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テレワークで心身不調も 体調保つ生活習慣とは? 健康経営の新時代(2)健康企業代表・医師 亀田高志

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日経BizGate読者の皆さんは、頻度の違いはあっても在宅勤務を中心とするテレワークをしている場合が多いと思いますが、いつ頃から、あるいはどれくらいの頻度で在宅勤務をされているでしょうか。

テレワークは30年以上前から欧米企業では当たり前の働き方であり、実は私自身もテレワーク歴は20年を超えています。一方で、日本ではあまり進展が見られず、2017年以降に始まった働き方改革の中で、テレワークは、時間や空間の制約にとらわれず、子育て、介護と仕事の両立の手段となるとして、普及が図られてきました。

ところが、新型コロナウイルス禍が始まった2020年春の緊急事態宣言以降、テレワークの導入がいや応なく急速に進みました。様々な問題が指摘され、厚生労働省が「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を公表し、具体的な対策の啓発も少しずつ進んでいます。一方でテレワークには通勤にかかる費用と共に、フリーアドレス制の導入と並行してオフィス等にかかるコストの大幅な削減ができる利点があります。優秀な人材の確保、リテンションのためにも、テレワークはさらに進んでいくことでしょう。

テレワークで損ないやすい心身の健康

皆さんは在宅勤務を好ましいと考えていますか。あるいは職場に出勤した方がよいと感じているでしょうか。在宅勤務だけでよいという人から在宅勤務をしたくない人まで、その受け止め方は分かれます。しかし、好ましいと感じている人であっても、テレワークによって健康を損なう可能性があります。

職場に通勤する手間と時間が削減できたと喜ぶ人がいますが、その分の身体的な負荷が消失します。通勤時間が長かった人ほど、運動を心掛けていない人ほど、その影響は大きくなります。混雑する電車やバスに乗る、駅等の階段の上り下りといった動作は身体を動かすことに他なりません。人とぶつからないように無意識に気を付けたり、人の波に合わせて歩くこともトレーニングのようなものです。テレワークの頻度が多いほど、その分のカロリーの消費ができなくなります。

在宅勤務では作業時間中はずっと座ったままですが、この状態が長いほど、肥満を助長し、糖尿病の傾向が出やすくなります。動脈硬化が進み、脳卒中や狭心症、心筋梗塞といった病気のリスクが高まることも注意が必要です。

一方で単身で暮らしている場合に上司、部下、同僚との画面越しのやり取り以外に、食材や日曜日の買い出しの他には、他の人との接点が消失してしまうこともあります。テレワークを嫌う人は職場の仲間との接点が無くなることを理由とする場合があります。人間という生き物にとって、孤立と孤独は耐え難く、テレワークをきっかけとして、いわゆるメンタルヘルス不調に陥る可能性もあります。家族と同居している場合でも、テレワークにより共に過ごす時間が増えることで諍(いさか)いになり、夫婦関係や親子の間柄が悪化することがあります。そもそもテレワークを始めたばかりの人にとっては、ある種の転勤のようなものですから、不適応を起こすケースもあり得ます。

テレワーク中のウェルビーイングを高めることに重きを置く

以上のような問題を防ぎ、長期的に身体的、精神的、そして社会的なウェルビーイングを保つ為には、テレワークという新しい働き方や在宅勤務という新しい環境に適応していく必要があります。そのためには、これまでの物事の見方とマインドセットを切り替えて、行動を変え、習慣化していく必要があります。

近年、定期健康診断の結果に基づく保健指導について、行動経済学の知見を活用する動きがあります。肘でツンツンと小突くことを意味する「ナッジ」という言葉を用いて、大きなご褒美をぶら下げなくとも適切な生活習慣への自発的な行動変容を促そうとする活動です。

