日経メタバースプロジェクト

社会実装へ メタバース本格始動 2023年日経メタバースプロジェクト 第1回 未来委員会

データ活用 メタバース AR・VR

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インターネットに匹敵する社会インフラへのインパクトをもたらすと期待される仮想空間「メタバース」。イベントでの活用や新たなサービスの提供が始まるなど、利活用に向けた動きが活発化している。そんな中、日経メタバースコンソーシアムは2023年6月29日、2023年度の第1回未来委員会を開催した。メタバース空間を社会の新しいインフラへと成長させていくために、必要な枠組みや課題、基盤として求められる役割などについて意見を交換した。

持続可能な生活の新空間

メタバースとはインターネット上に存在する「3次元仮想空間」を指す。「Meta(メタ=高次・超越)」と「Universe(ユニバース=宇宙・世界)」を組み合わせた造語だ。アバターと呼ばれる自分の分身が仮想空間の中に入り込んで、他者とコミュニケーションをとったり、ゲームやイベントを楽しんだりする。将来的には仕事や経済活動を含め、生活の一部がメタバース空間上で行われるレベルまで普及すると期待されている。

日本経済新聞社は22年3月、持続可能なメタバース空間を構築し、メタバースが日本を代表する産業に発展することへの貢献を目的として、「日経メタバースプロジェクト」を始動した。同年3月と12月にはシンポジウムを開催。メタバースの現状や先進企業の取り組みなどを紹介した。またプロジェクトの推進母体である日経メタバースコンソーシアムでは、VR(仮想現実)の第一人者である広瀬通孝東京大学名誉教授を座長に迎え、ビジネス、行政、メディアなど各界から有識者を集めて、未来委員会を開催。メタバースの社会実装に向けて、普及に向けた整備状況、デジタルツインの活用、仮想空間における働き方などをテーマに議論してきた。

23年度も未来委員会やシンポジウムの開催などを通じて、メタバース定着に向けた課題や未来の在り方、関連技術の開発状況などについて、最新情報を発信。メタバースの普及を促進し、基盤としての定着を支援していく。

 

第1回未来委員会  ー電子世界の社会的基盤論とは?ー

新たな社会基盤となるか

活動の前提となる仕組み

――2023年度の未来委員会の年間テーマは何か。

広瀬 我々人類は技術を創出・発展させることで、狩猟社会から農耕社会、工業社会、情報社会へと社会を変革してきた。新たな社会へと進化するたびに、それ以前の社会変革を支えた技術を基盤化して利活用してきた。我々は今、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合した「Society5.0」へと進んでいる。そうした超スマート社会において、IT(情報技術)は基盤化され、利活用されていくだろう。

基盤とはあらゆる活動の前提となるもので、産業基盤、交通基盤、教育基盤、医療基盤、金融基盤など、様々なものがある。私は、基盤は安定が重要で、変数よりは定数がいいと思っている。しかしITは先端技術。変節が著しく、変化が価値という考え方を持つ人が支えている。そこでITの基盤化は、工夫が必要で、たとえばアフォーダンス(環境が人や動物に与える意味)理論における不変項(変化する視覚情報から明らかになる不変なもの)的な考え方で進めることが必要ではないか。またメタバースは活動空間なので、今後その中で行われる活動の前提となる基盤的な仕組みもつくる必要が出てくる。

そこでメタバースが新しい社会のインフラとして成長していく上で、電子世界における社会的基盤の役割や仕組みについて議論することが重要と考え、年間テーマを「メタバースは新しい社会の基盤となるか」と設定した。

――メタバースが社会基盤となる要件は。

田村 社会基盤とは誰もが使用できる土台となる仕組みであり、それがないと生活が成り立たないものだ。メタバースが基盤となり得るには、メタバースでのみ実施できる活動が確立される必要がある。例えば、自分が寝ている間にアバター(分身)がメタバース上で働いて稼いでくるといった状況が考えられる。将来的に複数のアバターを使い分けて行動させられるメタバース空間ができれば、メタバースは社会基盤となり得るだろう。またアバターを利用してコミュニケーションするオンライン空間がメタバースの前提となる場合、そこで活動する複数のアバターの管理を行い、さらにアバターの真正性を担保する仕組みが必要だ。

データの一元管理が不可欠

――政府はどのような議論を行っているか。

高村 4月に開かれたG7群馬高崎デジタル・技術大臣会合の閣僚宣言で、メタバースについて、「相互運用性やポータビリティー、持続可能性を考えながら、民主的価値に基づく信頼できる安全で安心な技術の使用を促進する必要がある」と言及した。この理念に基づいた国際的な共通認識の形成が必要と考えており、ITU-T(国際電気通信連合標準化部門)などで議論している。メタバースはサイバー空間なので国境がない。技術標準が決まっていないと、トラブルが頻発する恐れがある。日本でつくられたアバターが他の国では不敬罪に問われることもあり得る。

