缶チューハイの飲み手を広げたのは、2001年発売の「キリン 氷結」(以下、氷結)だ。それまでは「おじさん向け」のチープなイメージが強かった缶チューハイを一新。さわやかでフレッシュな開けてすぐそのまま飲めるアルコール飲料、RTD(ready to drink)の市場を開いた。缶チューハイの常識を打ち破って誕生した「氷結」の秘密に迫った。
チューハイはもともと「焼酎ハイボール」の略だ。焼酎の炭酸割りを意味する。居酒屋で飲まれてきた歴史があり、「おじさん」のイメージもそのあたりに由来するようだ。缶入り商品は1984年に宝酒造が売り出した「タカラcanチューハイ」が先駆け。3年後の87年には歌人・俵万智が第1歌集『サラダ記念日』で<「嫁さんになれよ」だなんて カンチューハイ二本で 言ってしまっていいの>と詠んでいる。
「氷結」の登場は「タカラcanチューハイ」の17年後だから、後発にあたる。既に99年発売の「スーパーチューハイ」でサントリーが足場を固めつつあった。一方、キリンビールは87年に「アサヒスーパードライ」が発売されたこともあって、圧倒的なシェアを誇ったビール市場での立場が揺らぎ始めていた時期にあたる。
「ビールに続く商品が求められていた。伸びていたチューハイ商品は魅力的だった」。「氷結」のブランドマネージャーを務める、キリンビールマーケティング部RTDカテゴリー戦略担当の加藤麻里子主査はキリンが缶チューハイに進出を決めた当時の状況をふり返る。
後発の立場だけに、先行商品との違いを出すチャレンジが必要だった。グループ内から集められた開発メンバーが狙ったのは、市場を盛り上げ、消費者が驚くような新発想の商品づくりだった。それまでの缶チューハイは焼酎由来のアルコール感が強めで、中高年向けの印象が強く、「女性が手に取りづらい雰囲気もあった」(加藤氏)。こうした従来型缶チューハイのありようを書き換えるかのように、「氷結」ではコンセプトが練り上げられていった。
スピリッツの面で画期的だったのは、焼酎を使わなかったところだ。「チューハイ」のカテゴリーでありながら、焼酎を使わないのはコロンブスの卵的な試み。奇をてらったわけではない。「ストレート果汁の味わいを伝えるには、癖や雑味がないウオッカが最良の選択だった」(加藤氏)。ウオッカ特有のクリアな風味は冷涼感を引き出す上でも絶好のパートナーだった。各社が追随して、今に至る「ウオッカベースの缶チューハイ」はここから始まったといえる。