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フェムテック、「わからなさ」普及の壁 動き出した企業 フェムテックでつくるウェルビーイングな働き方(下)

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女性の心身の課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」。従業員のウェルビーイング(心身の健康や幸福)が向上して生き生きと能力を発揮できるよう、企業の活用が広がっている。その普及の壁となるのが女性特有の健康課題の「わからなさ」だ。課題を解決するために動き出したスタートアップと大手企業の試みを取材した。

健康課題を抱える女性の動画を見て想像を巡らせる

「この人は多分、PMS(月経前症候群)じゃない?」「あーわかるわかる」「えっわかるの」。2023年1月、Zホールディングス傘下企業から人事部門やマネジメント層が参加して開催された従業員研修。グループワークとして、オフィスのワンシーンを再現した動画を視聴し、登場人物の女性がどんな心身のトラブルに困っていると思うか意見を出し合うと、あちこちからこんな声が上がった。

経済産業省が22年度に実施したフェムテックの実証事業では、女性の健康課題にかかわる製品やサービスのほか、企業の活用を後押しするプロジェクトも採択された。この研修もその1つで、女性のデリケートゾーンのケア用品を手がけるスタートアップ、陽と人(福島県国見町)が企画・運営した。

グループワークの最初に見る動画は5分間程度。様々な健康課題を抱える女性がオフィスで働いている様子を描いている。ただ、それが何の健康課題なのか、動画の中では明かされない。研修の参加者は登場人物のセリフや行動から推測するという趣向になっている。

「自分が想像もしていないトラブルや課題がこんなにあるんだ、と実感してもらうことがポイント」(陽と人の小林味愛代表取締役)。登場人物にはどういう背景があって、どんな課題を抱えているのか。グループで話し合ったうえで、参加者は「正解」となる解説動画を見る。グループの話し合いの時点では、正解を出すというより、想像を巡らせることに重点を置く。

解説動画を見て学習した後は、健康課題に対応するフェムテック製品の展示も見学する。展示は、フェムテックの専門店運営や企業の参入支援を手がけるfermata(東京・港)が協力。月経や妊活関連のアイテム、産後に緩みやすい骨盤底筋周りのトレーニンググッズなど様々なカテゴリーの製品をまんべんなく取り上げた。「実物が目の前にあると話しやすくなり、様々な課題があるという気付きのきっかけになる」(同社コミュニティリサーチ部の中川里菜氏)。研修の参加者はグループワークやフェムテック製品の見学を踏まえ、自社の女性の健康支援に向けたアクションプランを議論する。

アクティブラーニングの手法を活用

研修は22年12月〜23年2月に複数企業で実施。陽と人は大学と連携して効果を分析した。女性特有の不調に悩む人の働きづらさや、女性活躍の視点で健康支援をする意義、支援が生産性など経営に与える影響を理解していると答えた割合は、研修受講前は3割弱〜5割弱にとどまっていたが、受講後はいずれも9割を超える結果になった。

陽と人は21年度の経産省の実証事業で、女性の心と体の基礎知識を学べる冊子や講座を制作した。企業からは好評だったが、「では何に取り組めばいいのか」という声も多く寄せられた。実際に女性自身が健康課題の改善に踏み出したり、それを支援するために管理者らが自社に必要なアクションを考えたりできるよう、対話などを通じて主体的に学ぶアクティブラーニングの手法を活用した研修を開発した。

同社が展開する女性のデリケートゾーン用品も、女性がケアを通じて自分の体調を知る習慣につながることを目指し、継続して使えるよう3年かけて研究を重ね商品化したいきさつがある。「例えば福利厚生などで、女性が心身のトラブルなどを相談できる窓口を設けても、それだけではなかなか利用は進まない状況がある。女性の健康課題への認知や理解、職場のコミュニケーションなどを向上させることが欠かせない」と小林氏は指摘する。

健康課題の影響、「知らなった」「わからない」7割

経済産業省が実施した「働く女性の健康推進」に関する実態調査では、女性の健康課題が会社を休むことや生産性の低下につながることについて、全体の70%以上の回答者が「知らなかった」「わからない」と答えた。フェムテックの活用が広がり定着していくためには、男性だけでなく、女性自身も含め、いかにリテラシーを高められるかがカギを握る。

コニカミノルタは22年、月経や更年期についてオンラインで相談や診療、薬の処方などを受けられるサービスを試験導入した。同社は人事部と健康保険組合を一体的に運営し、従業員の健康度を高め十分にパフォーマンスを発揮できるようにすることを目指す「コラボヘルス」を推進している。女性向けにも婦人科検診の受診支援策などに取り組んできた。19年度には、定期健康診断で女性の健康課題による業務への影響についての問診をスタート。女性特有の症状や疾患によって、「業務を休んだことがある」と答えた割合が7割に上り、「生産性が低下したことがある」との回答も4割を超えた。

導入したサービスは、丸紅がヘルスケア関連企業などと設立したLIFEM(東京・新宿)が法人向けに提供しているもの。仕事が多忙な働く女性が受診しやすいよう、オンラインで月経や更年期についての診療や薬の処方を受けられるシステムのほか、全社員を対象にした事前の啓発セミナーや、効果を検証するアンケートの分析などがパッケージになっているのが特長だ。オンライン診療や薬の処方を受けた女性従業員に対する中間報告の調査では、業務のパフォーマンスや、不調による影響がある日数に改善が見られた。

コニカミノルタの健保が事前セミナーの告知をしたところ、健保が開催する通常のイベントの2倍となる700人超の応募があった。このうち4割が男性で、セミナーに参加した男性従業員からは、「専門家を通じて女性の健康課題を具体的に認識でき、職場でのコミュニケーションの取り方やさらなる雰囲気づくりなどに参考になった」といった声が寄せられた。コニカミノルタ健康保険組合兼人事部健康推進グループの渕上武彦氏は、「今回の導入は、男性社員もセミナーに参加することで職場の理解が深まるきっかけになることを狙っていた」と手応えを示す。今後は本格導入に向けてトライアルの効果を分析していく。「サービスの案内だけではなかなか理解しにくい。啓発セミナーと組み合わせて理解を深めてもらい、利用がどれだけ進むか、さらに調査していきたい」(渕上氏)という。

(若狭美緒)

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