NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム

ニッスイ、積み重ねた養殖技術への誇り 水産資源を守り未来につなげる

PR
イノベーション 飲食 海洋保全

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

ニッスイは、2022年4月に長期ビジョンを発表し、中期経営計画に着手、同年12月には社名を変え、新たな成長に向けてスタートを切った。ミッションに掲げる「新しい"食"の創造」の実現のひとつとして、養殖技術開発に力を入れる。ニッスイが目指す持続的な水産業の未来とは。中央研究所大分海洋研究センターの取り組みを追った。

天然資源への負荷を低減する サステナブルな養殖技術

ニッスイは、2022年4月にミッション(存在意義)を「海で培ったモノづくりの心と未知を切り拓く力で、健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい"食"(Innovative Food Solutions)を創造していく」と定義した。時代や環境の変化に応じて"食"の新たな可能性を追求し、社会課題を解決していくことがグループの使命であると宣言した。

環境負荷を抑えて高品質な養殖魚を持続的かつ安定して出荷するには、養殖技術を高めることが欠かせない。

ニッスイが養殖事業の研究開発を担う中央研究所大分海洋研究センターを設置したのは、1993年のことだ。大分県佐伯市にあるこの研究所では、現在、養殖に関する基礎研究から事業化に向けた応用研究まで、約30人の研究員と支援員がそれぞれの研究分野に取り組んでいる。

人工種苗・育種技術の高度化により 年間を通じて高品質ブリを提供

大分海洋研究センター研究員の山下量平氏は、現在ブリ養殖の中心メンバーとして基礎研究から事業化に向けた応用研究までを担っている。

ニッスイのブリ養殖の歴史は、04年にブリの養殖会社を事業譲受して黒瀬水産を設立したことから始まった。翌05年には、大分海洋研究センターで親魚から採卵し、受精卵から一貫して人の手で管理するブリの人工種苗の開発に着手した。一般的なブリの養殖では、「モジャコ」と呼ばれる天然の稚魚を取り、大きく育ててから出荷しているが、産卵後成熟後期の夏以降にブリがやせてしまい、周年にわたって品質の良いブリを生産するのは困難だった。そこで、ブリの産卵時期は年1回だが、任意の時期に産卵させることができれば、周年を通して安定したサイズ・品質のブリができると考え、成熟誘導技術の開発を進めた。

この任意の時期に産卵をさせる成熟誘導技術と、育種による優れた特性を持つブリを選別し次世代につなげることの組み合わせで、1年を通して育成のスピードが速く高品質のブリの出荷が可能となった。22年度には、黒瀬水産が出荷する「黒瀬ぶり」の全量が人工種苗によるものとなり、23年には年間200万尾の出荷を目指している。

山下氏は「長年蓄積してきた高度な養殖の知見・技術によって、高度な養殖が実現するとともに、成熟誘導や種苗生産技術の開発により時期をずらしながら種苗を生産することで、完全養殖ブリの周年出荷が実現しました。世界を見てもこの養殖技術はニッスイの強みだといえます」と話す。

ただ、生き物が相手なだけに、研究は困難の連続だ。現在は完全養殖を始めてから5世代目の育成を進めているが、養殖環境下で遺伝的な多様性を確保しながら改良を続けているという。

「人工種苗100%の完全養殖を実現したことで、現在では年5回、時期をずらしながら種苗を生産できるようになりました。今後は成長性や安定した品質はもちろん、環境負荷の軽減も考えていかなくてはなりません」と山下氏は話す。その解決のために、飼料や魚の性質の改良を進め、環境負荷を低減する研究にも取り組んでいる。

選抜育種と人工種苗の技術を磨いたことで、高品質なブリを夏場でも出荷できる強みにもなった。差別化した安定供給できる商品を増やしていくことは、水産市況の変動の影響を低減して、収益の安定化にもつながっている。

養殖技術を拡大し 新しい"食"の創造に貢献

ニッスイは養殖事業の拡大を長期ビジョン・中計の成長戦略のひとつに位置づけており、国内ではブリ以外にはギンザケの養殖にも注力している。ギンザケの場合は、淡水で約1年稚魚を育成してから、生育に適した海水温になった時期に海上のいけすに収容し、半年間飼育してから出荷される。大分海洋研究センターでは、ギンザケの稚魚が早く海水に適応できるようにする研究などにも取り組んでいる。

また、ニッスイでは近年注目度が高まっている陸上養殖にも着手しており、20年に地下海水を利用したマサバの陸上循環養殖の実証実験を開始している。23年4月には「閉鎖式バイオフロック法」を用いたバナメイエビの陸上養殖を事業化した。

世界的には人口増加や健康志向の高まりなどを受け、水産物の需要は右肩上がりに増加しているが、漁獲量自体は増えておらず、その増加分を補っているのが養殖だ。日本はかつて水産大国といわれ、長年天然の水産物の恩恵を受けてきたが、近年縮小する漁業生産を補う養殖の重要度は高まっている。

水産資源の枯渇や持続可能性への懸念が指摘されるなか、効果的な漁業管理など適切な処置による漁業資源の維持や再生が重要になっている。食の安全や環境負荷の低減などの観点からも、ニッスイが養殖の研究開発を続ける意義は大きい。

「ニッスイが取り組む以上、高いレベルの品質を維持して安全・安心を提供しないといけない。新しい"食"を創造するために研究開発を重視する方針を会社として守り続けているからこそ、今の養殖事業があります。養殖の研究は私にとってライフワークであり、人生を懸けて取り組むことにやりがいを感じています」と山下氏は語った。

【日経からのお知らせ】NIKKEIブルーオーシャン・フォーラム
海の環境を守り、その資源を正しく利活用する方策や仕組みを考え、内外に発信していく目的で、日本経済新聞社と日経BPはNIKKEIブルーオーシャン・フォーラムを設立しました。海洋に関連する多様な領域の専門家や企業の代表らによる有識者委員会を年4回のペースで開き、幅広い視点から議論を深めて「海洋保全に関する日本からの提言」を作成します。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

イノベーション 飲食 海洋保全

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。