基盤化の議論で思い出すのが、放送のデジタル化。最初につくったデジタル放送方式は、20年後の今も全く変わっていない。基盤となる部分は簡単に変えるものでないと思う。一方番組制作などの周辺技術は格段に進歩した。メタバースの基盤技術は何か。マルチユースに堪えられる情報源符号化だろう。そうした基盤技術の上で、アバターを自由に活用できる世界が実現すれば、それは社会のインフラといえる。

――国土交通省主導のプロジェクト「プラトー」がデジタルインフラを名乗っている意義は何か。

内山 社会基盤について議論する際、アプリ層とデータ層に分けて考えることが必要だ。例えば、プラトーはデータ層の取り組みであり、アプリ層を下支えするインフラだ。データ層における基盤としての必要要件は「拡張性、相互接続性、ベンダーフリー、高品質」の4つ。プラトーは国際標準規格「CityGML」を採用し、4つの要件を満たしている。現在、国内約130都市を対象に約2万平方キロメートルのエリアをカバーしており、社会基盤と言える存在になったと考えている。昨年運用を始めた3D都市モデルの可視化環境「プラトービュー2.0」では、コンテンツ管理システム機能を持たせ、基盤としての機能を充実させた。

――コンテンツの制作サイドからみた基盤とは。

橋本 我々にとって、プラットフォームとはコンテンツを提供する場所。ゲームでいえば、プレイステーションやXボックス、ニンテンドースイッチといろいろあるが、ボーダーレスにつながる時代で差別化要因とはならない。さらにそれらはどんどん進化していく。その進化に合わせてコンテンツをつくると同時に、消費者にとって面白いものを提供することが制作サイドのミッションだ。メタバースが基盤であるとすれば、そこに登場する技術や課題に対して、どう他社よりもよいものを提供できるかがビジネスになる。また基盤という観点でいえば、ネットワークの安定性も重要だ。

変化を吸収するインフラ構築

――基盤としてのビジネス利用は進んでいるか。

田中 メタバースをツールではなく、様々な情報技術を活用するプラットフォームと捉える動きは一段と高まっている。ビジネス利用される基盤で重要なことは、オープンであることだ。拡張性や接続性の高さも欠かせない。産業メタバースでは、既に特定工場のデジタルツイン化から世界中に散らばる複数の工場をデジタルツイン化して動かす段階に入っている。例えば、ある自動車メーカーと共同で産業メタバース上に仮想工場を構築。世界中から製造ラインの検討スタッフなどが参加して、仮想工場内でワークテストを実行。検証結果を実際の作業フローへフィードバックして、生産性の向上につなげている。

――XR技術(拡張現実=AR、複合現実=MR、仮想現実=VRと呼ばれるメタバース関連技術の総称)の活用も広がってきたか。

宮川 今年2月にカンボジアのプノンペン日本人学校と徳島県上板町立高志小学校をつなぎ、XR技術を活用したメタバース空間でアバターを使って国際交流の実証実験を行った。またフランス国立図書館と共同で行っている未来型ミュージアムプロジェクトでは、デジタルアーカイブした作品を、XR技術によって空間アーカイブしたリアル展示会を東京で開催した。こうした実証実験を通じて、人と人とのコミュニケーションを加速させる可能性を探りながら、体験型プラットフォームとして事業化を目指している。

――3月7日に始まったαU metaverse(アルファユー メタバース)の狙いは何か。

天野 バーチャル渋谷やバーチャル大阪を舞台に、アバターで参加するメタバース・Web3サービスだ。アバターの衣装を着替えたり、部屋を模様替えしたり、ゲーム感覚で楽しめる仕組みとなっている。音楽ライブのチケットは非代替性トークン(NFT)を活用して提供した。より多くの人がこの新しい空間に定着してくれることを目指している。

いま変化を前提とする時代に突入している。冒頭広瀬先生から不変項という話があったが、基盤も変化を前提にした安定が必要になるかもしれない。実際、生成人工知能(AI)など、日々新しい技術が登場する現在、我々は常に学習してそれに合わせていくことが必須になっている。そうした変化を吸収できる不変の基盤が必要だろう。

――本日の総括を。

広瀬 社会基盤をテーマに、非常に幅広く多様な意見が聞けた。社会基盤であるからには、やはりより多くの人に使ってもらえることが重要で、そのために必要な要件がたくさんあるとわかった。技術の進化に社会の普及が追いつき、追い越していく。それが基盤化していくことなのだと改めて感じた。メタバースが社会基盤となるには何が必要か、それに必要な基盤的な仕組みについて、今後も議論を深めていきたい。

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