ヒットの軌跡

「氷結」が変えたチューハイ界 おしゃれドリンクに進化 「キリン 氷結」(上)

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「パキパキッ」と音が鳴る缶の理由

「氷結」が缶チューハイの歴史を書き換えたもう一つの革新は、濃縮還元ではないストレート果汁を使った点だ。それまでの主流はコストや加工面でメリットのある濃縮還元タイプの果汁。しかし、加工プロセスで果汁本来の風味が損なわれがちだった。

「氷結」では従来イメージを覆す新商品にふさわしいフレッシュな味わいを意識して、「ストレート果汁だけが持つスッキリした味わいを前面に押し出した」(加藤氏)。「氷結」は「氷点凍結果汁」に由来する、製法を象徴する言葉だ。

第1弾は今でもツートップを張るレモンとグレープフルーツ。どちらも初代の缶には「フレッシュ」と書き添えていた。しかし、「氷結果汁」の表記は後に「果汁」を削った。果汁飲料との混同を避ける意味からだ。結果的に「果汁」を省いたことによって、「氷結」のブランド名が際立つ効果が生まれた。2010年からはレモンの缶に「シチリア産」を明記。フルーツの上質感をさらに印象付けている。

ストレート果汁の風味をうたいながらも、「べた甘いジュースっぽくしないのは、初代以来の伝統」(加藤氏)という。舌に残る人工的な甘さを避けつつ、シャープな果汁感を求めて試作を重ねた。23年3月製造品からのリニューアルでも、このコンセプトは受け継がれている。レモンの場合、しぼりたての華やかな香りとみずみずしい味わいに磨きをかけた。

「氷結」はパッケージ面でも独創的だ。缶の表面にダイヤ状の凸凹を施した「ダイヤカット缶」は19年に立体商標登録が認められた。立体商標は日本では例が少ない。クールな雰囲気のカラーリングも「氷結」のブランドイメージになっている。「冷涼感の高い、すっきりした飲み口を印象付ける狙いからブルーとシルバーの配色が選ばれた」(加藤氏)という。

缶を開けると、「パキパキッ」と音が鳴る仕掛けは五感を刺激する。氷が溶ける際の音にも似ていて、「冷たさや爽快感をイメージさせる効果がある」(加藤氏)。飲む前から涼やかな気分に誘われるこのパッケージに採用されているのは、折り紙の数理に基づく「ミウラ折り」のメカニズム。宇宙航空工学者の三浦公亮氏が考案し、宇宙衛星の太陽電池パネルにも用いられている。

ダイヤカット缶は東洋製罐とキリンが共同開発した。缶を開けると、音が鳴るのは、単なるギミックではなく、強度が上がる仕組みだ。最初は発泡酒用に用意されていたそうだ。しかし、「氷結」では内圧が異なるのに加え、「果汁に含まれるクエン酸の関係で、塗膜の成分や塗り方を変える必要があった」(加藤氏)。アルミ缶での実現にも課題があり、ベストの缶構造と塗膜を決めるまでには3年間を要したという。

ストレート果汁、ウオッカ、ダイヤカット缶という3つの革新をそろえて、「氷結」は登場した。20周年の21年には累計販売本数が160億本を突破。はやり廃りの激しいRTD分野で高い支持率を守り続ける「氷結」は今や「国民的缶チューハイ」と呼べる。新型コロナウイルス禍の下、閉塞感を伴う生活が続いたことも、消費者のリフレッシュニーズを高めたようだ。レモンやグレープフルーツの果汁感を生かした爽快な飲み口はそうした飲み手の気持ちに寄り添って、さらに支持を広げた。

 

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