した。三菱地所は北海道内の7空港の運営に参画しており、道内周遊の拠点の一つに酒蔵を位置づける。
いずれも当然、本業に生かすために必要な出資だ。しかし、それぞれの産品に磨きをかけていくことは、地域の魅力を高めることにもつながる。
新型コロナウイルス下で脚光を浴びるワーケーションも、地域に根ざす姿勢に特徴がある。和歌山県の南紀白浜や長野県の軽井沢では、合宿形式で集中して仕事をしながら、空いた時間で地域に出て人間関係や取引関係で新たな展開に結びつけている。
東京と地方にウィンウィンの関係をつくり出すのが三菱地所流の地方創生だ。それは人口減少が進む地方の持続可能性を高め、住み続けられる街づくりをめざすSDGsの実現に貢献しよう。
(編集委員 斉藤徹弥)
私は北九州で生まれ、下関、名古屋で育ちました。地方は都市ごとに豊かな歴史や伝統文化が残り、四季折々の食や自然にあふれています。地方と手を取り合い、オールジャパンで日本の魅力を東京から世界に発信していきたい。このハブのような役割にこそ、私たちが地方創生に取り組む意義があると考えています。
地方と連携すれば東京の魅力も増します。その果実を地方と分け合うことで、地方も新たな魅力を伸ばしていけるでしょう。東京は「ウィズ地方」、地方は「ウィズ東京」。この連携から新しい付加価値を創りだし、東京と地方の持続可能性をともに高めていきます。
都会と地方の連携の重要性を実感したのが赴任先の札幌でした。転勤や出張で訪れた人が口コミで北海道の魅力を各地に伝えていました。東京でも旬のサンマを刺し身で味わえないか――。そんなニーズの高まりが、鮮度を保つ輸送技術を育て、東京はもちろん、今ではシンガポールでもサンマを刺し身で味わえるようになりました。東京や海外の人が求めるものを地方に伝えていきます。
地方のまちづくりでは、その地域の歴史や伝統、食文化などから将来伸びそうなものを見極め、それにチャレンジする人がほかの地域や海外から入ってくる仕掛けが必要だと考えています。北海道では酒造会社に出資しました。こうした形をもっと増やしていきます。
大事にしたいのは、地域の人に受け入れられるものを手掛けていくことです。それを大切にしながら、まだ地域の方は気づいていないけれども、新しい魅力として伸ばしていけるというものを見いだしていきたい。これが私たちの考える地方創生の姿です。