身体的な側面では、元気だと感じる、生き生きしている、体調がよいといった自覚があるかが指標になり、小さなご褒美になります。それを把握するには食べ物がおいしいとか、よく眠れることができて目覚めが良いといった点が大切です。在宅勤務では食事、飲酒、入浴、歯磨きが遅い時間にズレていきやすいものです。その場合には、朝ご飯が食べられないとか、熟眠感が乏しい目覚めとなっていきます。アルコールは寝つきを良くしてくれることがありますが、睡眠の質と量を減らして、疲労回復を妨げます。単身でも、同居家族がいても、こうした基本的な事柄を押さえつつ良好な生活習慣を送ることをルーチンにしていくのです。

自分へのご褒美としては形になる物である必要はなく、活力があるという自覚や体調の良さであり、これらを日々、記録していくだけで済みます。例えば10点が最高、1点が最低として日々点数化して記録していくことができます。メタボリックシンドロームの防止とか、お腹周りを絞ることを意識するより、日々の元気の自覚をモニタリングした方がウェルビーイングを高めやすいと思います。同時に特にシニアで問題となる動脈硬化による脳卒中や狭心症、心筋梗塞あるいは腰痛といった問題も防止できる可能性が高まります。

在宅勤務ならではのコンディションを保つ工夫

自宅の中で立ったままでもPCを操作できる環境を整えることもお勧めです。オンラインでのミーティングでも、立位で参加することができます。ヨーロッパでは立った高さにも調整できるデスクが使われてきましたが、国内ではまだ高価です。PCを落下させることがないよう注意しながら、自宅のデスクに安価な折り畳み式のテーブルを組み合わせることが可能です。通勤で電車やバスで揺られる代わりに、一定の時間、立ち続けることは、身体的な負荷になりますし、眠気を防ぎ、発言する際に声を出しやすいメリットもあります。

海外の眼科医等は「20-20-20ルール」といって、眼の疲労を防ぐために、20分おきに20秒間、20フィート先、メートル換算で6メートル先を眺める小休止を取るよう勧めています。作業中であれば20分から30分毎にアラームを鳴らすなどして、合間に座位とは異なる姿勢を定期的にとり、ストレッチや伸びをするなどの対応ができます。

その他に取り入れたい習慣としては、交通事故に気を付けながら、仕事の合間や朝夕に日々30分を目安にウオーキングやゆっくりしたペースでジョギングを行うこと、家事や庭仕事を運動や訓練と捉えて積極的に工夫しながら行うこと、スマートフォンやタブレット、PCといったデジタル機器の使用時間を睡眠のサイクルに影響がないように設定していくこと、朝は体内時計をリセットするために日光を浴びるよう庭仕事、清掃やごみ捨てを行うこと、就寝前には照明を落としつつ読書してリラックスするよう心掛けることなどができます。

次回は在宅勤務における精神的な側面、社会的な側面のウェルビーイングを保つ工夫をご紹介したいと思います。

亀田 高志(かめだ・たかし)
労働衛生コンサルタント、日本内科学会認定内科医、日本医師会認定産業医
 1991年産業医科大学医学部卒。職場のメンタルヘルス対策、高年齢労働に伴う安全衛生・健康管理及び感染症を含む危機管理対策を専門とし、企業や自治体、人事担当者や専門家向けにコンサルティングと教育・啓発を手掛ける。福岡産業保健総合支援センター産業保健相談員、国際EAP協会日本支部理事、日本産業衛生学会エイジマネジメント研究会世話人を務める。社会保険労務士がメンタルヘルス対策等を学ぶ「健康企業推進研究会」を主宰する。
 著書は『管理職ガイド〜はじめてでも分かる若手のトリセツ(令和のZ世代を受け入れ、育て、問題に対処するポイント)』(労働開発研究会)、『第2版 管理職のためのメンタルヘルス・マネジメント』(労務行政)、『改訂版 人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援』(同)、『【図解】新型コロナウイルス メンタルヘルス対策』(エクスナレッジ)、『課題ごとに解決!健康経営マニュアル』(日本法令)、『社労士がすぐに使える!メンタルヘルス実務対応の知識とスキル』(同)等。

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