フィンテックサミット2023特集

「アプリ×デビット」でリテールバンキング変革 トップランナーらが討論

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銀行のリテールバンキングにとって、スマートフォンは決済端末であるとともに、アプリが顧客接点として重要となる。海外では、デビット機能の銀行アプリへの統合で顧客のアプリへのアクセスを促し、ローンや投資商品など付加価値の高い商品のクロスセルを推進する金融機関が多数に上る。FIN/SUM2023では、日本国内でも注目され始めた「アプリ×デビット」に取り組むトップランナー3行のキーパーソンと金融庁、Visaが出席し、アプリ戦略や今後の狙いについて議論した。

 

出口 善也氏(ソニー銀行 商品企画部 部長)

多通貨デビットカード、外貨貯蓄も期待

「外貨決済の強化のためにマルチカレンシー(多通貨)デビットカードを発行しました。ためた外貨をそのまま使いたいというニーズに加え、使うために外貨をためるという逆の動きも期待しています。デビットとアプリは、日常での利用頻度が高く親和性が高い組み合わせであり、日常的な接点増、Everyday Bankingにつながっていくと思っています」

「デビット利用者は非利用者に比べアプリのログイン回数は4倍、残高も1.5倍〜3倍程度多くなっています。顧客優遇プログラムとして、住宅ローンや資産運用の残高に応じてキャッシュバック率を引き上げることで、アセットを積み上げていただいたお客様にフローでリターンを返し、日常利用と資産増加の好循環を狙っています。業容拡大と顧客エンゲージメントの両方を達成できると考えています」

「アプリの企画・開発のスピードアップが課題です。日々の機能追加や改善要望にスピーディーに対応するため、(短期間で検証や開発を繰り返す)アジャイル型開発への挑戦を考えています」

「今後の3つの目標としては、1つは利用履歴や外部データを活用してOne to oneのコミュニケーションのアプリでの実現、2つめはデビットの機能や口座開設プロセスのさらなる改善、3つめは外貨関連、特に日本人が多く渡航するアジアの国の通貨のさらなる進化を挙げています」

 

葛城 康喜氏(千葉銀行 カード事業部 部長)

顧客と地元店舗つなぐ地域エコシステム構築

「アプリとデビットはお客さまとつながる重要なインフラとして継続的にアップグレードしています。アプリは約90万ダウンロード、デビット会員は約30万人となり拡大中です。アプリのアクセス数は月7回程度、デビットのご利用は月8回程度で、お客さまとの接点として重要と考えています。アプリとデビットでお客さまとの接点を増やし、ご利用データに基づくパーソナライズした提案を拡大することで、お客さま中心のビジネスモデルを進化させることを目指しています。また、当行は銀行本体で加盟店事業も行っているため、地元加盟店のおトクな情報などを提供していくことで、アプリとデビットを通してお客さまと地元加盟店とを結ぶ地域エコシステムを構築したいと考えています」

「デビットをご利用いただいているお客さまは、ローンや投資信託など他の取引をしていただく傾向が強いこともデータで見えてきました。デビットをご利用いただいているお客さまは、10代・20代が多く、課題であった若年層のお取引拡大にも寄与しています」

「アプリとデビットを融合させたサービスを拡充させていくことは、課題と考えています。便利で使いやすいサービスを提供していくことで、口座をお持ちの方すべてに、デビットもアプリも使っていただきたいと考えています」

 

青山 武広氏(三井住友銀行 リテール・マーケティング部 副部長)

デビット、クレジット、ポイント払いを1枚のカードで

「顧客接点の重要性は、2000年代半ばからずっと取り組んできたテーマです。比較的少額の決済も取り込めるデビットであれば、銀行が起点となって顧客接点を作ることができると考えました。アプリのリニューアルを機に銀行口座とデビットを含む決済機能を統合しました」

「デビットとアプリを推進することはクロスセルや顧客のリテンション(引き留め)にプラスですが、デビット以外の要因も冷静に見る必要があります。ただ、デビットへの取り組みでマイナスになることはありません」

「デビットが十分認知されていない日本では、デビット機能が顧客獲得のアピールになりにくいのも課題です。発行銀行がもっと増えればさらなる認知向上につながると期待します」

「Visaデビットはリリースから6年半がたちますが、SMBCの口座をお持ちのお客様が使われるペイメントカードの中でトップクラスの利用者数となりました。新サービス『Olive』はデビット、クレジット、ポイント払いが1枚のカードででき、ロイヤルティープログラムも強化されています。決済情報、顧客データから、アプリによる資産形成のサポートやサービス改善に役立てていきたいです」

 

久米 均氏(金融庁 監督局銀行第一課 課長補佐)

アプリへのサービス集約は不可逆的な流れ

「デジタルシフトが進む中で、利用者との接点は多様化しており、アプリ戦略を考えるということはチャネル戦略、店舗戦略を考えるということでもあります」

「銀行サービスに限らず、スマートフォンの普及に伴うアプリ等へのサービス集約は、不可逆的な流れであるように思います。銀行も、リアル店舗で提供されていたサービスを置き換えるだけではなく、スマートフォンやアプリを使うから可能となる新しい価値の提供が大事なのだと思います。当局としては、各銀行の経営戦略や顧客のニーズに応じた利便性の高いサービスが安全に使われることが大事だと思います」

 

山田 望未氏(ビザ アジア太平洋地域 シニア・ディレクター デビット・プリペイド・ヘッド)

デビット利用者、アプリ利用率が高く銀行へのロイヤルティー向上

「アプリ×デビットで日常的に顧客と銀行の接点を作る海外の銀行においては、デビット利用者ほどその銀行をメインバンクとして使い、また様々な金融商品を保有しています。日本でもデビット利用者はアプリ利用率が高く、銀行へのロイヤルティーが向上しています」

「例えばシンガポールではデビットの決済データを基に投資商品の提案などのクロスセルが行われています。データ活用により消費者も支出状況の把握やアドバイザリーサービスを受けることができます。デビットを通じて顧客理解を深めOne to Oneマーケティングやクロスセルに生かすことで、銀行はより良い顧客体験を提供できます」

「日本ではキャッシュレスが身近になってきており、現金を引き出さなくてもシンプルな決済を行えるようになりました。今後一層、Visaデビット発行金融機関と協力し、日本のキャッシュレス社会を推進していきます」

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