経済各誌で恒例の新年予想特集号が出そろった。国際的にはウクライナ侵攻などの地政学リスクや米欧経済の景気後退リスクを抱え、国内も日銀の金融緩和修正や相次ぐ値上げなどで先行きの見通しはますます捉えにくくなっている。経済4誌の予測をまとめた。
【日経ビジネス】
「徹底予測2023」の10大トピックスは(1)コロナ対策見直し(2)ウクライナ侵攻の行方(3)値上げラッシュ(4)企業の人的資本開示義務(5)自動運転「レベル4」解禁(特定の条件下で完全自動化)(6)次期日銀総裁と金融緩和の行方(7)広島サミット(主要7カ国首脳会議)開催(8)オイルショック50年(9)インボイス制度開始(10)米大統領選まで1年――を挙げている。
国際政治学者のイアン・ブレマー氏はインタビューで、米中間の分断が進み非常に不安定な1年になると語る。ただ「台湾有事」の可能性は低いというのが同誌の見立てだ。仮に武力侵攻が起きれば、台湾積体電路製造(TSMC)の拠点が破壊されかねないからだという。
東京財団政策研究所の柯隆(か・りゅう)主席研究員は、中国国内だけでなく海外の中国人を含めた「グレーター中華圏」に注目する。各企業とも経済安全保障の観点から中国本土離れが進む一方、巨大市場としての中国は無視できない。ミクロ経済で注目されるのは自動車業界。現時点では「クルマを造れば売れる」ほど需要が旺盛なものの、インフレに起因する米国景気の変調が不安材料だ。引き続き半導体需給に翻弄される恐れも残る。電気自動車(EV)をキーワードに、完成車・部品メーカーともに異業種を巻き込んだ合従連衡が一層進むと指摘する。
【週刊東洋経済】
「2023年大予測」の国内エコノミスト17人による景気予測アンケートでは、22年度の実質国内総生産(GDP)成長率予測が1.4~1.9%と厳しい。ウクライナ侵攻に起因するエネルギー価格の高騰や中国のゼロコロナ政策による供給制約が、日本経済に波及しているとの分析だ。さらに23年度は0.5~1.5%と一層の成長鈍化を予想する。民間住宅投資は引き続き低調で、民間最終消費支出も伸びない。けん引役となるはずの企業設備投資も、世界景気後退の見方から力強さに欠けるとしている。23年の春闘賃上げ率は2.75%と高めに予想するものの、効果は限定的とみる。
一方、23年度の為替水準は1ドル=132円との予想だ。同年度の日経平均株価は上値が3万円を超えると予想したエコノミストは9人。ただ、日経平均は2万6000円~3万円が最も重なるレンジだった。同誌はスティグリッツ・米コロンビア大教授へのインタビューも掲載。同教授は「コロナ禍以前の世界に完全に戻ることは無く、米連邦準備理事会(FRB)の過度の利上げは世界金融危機を招きかねない」と警鐘を鳴らす。
【週刊ダイヤモンド】
「2023総予測」では「日本企業の8大テーマ」が注目記事だ。(1)国策半導体のプロジェクトは米国の支援と公的な資金調達がカギ(2)防衛予算大幅増加も企業の軍事産業撤退は続く(3)コンビニ業界にも価格競争が波及(4)メガバンクに問われる「企業再生」の手腕(5)ゼネコン業界に選別受注の機運(6)国産の量子コンピューター開始(7)電気代値上げでも新電力業界に試練(8)半導体業界に追い風――の8テーマだ。
同誌は来春の日銀総裁人事も詳しく分析した。大本命は雨宮正佳・現副総裁、本命に中曽宏・大和総研理事長(元副総裁)、続いて浅川雅嗣・アジア開発銀行総裁(元財務省財務官)……。誰が就任しても円安と長期金利上昇の両方を同時に対処する難局に直面するとみる。一方で初の女性副総裁誕生の可能性が高いとしている。エコノミスト11人が予測する23年の実質経済成長率は0.4~2.2%、24年は0.6~2.0%だった。
【週刊エコノミスト】
「日本経済総予測2023」は金融・調査機関30社へのアンケート結果を軸に構成する。「2023年中に起きる可能性が高いこと」では「電車やオフィスでマスクを着用しない人がする人を上回る」を20社が予想し、「日経平均株価が3万円を突破」「30年冬季五輪が札幌ではない場所に決定」「岸田首相の辞任」などが続いた。
同誌は実質GDP成長率について22年が平均1.5%、23年は同1.3%と予想した。日経平均株価(回答25社)は平均で23年上期の上値が3万円弱、下期が3万円突破と年末に向けて右肩上がりの見通しだった。為替(同27社)は上期の上値が1ドル=148円、下期の上値が同142円と150円を上回る円安は一巡するとの見方が多かった。
日本経済のけん引役としてはグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)と並んでインバウンド需要復活を挙げる。星野佳路・星野リゾート代表のインタビュー記事を掲載した。星野代表は欧米豪からの集客が世界でのブランディングのためにも重要と説く。世界の大型連休は分散しているため、需要を平準化できる可能性が高いとしている。さらに文化観光が強いため東京・京都・大阪などに外国人客が集中している点も指摘。自然観光のコンテンツとマーケティングを強化して地方訪問を目的とするインバウンド需要開拓が必要としている。
20年からのコロナ禍、22年のウクライナ侵攻と誰もがほとんど予想しなかったことが相次ぎ勃発している。ビジネスパーソンは仕事環境の変化への対応に加え、世界史的な視野を持っていることが欠かせない。
(松本治人)