オフィスへ徐々に働き手が戻り始めているが、この3年間で広がったテレワークは日本でも根を張りつつある。「在宅で働くメリットを覚え込んだビジネスパーソンはテレワークを捨てられない。今後も出勤との併用が続く」と、リモートワーク研究所所長の八角嘉紘(ほすみ・よしひろ)氏はみる。『テレビ会議で顔を出せ! リモートワークの新常識45』(インプレス )を書いた八角氏に上手なテレワークのコツを教わった。
筋金入りのテレワーカーだ。そもそも八角氏が勤めるソニックガーデン(東京・世田谷)にはリアルな空間としての本社オフィスがない。2016年に完全なテレワーク体制に切り替えて、本社オフィスをなくした。現在は約50人の社員が籍を置くが、それぞれの居住地は20以上の都道府県に散らばっている。原則的に全員が自宅をベースに働いていて、八角氏も自宅のある千葉県成田市が仕事の拠点だ。
テレワークに関するコンサルティング、業務支援など、ソニックガーデンが提供してきたノウハウをこの本に詰め込んだ。日本でのテレワークは19年末に新型コロナウイルス感染症が広まり始めたのをきっかけに、一気に普及した。以前から必要性やメリットは知られていたが、なかなか導入が進まなかった。英国ではロンドン五輪をきっかけに広まったといわれ、日本でも20年東京五輪で弾みがつくと期待されていたが、その前にコロナ禍が襲った。
しかし、ソニックガーデンはずっと前の15年から、テレワークの課題解決サポート「Remotty」の提供をスタート。翌16年には総務省から「テレワーク先駆者百選」に選ばれている。リアル本社をなくして、社員全員がテレワークに切り替えたのもこの年だ。「いずれはテレワークが広まると予見していた。しかし、コロナ禍の前は国内企業の導入ペースが鈍く、コロナ禍以降、一気に導入が勢いづいた」と八角氏は振り返る。
導入があまりにも急だったせいもあって、テレワーク環境での働き方はまだ成熟していないところがある。職場ごとにルールや運用手順がまちまち。実際、いろいろな企業のオンライン会議をのぞいてみると、進行の段取りは様々だ。
テレワーク文化を一足早く練り上げた企業では、こなれた議事進行が根付いている一方、旧来のリアル対面式を踏襲したようなオンライン会議も珍しくない。「役職者を上座ポジションに迎えるような、旧来のしきたりを持ち込むのは、フラットに発言しやすいオンライン会議の強みを目減りさせてしまう。テレワークの導入を好機と捉えて、会議運営のしくみそのものを効率的な形に見直すのが望ましい」と、八角氏は脱・リアルを促す。