SDGsへの積極的な取り組みが評価され、商船三井は2022年、ダボス会議に招待された。橋本剛社長は脱炭素フォーラムなどに参加し、欧米の自動車会社、鉄鋼会社など、これまでなかなか会えなかった大企業のトップと直接対話する機会を持った。その後もオンライン会合などを重ねているといい、いずれは本業のビジネスに結びつく手応えを感じている。
連結売上高における海外比率が5割を超える日本企業は珍しくない。商船三井も2000年ごろから中国でのビジネスが増え始め、今やアジアが主戦場になっている。いずれはアフリカなどにビジネスの舞台は広がるだろう。原材料や資材、部品、完成した製品のグローバルな供給網の構築は、今や世界中の企業にとって共通課題。海運会社にとって大きなチャンスだ。
取引顧客だけでなく株主も海外に多く存在する日本企業は、グローバルなビジネスを拡大する過程でSDGsへの取り組みを一段と問われている。環境への対応はもちろん、法令遵守、企業統治、女性や外国人の活躍など、様々な面から評価される。SDGsへの対応はコストが発生する。このため、無理なく継続するためには、それが自社のビジネスにつながっており、相乗効果が見込める内容であれば導入しやすい。
商船三井は環境への負荷が小さい化石燃料の活用や風力を生かした船舶の開発、海外での植林事業などに取り組む。さらに外国人の人材派遣や社会的課題の解決を目指す新興企業への投資事業など一見、本業の海運事業と関係ないようなものまで、幅広く進めている。船員の大半を外国人が占める日本の海運業界にとって、海外人材の採用や教育は、本来の強みを生かせるビジネスだ。インドネシアなどアジアにおける植林事業は、ビジネスパートナーの国々への恩返しになる。
商船三井は、SDGsへの取り組みで海運業界の先頭に立っている自負がある。株式市場でも、株式の3分割や大幅増配、自社株買いなどで先陣を切った。SDGs対応も含めて、投資家からの評価という点で、商船三井は業界のリーディングカンパニーとして認知されつつある。
(編集委員 鈴木亮)
商船三井・橋本剛社長 地道な社会貢献で信頼築く
商船三井グループがSDGsへの取り組みを本格化した当初は、「2050年に温暖化ガスの排出を実質ゼロに」と言われても30年も先の話だし、自分が何をすればいいのかピンとこない社員もいたようです。そこで2022年、具体的な取り組み対象を掲げました。
1つが外国人材事業です。当社は船員の大半がフィリピン人やインド人です。現地メディアによると28歳までが人口の7割を占める若い国で、海外での働き口を求めています。日本は製造業や流通・小売業で人手不足です。海外の人材を育成し、企業に送り出すビジネスは、お互いにメリットが大きいです。
「MOL PLUS」と呼ぶ投資事業も期待できます。社会的な課題の解決を目指すスタートアップ企業を発掘、選別し、育てる事業を手掛けています。対象企業を探す過程で、社員たちは広い深い視野を身につけます。時には投資先の企業に出向し、経営を実体験します。人材の育成という面でも注目に値します。
商船三井は現在、年間約1000万トンの温暖化ガスを排出しています。段階的に減らしても、100万トンくらいはどうしても残る可能性があります。この分は排出枠取引などでカバーしてもいいのですが、世界で森林を増やす事業に貢献する方がいい。インドネシアでのマングローブ再生プロジェクトは、現地で高く評価されています。
これらのビジネスは、すぐに収益を生むわけではありません。地道に継続し、社会課題の解決に貢献している信頼できる会社だと、世界の人々に認知してもらうきっかけになります。その積み重ねが、海運市況に左右されない、安定した経営基盤の構築につながるのです。